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インテムコンサルティング(株)創業30周年&新社長就任インタビュー【教育・医療分野と水産分野の強みを発揮し世界に貢献】

今年4月1日付けでインテムコンサルティングの新社長に岡本明広氏が就任した。創立30周年を迎え、人材育成、水産振興、保健医療など幅広い分野で国際協力プロジェクトを実施する同社の岡本社長に今後の事業戦略や抱負について聞いた。

代表取締役社長 岡本 明広氏
産業能率大学卒業。専門商社に勤務していた1994年頃に、ラオスでインテムコンサルティング(株)の2代目社長であった土井保道氏と出会い、2000年に同社へ入社。 計画調査部部長、専務取締役を経て23年4月より現職


Interview

医療実務人材でソフトも展望

― 新社長就任おめでとうございます。今後の目標について教えてください。
 
当社は2022年からの第6次中期経営計画で“ポスト・コロナ下での力強い回復”をテーマに事業に取り組んできた。そして2022 年の売上は9.5億円、付加価値額 5.7億円と過去最高額を記録した。この10年間で売上は倍増したことになる。今後も、開発コンサルティング業界の主要アクターとして活躍の場を広げていきたい。そのため、これまで培ってきた経験をバネに、柔軟な発想と提案力で開発途上国のパートナーとともに課題にひとつずつ取り組む所存だ。
 地域的には昨今の国際援助の主戦場として再浮上しているアフリカ地域や、中央アジア地域での案件が増えており、当社の新たな強みになると期待している。 これまで、求められている場所には世界中どこでも飛んでいくというスタンスで業務を行ってきた。それは 今後も変わらない。

― 保健医療機材整備に関する無償資金協力や、水産分野の技術協カプロジェクトで、大きな存在感をこれまで発揮しています。今後の展望は。
 
確かに、こうした分野での事業は引き続き当社の重要な柱であり続ける。無償資金協力案件における当社の強みは、調査終了後に自らが計画立案したプロジェクトの実施 (実施設計・調達監理業務)を担当できることだ。主体となるのは当社の計画調査部である。実施は相手国政府機関とコンサルタント契約を締結して行うが、一筋縄ではいかない相手国政府との交渉や、機材調達を担当する日本の商社との折衝が必須だ。それら業務を遂行する中で機材コンサルとしての経験・体力を培ってきた。機材設計に伴う事業費積算においては見積書や技術資料の取付けを愚直に行い、機材メーカーとも良好な関係を築いてきた。これらは大きな財産で、他社が簡単には追随できないノウハウを身に付けている。昨今、機材計画を専門とするコンサルの数は少ない。引き続き機材単独案件、施設・機材の複合案件などで強みを発揮できると考える。
 そうした強みを今後も生かしていく一方で、同分野では新たな挑戦も行う。狙っているのが保健医療分野の技術協力プロジェクトの受注だ。ここ数年、当社は看護師、臨床工学技士などの資格を持つ専門性の高い社員を採用してきた。無償資金協力で培ってきたノウハウに加え、医療現場の実務経験のある人材を増やしたことでハード・ソフトの両面から総合的 にプロジェクトを実施することが可能な体制が整いつつある。なお、ハード分野でも、今後は有償案件への参入の機会も狙っていきたい。

水産+社会開発系技プロに期待

― 水産分野はどうですか。
 水産分野の技術協力は設立以来、前社長 (三代目)の土居正典が中心となり養殖分野の調査、アドバイザー業務、 技術協力プロジェクトの実績を積み上げてきた。現在、当社の自然環境部では、養殖、漁業、水産資源管理、水域環境保全、水産バリューチェーン開発など水産全体をカバーする体制に拡充されており、水産分野のコンサルタントのトップグループの一角を占めている。今後もその知見を生かしていく。
 狙うのは政府開発援助(ODA)だけではない。 例えば国内事業としての水産エコラベルにかかるコンサルティングを行なったり、環境省の補助金事業で「People, Wetlands, Wildlife (人と湿地と生きものたち)」の英語版ウェブサイト制作 (https:// pwwj.org/) を行うなど、新規事業にも取り組んでいる。ウェブサイトでは日本の豊かな自然と生物 多様性、野生動物の魅力を紹介している。NGOと連携してCSR 事業として実施したものであり、今後インバウンド需要とリンクするなど新たなビジネスにつながることも期待している。
 今後は保健医療や水産・環境に加えて、社会開発部が担当している教育・人材育成分野やジェンダー分野、平和構築支援などの技術協力案件にも注力していきたい。この分野はソフト系の開発コンサルタント同士の競争が激しいが、直近では「アフリカ地域サヘル諸国及び周辺国における若年層雇用に係る情報収集・確認調査」 や「スリランカ国起業とビジネス、 リーダーシップ及びネットワークの強化を通じた女性の経済的エンパワメント促進プロジェクト」など元請での案件受注に成功し、経験豊富なシニア社員と若手社員とがチームを組み、新規案件にチャレンジする体制が構築されつつある。
さらに、ウクライナ戦争が勃発したり、自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)が推進されたりする中、今後、安全保障や国際秩序構築に関連したODAの効果的な活用がますます重視されると予想している。当社は現在、ウクライナへの緊急復旧支援において避難民の子どもに教育機会を提供する遠隔教育機材整備にも携わっている。今後も紛争国などにおける人道支援や平和構築支援には積極的に参画し、世界に貢献していきたい。

