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【創立75周年を迎える国際航業(株)】「地球を見る」を原点に未来に引き継ぐ世界をつくる

航空写真測量のパイオニアであり、長年にわたり空間情報技術を社会インフラや防災などに生かしてきた総合コンサルタント企業、国際航業(株)が2022年9月に創立75周年を迎える。空間情報技術のリーディングカンパニーとして躍進する同社の土方聡社長に国際航業の歴史と現状、そして今後の展望について聞いた。


国際航業(株)代表取締役社長 土方 聡氏



戦後復興に航空測量で貢献

 当社は、戦後間もない1947 年に空港施設の不動産管理業からスタートした。その後復興に必要な航空写真測量へと事業展開して国土再建に乗り出し、今日に至る技術の素地を築いた。そして、国土基本図作成事業による事業規模拡大に続き、地質調査、土木・建設コンサルティング、海洋調査など
の分野へと業務領域を広げた。
 当社の業務は「地球を見る」ことが原点だ。確かな目で地域を正しく理解したうえで、その地域で最も相応しい人々の暮らしや営みを提案する姿勢を貫いてきた。

総合コンサルタントへ成長

 円の変動相場制への移行、1974年の国際協力事業団(現・国際協力機構(JICA)) の設立を機に、政府開発援助(ODA)の分野にシフトした。JICA からの各国の基本図作成の発注に対し、当社は地図作りという本業でODA 業務の地盤を固めることができた。例えばギニアでの地図作成事業は、ODA史上最大の測量プロジェクトといえるほど大規模かつ困難な事業で、その成功はNHKの番組、「プロジェクトX」でも取り上げられた。
 85 年頃からは、JICA の測量分野以外の開発調査業務を実施する体制を確立してきた。具体的には、地質調査技術や衛星写真の判読技術を生かした地下水開発調査や森林調査を手掛かりに、防災、水環境、生物多様性保全、廃棄物管理、農業、再生可能エネルギーなどへ分野を広げた。徐々に資金協力分野の業務も実績を重ね、今では実施段階まで総合的なサービスを提供できる体制となっている。

UNGC 加盟とSBTi 認定

 現在、日本ODA の予算規模はピーク時から半減した。持続可能な開発目標(SDGs)の採択に見られるように国際協力の潮流も大規模インフラを主軸としたものから、環境への影響に配慮したもの、一人ひとりの生活の安全保障や能力開発に資するものへ方向転換がなされている。
 こうした中、当社は国連グローバル・コンパクト(UNGC)に加盟した。当社会長はそのボードメンバーに、私自身は国連防災機関(UNDRR)の民間セクターグループ「ARISE」の理事に就任するなど、社会の一員としての企業責任を自覚し、社会的価値を生み出す企業活動へと舵を切った。
 また、昨年、当社グループ全体の温室効果ガスの削減目標が「SBTi」認定を受けた。これは世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1.5 度に抑えることを目指す国際的枠組みだ。例えば、テレワーク推進を通じて社員の通勤で排出する二酸化炭素(CO2)量を削減している。さらなるエネルギー効率を追求する業務改革を進め、協力企業への働きかけも積極的に推進する。

SDGs への国内外での貢献例

 当社の国際協力分野の業務は、地下水開発による安全な水へのアクセスの確保、廃棄物の適切なリサイクルによる資源の有効利用、植林や森林行政組織の強化を通じた森林保全など、SDGs や気候変動対策に密接に関わっている。
 当社はリモートセンシング技術を駆使して、相手国政府の森林モニタリング能力の向上や、現地の人々の目線に立った実現可能な対策の実施に成果を上げている。これは森林破壊と温暖化を防止するために創設された国際的な仕組み「REDD プラス」にも貢献する。
 また、防災分野は国内外問わず当社の得意分野だ。中でも斜面防災は、斜面崩壊の的確な原因分析に裏付けられた最適な対策工法の提案と技術移転をブータン、インド、ボリビアなどで行い、気候変動への適応力向上に貢献している。
 国内でも、慶應義塾大学や法政大学などと連携し、地方自治体におけるSDGs の取り組み・達成度を可視化するプロジェクトにも参画している。

