高い案件マネジメント能力で民間企業の海外展開を支援【日本国際協力システム(JICS)援助をカタチに】
「J・Partner」を通し独自の民間連携事業にも注力
調達代理機関として活動領域を広げる(一財)日本国際協力システム(JICS)。長年取り組んできた民間連携分野でも、これまでの業務で培ってきたノウハウとネットワークを背景に国内で、そして開発途上国で活発な取り組みが続いている。その内容を追ってみた
サービスの多角化
日本を代表する調達代理機関であるJICS は、今年4月、設立から35 周年を迎える。この間、政府開発援助(ODA)を主体に150 カ国以上で業務展開しており、そこで培ったノウハウや国際的なネットワーク、地域・国に関する知見は豊富だ。さらに、開発途上国の要請に基づいた調達品目、すなわち多様な資機材(製品)、技術などの知識も着実に積み上げてきており、職員はいずれも“目利き”が揃っている。英語に加え、西語、仏語などにも堪能な職員が多いのも強みの一つだ。
全国の中小・中堅企業など海外展開を目指す民間企業には、JICSの専門性は強い戦力になるはずだ。
ODA を活用する形で国際協力機構(JICA)の民間企業海外展開支援が始まったのは2013 年。JICS も当初からこの支援制度に注目し、「外部人材」として参画。企業の海外進出をサポートする「J・Partner」の運営に努めながら着々と実績を上げてきた。
民間連携分野を担当する新規事業開拓室の大島正裕室長は「JICAの支援制度は非常にテンポが良く、私たちも年度ごとに2件、3件とコンスタントに参画することができた。ただ、これからは他の公的支援スキームの活用や独自の民間企業支援にも注力していきたい」と話す。業務の「多角化」は、外部人材としてJICA 支援事業で経験を積み上げ、民間連携分野の“実践的なコツ”に磨きをかけられたこと、そして2年前にJICAが行った試行的制度改編などが契機になっているようだ。
JICA の制度改編により、外部人材としての参画の裾野は大幅に狭くなったことから、公的支援スキーム活用の多角化に加え、独自サービスのJ・Partner などによる直接的な企業支援にシフト。実績も積み上がりつつある。
制度改編に左右されず、うまく対応できているのは、それ以前にいくつかの経験・実績があったからだ。例えば、2018 年~19 年には総務省からの受託事業としてペルーの日系人社会向けにICT を活用した日本語ツールの実証調査と実証事業を実施。また、2018 年には日本貿易振興機構(JETRO)の「日ASEAN 新産業創出実証事業」で採択されたスタートアップ企業、インスタリム(株)を支援。このケースでは、調達代理業務で豊富な経験を持つベテラン職員を同社に派遣し、経営のバックオフィス業務を行うなど、斬新なサービスを展開した。直近の大きなトピックは、経済産業省の補助金事業である「新興国DX 等新規事業創造推進支援事業費補助金」の事務局業務を受託したことだ。
この事業は、南西アジアやJICSが得意とする中南米、島嶼国地域においてデジタル・トランスフォーメーション(DX)などイノベーティブな手法により、社会・開発課題の解決を目指す日本企業と新興国企業などとの「共創」を促進するため、実証やフィージビリティ調査(F/S)、人材育成などの支援を行うものだ。JICS は事務局として2023 年3月から2度の公募・審査・選定・事業進捗管理など一連の業務の促進に当たった。民間連携に詳しいJICS業務第三部の岡村卓司部長は「さまざまな課題解決を目指す日本企業と現地企業をつなぎ、その協働によって課題の解決、そして日本企業の海外進出を後押しする事業。インテグレーターとしてのJICS 機能が発揮される領域であり、他にもチャンスがあれば今後も挑戦していきたい」と強調する。
ちなみに同補助金事業では南西アジア対象12 社、中南米対象10 社、島嶼国地域対象3社の計25 社の事業をサポートしている。
基礎学力検定の導入支援
一方、日本の教育関連企業から相談を受け、現在順調に進展しているのが「基礎学力検定」の海外への普及支援事業だ。検定は同企業が開発・運営にあたっているもので、JICSは2023 年初めからインテグレーターとしてボリビアの政府機関に検定試験の導入を働きかけた。
新規事業開拓室長の大島氏、室長補佐の八尾友樹氏はいずれも西語が堪能で、ボリビアは業務経験が豊富な国。政府機関関係者とのネットワークも広いだけに、同年9月にはボリビア開発企画省傘下の教育評価機関(OPCE)が検定の導入を決定。児童一人ひとりの基礎学力の可視化と現状の詳細な把握、さらにその底上げを目的としたMOU(協力覚書)がOPCE と企業との間で結ばれた。
大島氏によると、2023 年11月にはボリビア国内千数百校の生徒数万人が基礎学力検定を受検したという。同国関係者は、検定の普及が教育レベルの全体的な底上げを実現し、科学技術の向上などさまざまな開発課題の解決につながることに期待を寄せている。
制度が改編されたJICA 中小企業・SDGs ビジネス支援事業では、昨年3月に採択されたエクアドル「カカオ高付加価値化のためのトレーサビリティプリンティングシステム普及・実証・ビジネス化事業」が継続中で、2020 年の案件化調査から引き続き、外部人材として支援サービスを実施している。JICS では最後まで企業に伴走し、支援を続ける方向だ。
海外営業の即戦力
新規事業開拓室の大島、八尾の両氏は中南米地域に専門性を持つことから、これまで中南米重視の支援方針がとられていたが、今後はローカルスタッフら現地に人的リソースを有する国・地域にも対応エリアを広げていく考えだ。JICS の強みは、調達代理業務で鍛え上げられた経験と人材、そして世界中に根を張るネットワーク。特に人材については高い語学力に加え、貿易・契約実務などはもちろん、プロジェクト全体をマネジメントする能力に長けている。海外人材の確保に苦労している中小企業にとっては、まさに海外営業の“即戦力”になるはずだ。
前出の岡村部長は「民間連携分野は、まだJICS 事業の大きな柱にはなっていない。参画できる領域を地道に開拓し、実績をさらに積み上げていきたい」と話す。調査や実証にとどまらず、その次のステージを切り開いていくという。JICS の今後に注目していきたい。
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本記事は国際開発ジャーナル2024年3月号に掲載されています
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