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【JICA Volunteer’s Next Stage】ウガンダで学んだ自発的姿勢で信頼築く―ビジネスとして感染対策に従事

☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します

梅澤 志穂さん
●出身地 : 長野
●隊 次 : 2010年度2次隊、2011年度8次隊
●任 国 : ニジェール、ウガンダ
●職 種 : 看護師
●現在の職業 : サラヤ(株)海外事業本部


全国大会優勝で自信に
 梅澤志穂さんは現在、医薬品メーカーのサラヤ(株)で海外事業本部に勤務している。国際協力機構(JICA)海外協力隊(JOCV)に参加する前は看護師として都内の病院の集中治療室(ICU)で勤務していたが、そこから民間企業へと新たな道を歩むきっかけは、協力隊の経験から生まれた出会いにあった。
 2010年10月、アフリカのニジェールへ赴任した梅澤さんだが、半年ほどで、治安悪化のために緊急帰国を余儀なくされた。そして、2011年5月に振替え派遣でウガンダに赴任した。国際空港がある中南部の都市・エンテベの
病院に配属され、医療サービス向上のための5Sの普及と院内感染対策が主な活動内容だった。5Sとは職場環境改善のための活動で、「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」の各段階の頭文字を取ったものだ。JICAはウガンダで2007年から5S・カイゼン活動を導入する「きれいな病院プログラム」を実施しており、エンテベ病院でも5Sの導入が始まった。当初は外から見えない棚の中は汚なかったが、継続的な研修や声掛けで徐々に意識が改善されていったという。梅澤さんは「スタッフも意欲があり、最終的には保健省とJICAなどが主催する5S全国大会で優勝するほど改善がみられた。この経験で自信を持てた」と話す。
 梅澤さんはその他、サラヤがJ I C Aの協力準備調査(現・中小企業・SDGsビジネス支援事業)を活用し、アルコール消毒剤のビジネス化を検討する調査にも携わった。調査担当はサラヤのスタッフだが、病院のことをよく知る梅澤さんが間に入り、勉強会の準備やアルコール消毒の設置などを手伝った。ちょうどエボラ出血熱の感染拡大があり、手指消毒の重要性が再確認されたという。


ニジェールの病院スタッフと梅澤さん(中央)=写真は全て梅澤さん提供

看護師としての専門知識が武器
 2012年10月の帰国後、ウガンダでの経験を形にしたいと、医療従事者の視点から手指衛生改善活動について日本環境感染学会で発表した。ここでもサラヤと相談しながらアルコール消毒剤の設置とトレーニングによって、手指衛生が改善されたことを根拠あるデータに基づき資料にして報告した。学会に出席していたサラヤ担当者からの提案でサラヤでも発表をしたことをきかけに、看護師とウガンダの現場経験が評価され入社の声がかかった。梅澤さんはビジネスとして雇用を作りながら、継続的に感染対策や医療の改善に取り組める仕事がしたいと就職を決意した。
 初めて民間企業に就職した梅澤さんは、まずは学術部という国内向けのサービスを提供する部署で修行を積む。学会や展示会の準備、社内向け勉強会を開いて商品の開発背景や効果、医療従事者への説明方法を学んだり、講習会の講師を努めたり、仕事を通して自身も会社を知っていった。1年後の2014年5月から現在の部署である海外事業本部での勤務が始まった。仕事内容は、海外向け商品のブランドコンセプトの設定から販促、海外の展示会への参加、顧客や営業担当への資料作り、講習会の開催、各種プロジェクトへの参加など幅広い。梅澤さんは、「自分で考えて行動することが求められる仕事だ。これはウガンダで日本人一人という環境でコミュニケーションを円滑に測りながら情報収集をし、病院の環境改善のために動き回った日々と通じるところがある」と話す。
 梅澤さんは、社内はもちろん海外の医療従事者からの人望も厚い。上司の藤川平さんは「医薬品は特にエビデンスが求められるが、常に医療従事者としての知識を踏まえた商品提案で信用される。医療専門でない人には、かみ砕いて説明してくれるので勉強になる」と話す。実際に、医師と渡り合える豊富な知識が顧客から評価される。ベトナムの医師からは、「信頼できる梅澤さんに環境協力ガイドライン作りに参加してほしい」とオファーを受けたほどだ。
 梅澤さんの今後の目標は仕事と子育ての両立だ。まもなく2歳になる子どもを持つ梅澤さんは時短勤務や在宅勤務で働く。「コロナ禍でオンラインが発展し、今は海外出張に行かなくても仕事ができる。オンラインの活用と、チーム内で役割分担を明確にすることで、担当事業をしっかりと完了させて結果を出したい」と力強く語った。藤川さんは「限られた時間でも成果を上げる梅澤さんはまさに社員のロールモデルだ」と期待感を表した。
 梅澤さんが「いくらでも学術書を読んでいられる」と口にしたことや、一言一言考えながら話す様子から、そのまじめな性格が信頼の輪をどんどん広げていく大きな要因なのだと感じた。

(本誌編集部・吉田 実祝)


ウガンダの病院でスタッフと棚の整頓をしている
海外から研修に来た医療従事者に講義をする梅澤さん(右奥)

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本記事は国際開発ジャーナル2023年6月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)

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