蠅の王(ウィリアム・ゴールディング)読書感想文
「集団の狂気」をみごとに描いている。
合理的かつ民主的な方法で無人島生活をやり過ごそうとする主人公ラルフとピギーに対し、 戦化粧を施し、「<獣>を殺せ! 喉を切れ! 血を流せ!」と歌い踊り狂うジャックを中心とした大多数の少年たち。彼らは、本来仲間であるはずのラルフたちに襲い掛かる。
正体不明の恐怖。カリスマ的なリーダー。戦化粧や歌と踊りによる高揚感。そして報酬(この物語では豚肉)。これらの素材が揃うと、集団はいとも簡単に洗脳できてしまう。これって最近起きて、そして起き続けている現象と似ていませんか?
正体不明の殺人ウイルス。尾身氏を筆頭とする“専門家”たち。マスクで顔を隠すことによる集団への埋没感。「思いやり」や「利他的であれ」という言葉で集団の意志を統一し、色々なことを我慢したご褒美として無料のワクチン接種と、医療機関へはお金そのもの。
「蠅の王」は決して無人島という極限状態だけの話ではなく。人間が社会的な生き物である限り、未来永劫にわたって繰り返される、背く事の出来ない運命ではないだろうか。
陰鬱で、深く考えさせられる話であるにもかかわらず、ストーリー展開はシンプルで文章も平易なので、わりとスラスラ読めました。