「月と六ペンス」読書感想文
著者
サマセット・モーム(1874~1965)
3月17日読み始め3月24日読了。
訳者
金原 瑞人
あらすじ
人生の半ばを過ぎて、突如家庭や仕事を捨て、絵を描くことのみに邁進し始めた男、ストリックランド。そして、腐れ縁のような形で彼にかかわっていく“わたし”。人間としては下劣極まりないストリックランドに何度も辟易する“わたし”だが、同時に彼の人間としての魅力にもはまっていく。
印象に残った人物
ブランチ。お人好しのオランダ人画家ストルーヴェの妻。男としての魅力に決定的に欠けたストルーヴェに、とある理由で負い目を感じながら(だからこそ)貞淑な妻を演じ続けていたが、ストリックランドの出現でそれが見事に壊される。壊された、いや、自ら壊したブランチの“心の影”が、この物語の(決して主題ではないものの)大きなアクセントになっている。
あと、そこはかとなくエロいのがいい。
感想
絵を描くことが全てのストリックランド。彼にバカにされながらも彼の才能に惚れ、あれこれと身の回りの世話をするオランダ人画家ストルーヴェ。そしてストルーヴェの妻で、ストリックランドに夢中になってしまったブランチ。彼らを作家としての目を通じて観察し、深く関わっていく“私”。
この四者、ベクトルは違うんだけど、皆熱いハートの持ち主。最初は彼らの感情と感情がぶつかり合うんだけど、結局皆、ストリックランドという強烈すぎる人間(というか生物)に巻き込まれていく。ストリックランドはそう、鳴門の大渦潮のような存在なのだ!!
印象に残っている場面が二つあった。一つは、ストルーヴェが亡くなったブランチの面影を、かつて共に住んだ部屋に思い浮かべるときの描写。「ブランチブランチ」と泣き叫ぶストルーヴェの可哀そうなことと言ったらもう……。
もう一つは、タヒチに移り住んだストリックランドと友人になったブリュノ船長が、森の奥深くにあるストリックランドの住まいで、二人で過ごした夜の森を語る場面。以下引用します。
パウモトゥというのはブリュノ船長が滞在している島で、この引用部分の大半は、パウモトゥの夜の描写である。ガサゴソと生き物の気配がしたり波の音が聞こえたりはするものの、それでも都会に比べればかなり静かな環境だということがわかる(少なくとも、不快な音ではない)。それが後半のストリックランドの住まいの描写では一転する。「音がなかった」と。その代わり、花の香りと、感覚の神秘性が語られる。そして、面白いことに、それでなんとなくその情景が分かってしまう。
美しいというか怖いというか、なんかもの凄いシーンだなと思って、何度も読み返してしまいました。
この「月と六ペンス」という作品は、題名からしてなんとなくオシャレな雰囲気があって、会話なんかも軽妙でかっこよくて、その上文章が読みやすいから、一見軽い小説のように感じるんだけど、こういう神がかり的な描写がちょこちょこあったりして、それが作品に深みを与えているような気がする。まあ、だからこそ、世界中で何年も読み継がれているのだよなあ。
なんか、本当に良かった。ちょっと倒錯してるけど、いい世界に触れたという実感の残る作品でした。
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