進む社内人材育成

― 求める社員像や採用について教えてください。
 専門性を身につけ磨くことは重要だが、守備範囲を狭めることなく貪欲にチャンスを掴み取り、自らの仕事の幅を広げることのできる人材を求めている。また、仕事の質を高める意識を常に持ち、顧客の期待を上回るパフォーマンスを出す意気込みが欲しい。
 私は、社員の成長と公私両面の充実が社業の成功と発展に通じると考える。社員にとって働きやすい環境を提供するとともに、一人ひとりの自己実現を応援する場でありたい。社員数は2012年当時と比べると現在倍増して約50人となった。女性社員の割合もここ4、5年で4割超となり、2021年には女性の活躍を推進している企業に与えられる「えるぼし認定」を受けた。
 社員の採用に関しても、以前は100%中途採用だったが、ここ数年は若手の人材育成を進めるため大学院新卒者の採用も行っている。20代から30代前半の若手社員が増えており、人材育成が課題だ。これからは社内に蓄積された「暗黙知」を見える化し、社員教育に生かしていきたい。


インテムコンサルティング(株)の主要プロジェクト紹介

保健、医療分野

当社の柱のひとつである医療機材案件。 現地のニーズに合致した医療機材の基本設計と それらの調達監理にかかるコンサルティングサービスを提供。

パレスチナ:パレスチナ医療機材整備計画

対象病院での既存機材調査の様子

 パレスチナでは近年、非感染性疾患 (Non-Communicable Diseases;;NCDs)が増加しているが、機材の不足により適切な医療サービスを供給できていない。特にガザ地区は人や物の出入りがイスラエル側に厳しく制限されていることから、域内での医療サービス向上は喫緊の課題となっている。
 本案件では、パレスチナの西岸地区、ガザ地区にある対象4病院に対し、MRI、CTスキャン、血管造影撮影装置、X線撮影装置などの医療機材を供与する。現在は機材調達を開始するタイミングで、2024年中旬頃の完工を目指している。

教育機材分野

ICT機器を活用した遠隔教育機材整備で、感染症対策や災害時のツールとして有効だけではなく、個別最適な質の高い学びの実現にも貢献。

全世界:遠隔教育機材等整備に係る情報収集確認調査 / ウクライナ緊急復旧計画

Digital Learning Center(DLC)の授業風景

 新型コロナの流行により、ハイブリッド型(通学+自宅学習)の遠隔教育が急速に拡大した。また遠隔教育機材整備は災害時の対応や地域間格差是正の観点からも有効であり、世界 各国でニーズが高まっている。本調査ではエルサルバドル、パレスチナなど11カ国・地域にて、 迅速な案件形成に係る情報収集・確認調査を実施した。また本調査ではウクライナ緊急支援が付加された。具体的にはウクライナ国内の数十カ所以上のDigital Learning Center (DLC)ヘラップトップPC、タブレットなどの遠隔教育機材や発電機を供与することにより、子どもが安全に学ぶ場所の充実を図り、子どもの学習継続支援を目指すものである。

水產分野

未開発国での技術開発・普及ならびに人材育成を通して養殖振興を支援。 雇用創出、そして良質な動物性タンパク供給による栄養改善、食糧増産に貢献。

ベナン:内水面養殖普及プロジェクト (フェーズ1および2)

弊社社員(専門家) によるナマズ養殖の技術指導

 海岸線が約125kmと短いペナンでは、漁業開発による水産物生産量の増加余地は限られ、 内水面養殖振興による水産開発が政府の優先課題であった。本プロジェクトでは、行政過度に依存しない民間ペースの農民間普及アプローチや養殖技術開発を行い、2010年から 2014年に実施されたフェーズ1プロジェクトでは養殖家数を2.5倍、養殖生産量を3倍に増加 するという成果を上げた。2017年より実施中のフェーズ2ではペナン国内における養殖普及を更に拡大させるとともに、広域プロジェクトとして中西部アフリカ 6カ国にも同アプローチの普及を図っている。

産業人材育成分野

産業人材のボトルネックを調査し、民間企業とともに若者が即戦力となる スキルトレーニングの実施、訓練モデルの構築に貢献。

タンザニア:産業人材育成にかかる情報収集・確認調査

実証訓練の風景(ハイブリッドカーの整備)
※日系企業から訓練プログラムの作成支援、 講師派遣の協力を得て実施

 タンザニアは、経済変革と人材育成による産業化促進を重視し、若者の非正規雇用や失業 率の低下を課題としている。また、職業訓練機関が育成する人材と産業界で求める人材ニーズとのギャップも大きい。本調査では、雇用の受け皿として効果が高いとされる食品加工、 自動車整備 電機分野の各企業及び職業訓練機関への調査を行い、地域産業に必要な人材の スキルや資質などを分析した。
 調査結果を踏まえ、日系の自動車整備企業と連携し、現場で必要なスキル、5Sカイゼンなどのソフトスキル、仕事への心構えを含む訓練プログラムを設計し、その実証訓練を進めながら今後活用可能な訓練モデル案を確立した。


本記事掲載誌のご案内

本記事は国際開発ジャーナル4月号に掲載されています。
(電子書籍版はこちらから)

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