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【BOOK INFOTRMATION】日本のODAを政治、経済のみならず文明論的な視点からも探求する3部力作

「援助再考」/「変わる世界秩序」/「ODAソフトパワー論~国家安全保障の強化のために~」

 ここに紹介する3冊の小冊子「援助再考」(2022年12月)、「変わる世界秩序」(2023年1月)、「ODAソフトパワー論~国家安全保障の強化のために~」(2023年4月)の著者は開発協力の現場を代表するオピニオン・リーダーでもあり、開発コンサルティング企業(株)レックス・インターナショナルの創設者でもある橋本強司氏である。
 「援助再考」の主な内容は次の通り。①「社会的弱者の救済」を援助理念に掲げよ、②地域開発は第3の貧困削減アプローチ、③産業クラスターで生計活動をグローバル経済につなぐ、④災害弱者を生まない社会開発のために、⑤人に優しい技術革新・技術協力こそ日本の役割、⑥日本式開発援助を世界にアピールしよう。
 次に「変わる世界秩序」は、本誌の2017年5月号~12月号に連載したもので、筆者の勉強グループ6人が登場する。序章新しい国際秩序と日本の開発援助と終章変わる世界秩序と日本の役割(橋本氏)。第1章今後の米中関係と日本の役割(武内宏樹氏=サザンメソジスト大学政治学部准教授)、第2章中東と動揺する世界(池内恵氏=東京大学先端科学技術研究センター准教授)、第3章社会課題の解決に挑む企業(鈴木雅剛氏=(株)ボーダレス・ジャパン創業者)、第4章開発協力の加速を目指して(馬渕俊介氏=グローバルファンド保健システム部長)、第5章自衛隊を支える国家理念(伊藤祐靖氏=元防衛大学校指導教官)、第6章「天皇」と「国士」(御厨貴氏=TBS・時事放談司会者)。
 「ODAソフトパワー論」のサブタイトルは、国家安全保障の強化のために―である。ここでのハイライトとしては第3部の日本のための政府開発援助(ODA)ソフトパワー論である。内容としては、①安倍長期政権のソフトパワーに係る負の遺産、②ODAソフトパワーの役割、③ODAソフトパワー強化の条件、④ODA理念としての人間の安全保障、⑤20世紀型開発モデルから代替社会経済へ、⑥日本の国家安全保障を強化するODAソフトパワー、⑦戦略的開発協力の基本認識と戦略、⑧戦略的開発協力の重要理念と規範、⑨国連における日本の役割、
⑩ODAソフトパワー宣言。
 ここでのキーワードは「ソフトパワー」である。中でも、開発政策の6側面(援助、貿易、環境、投資、移住、平和維持)による先進国の評価(2003年)は実に興味深い。例えば、援助という項目の評価では、日本はデンマークと肩を並べているが、貿易ではスイスに次ぐ最下位にランクされている。投資でも下位に入っている。非常に残念なことは「平和維持」という項目ではスイスに次ぐ最下位にランクされていることだ。そして、世界ソフトパワーランキング(2019年)ではデジタル、企業、教育、文化、外交、政府活動、世論調査を総合すると、フランス、英国、ドイツ、スウェーデン、米国、スイス、カナダに次ぐ最下位・日本となっている。著者は
「外交」においてフランス、ドイツ、英国、米国に次いで日本が世界第5位という評価はいかがなものか、と疑問を投げかけている。
 ODAソフトパワー宣言では、防衛力の強化とともにODAソフトパワーを強化して積極的平和(貧困や差別、抑圧のない世界)に貢献しよう、と訴えている。
 ソフトパワーは戦わずして勝つ力とも言われており、平和に直結する見えざるパワーとも言われている。

(本誌主幹・荒木光弥)
申し込み先 : 橋本強司 hashimoto@recs-intl.co.jp


「援助再考」700円+税
「変わる世界秩序」800円+税
「ODAソフトパワー論~国家安全保障の強化のために~」900円+税
橋本 強司著
DTP出版


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本記事は国際開発ジャーナル2023年8月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)


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