DEI で見直す人材育成

 コロナ禍は、ODA 業界において経験のない困難をもたらした。当初は渡航再開の目途が立たず、不安を覚えたが、「ODA 業務を止めない」という外務省とJICAの強い意向に応えるべく、当社はグッドプラクティスの集約や分析、オンライン研修の実施、遠隔研修用ビデオの作成などによりプロジェクト目標の達成に努めた。
 海外コンサルティング部では、特別社員制度や社内の座席を固定しないフリーアドレス制を設けて、以前から社員が遠隔にいることを前提とした働き方に移行しつつあったため、比較的柔軟にプロジェクトの遠隔実施に対応できたと思う。
 海外渡航が困難であったため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化」対策で発注が順調な国内の業務に携わってもらった社員も多く、幸いにして社内交流が活性化した面もある。
 当社スタッフは、これまで挙げてきた分野の技術系人材と、ジェンダーや組織強化、生計向上など分野横断的な社会的課題に対応できる人材で構成される。
 採用に際して最も重視するのは「何か一つのスペシャリティ」。ODA 業務のカウンターパートは現地の行政機関であり、彼らとの信頼を築く鍵はわれわれ自身の専門性にある。スタッフ一人ひとりがプロフェショナルであり、異なる専門性を背景にプロジェクトチーム内、部内、そして社内に適度な化学反応を生みだすことが、より質の高いコンサルティングサービスと個々の専門性の深化に繋がると考える。
 将来を見据え、「多様性・平等性・包括性(DEI)」の観点から、改めて採用、人材育成について戦略を見直していく方針だ。

ウクライナ技術協力開始の矢先

 今後の事業展開で注目する国を敢えて挙げれば、ウクライナだ。当社は2015 年から2018 年にかけ、同国において「空間情報統合プロジェクト」を実施。複数の機関が保有していた地理空間情報の国土空間データ基盤(NSDI)としての統合を支援した。
 今年1 月、そのNSDI の有効活用を目指す新たな技術協力プロジェクトが開始した矢先、ロシア軍による軍事侵攻が始まってしまった。一刻も早く平穏が訪れ、同国の復興に携われる日が来るのを待ち望んでいる。
 今後は、従来から取り組んでいる分野において高みを目指していく。既にドローンや地理情報システム(GIS)を廃棄物管理分野で活用したり、スマートフォンによる水道施設管理を実践したりと、より良いサービスの提供に絶えずチャレンジしている。デジタルトランスフォーメーション(DX)をベースとする当社の行政支援サービスなどは、開発途上国でも大いにニーズが見込まれる。
 今後も「地球を見る」の原点を忘れず、アナログの五感もデジタルのツールもフルに活用し、相手国、対象地域のニーズにしっかりと応えていきたい。


参加型モニタリングで住民組織の代表者などの参加者が河川水質の五感評価を行っている様子


国際航業 分野紹介

 現在、国際航業の開発協力業務は毎年約30 カ国で展開されている。そして、総勢約80 人(うち女性は3割)のスタッフが事業に従事している。JICA 誕生とともにODA 事業に携わってきた当社は、長年の経験の中で技術基盤のある分野で地道に信頼を獲得してきた。当社の主な海外業務分野は、次の通りである。

空間情報:一貫して当社の基幹分野である。あらゆる開発計画の基礎である空間情報の効率的な集約・共有・加工が可能となるよう、情報のデジタル化あるいはネットワーク化を支援してきた。DX が進む中、ますますその利活用の拡大が見込まれ、当社もそうしたニーズに貢献していく。

森林:森林保全を中心に、CO2 吸収、土砂災害防止、生物多様性の保護、地下水の涵養など、森林が有する多様な価値を増大させる。また、森林を生活基盤とする人々の生計向上を支援していく。

防災:ハザードマップの作成、警報や避難情報の伝達、防災教育など行政組織の能力向上に加えて、災害に強いインフラの維持管理業務が増えている。特に道路斜面防災については業界トップの技術を誇る。

水・衛生:高度な水理地質分野の専門を生かし、農村部での深井戸開発事業を多数実施してきた。近年では都市部の水道整備事業や総合水資源管理事業も手掛けている。

農業:技術協力、無償資金協力、民間連携といったJICA の各スキームを通じて、野菜栽培や稲作、農業機械普及など、専門性を生かし実績を積んでいる。

廃棄物管理:アジア、中東、中東欧、アフリカ、大洋州と広い地域で事業を行っている。住民への分別指導や廃棄物処分場の整備など、ハードとソフトを織り交ぜたアプローチを展開している。

ほかにも、博物館の整備・運営や、ジェンダー課題への対応など、特異的に強みのある分野もある。


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本記事は「国際開発ジャーナル2022年9月号」に掲載されています
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