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【ササカワ・アフリカ財団】アフリカ連合主催のアフリカ肥料・土壌健全性サミット開催

アフリカの農業生産拡大のボトルネックにフォーカス

            ササカワ・アフリカ財団 理事長 北中 真人氏


サミット開催の背景と議論

 5月7~9日にアフリカ肥料・土壌健全性サミットがナイロビで開催され、9人の国家元首や農業大臣を含む閣僚、国際機関、アフリカ開発銀行、民間セクターなどから、4000人を超える関係者が集いました。日本からの参加団体が極めて限られていた中、ササカワ・アフリカ財団(SAA)では現地で公式サイドイベントを開催し、ブース出展を行いました。本サミットは2006年の第1回アフリカ肥料サミットで採択された「アブジャ宣言」、2014年のアフリカ連合(AU)サミットで採択された「マラボ宣言」の流れを受けています。幅広い農業の課題の中で今回、「肥料と土壌の健全性」というテーマが掲げられたことは、肥料と土壌劣化の問題がアフリカにとって極めて大きな課題と認識されている表れです。
 会議では、アブジャ宣言で目標値に掲げた50kg/haの化学肥料投入が多くの国で達成できていない現状(2022年平均18kg/ha)に対し、化学肥料のさらなる投入の必要性が強調されました。しかし、世界的な価格高騰を受け、アフリカでも肥料価格が3倍近くに上がっている現状を踏まえればその主張
はやや実現性に欠き、土壌の健全性との両立の面でもバランスが悪い印象を受けます。一方、会場で開催された各サイドイベントでは、その両立を試みる議論が活発に交わされ、新しい有機肥料の紹介や保全農業の推進をテーマとしたセミナーで賑わっていました。
 会期中、農業発展の成功例として注目されたのがエチオピアです。同国はマラボ宣言が掲げる農業セクターへの投資に国家予算の10%以上を充てることを唯一達成しており、この達成がメイズ生産量3倍増をはじめ、農業発展へ繋がるカギだったという天然資源省次官の主張には説得力がありました。エチオピア政府は1990年代にSAAの農業普及モデルを採用し、普及員約6万人という世界最大規模の公的農業普及システムを構築しており、今日の農業発展の一因と考えられます。

SAA東京本部及び各国事務所の所長らが参加
本会議場の様子

ナイロビ宣言採択

 サミットの最終日、「ナイロビ宣言」が採択されました。今後、同時に発表されたアフリカ土壌イニシアティブ(Soil Initiative for Africa)に基づき、専門委員会での検討を踏まえ、2025年11月までに10カ年行動計画が策定される予定です(第1フェーズ)。同行動計画は、アフリカ主導で国、地域、大陸の3レベルで2034年まで実施される計画であり、国レベルは各国が、地域レベルは各地域の経済委員会が、そして大陸レベルはAUがリードする方向です(第2フェーズ)。行動計画の骨子は以下の4点となります。SAAがこれまでアフリカで取り組んできた農業普及、人材育成の重要性も成果4で謳われています。
成果1:持続可能な土壌健全性と肥料管理のための政策・投資・金融及び
    市場の改善
成果2:有機・鉱物肥料の入手しやすさと買いやすさの改善
成果3:有機・鉱物肥料投入の効率性・回復力・持続可能性の向上、土壌
    健全性維持の強化
成果4:持続可能な土壌健全性と肥料管理のための制度的・人的能力の強化
 アフリカの土壌問題を考察する上で重要なのは、アフリカでは化学肥料の投入量が絶対的に少ないため、先進国の文脈では議論できないということです。また、肥料を投入してもすぐに流亡してしまうという物理的・化学的・生物的な土壌劣化という課題も併存します。このアフリカ土壌イニシアティブでは、気候変動下における問題解決として、ランドスケープ・レベル(流域単位)の取組が掲げられ、衛星の活用なども示唆されています。また、肥料生産を輸入ではなく域内で賄う方針も示され、効率的な小規模肥料プラントの設置も視野に入っています。
 近年、土壌微生物学が注目されていますが、アフリカでは専門家が極めて不足しています。長年土壌劣化が指摘されてきたにもかかわらず、問題に手をつけられなかったのも人材不足が背景にあり、この機会に改めて現実的な対応が求められます。

SAAサイドイベントで挨拶するSAAオニアンゴ名誉顧問
展示ブースにて事業説明をするSAAスタッフ

今後の課題

 10カ年行動計画では、アフリカ内外の関係者がコミットできる、より具体的な計画が求められます。2025年8月には横浜でTICAD 9が開催されますが、その際には日本も本サミットを踏まえたアクションを取ることで、プレゼンスを高めることができると期待します。

アフリカ肥料・土壌健全性サミットの情報は、以下の「SAAニュース」からも確認できます。


本記事掲載誌のご案内

本記事は国際開発ジャーナル2024年7月号に掲載されています。
(電子版はこちらから

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