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【BOOK INFORMATION】開発業界への“動線”を広げる

『開発コンサルタントという仕事―国際協力の現場を駆けめぐる』

 当社は昨年12月、オンラインによる「国際協力キャリアフェア」を開催した。国際協力に関わるさまざまな仕事とその内容、職場、キャリア形成などを考えるイベントだ。そのセミナーの一コマに登壇をお願いしたのが本書の著者である笹尾隆二郎氏である。テーマは本書と同じ「開発コンサルタントという仕事」であった。
 実は昨年、本書の執筆を進められていた笹尾氏とお電話で少しお話しする機会があった。その時、嘆いていたのが「国際協力や開発コンサルティング業界への就職希望者が減っているのはなぜだろうか」「開発コンサルタントという、とても面白く、やりがいのある仕事があるのにこの業界に飛び込んでくる若い世代はなぜ少ないのだろうか」ということであった。こうした問題意識を背景に、本書には開発コンサルタントとして30年近く歩んできた自らの経験を、時に現場型の実践的なノウハウも公開しながら、若い世代に分かりやすく伝え、業界への“動線”を少しでも広げていきたいという著者の思いが込められている。
 本書の骨組みは3部で組み立てられている。第1部「さまざまな国際協力のかたち」は、第1章:世界の国際協力事業/第2章:持続可能な開発目標(SDGs)/第3章:日本の国際協力事業/第4章:開発コンサルタントの仕事・位置づけ、の4章構成だ。世界と日本の国際協力事業を概観し、そ
の中で開発コンサルタントはどんな役割を担い、どんな位置づけで専門性を発揮しているかを分かりやすく解説している。
 日本編では、開発コンサルタントが主力を置く政府開発援助(ODA)の前に、民間セクターや地方自治体による国際協力の姿を紹介している。中でも民間企業の活動例として、大阪市の衛生用品メーカーのサラヤ(株)、地方自治体の活動例として静岡市観光交流文化局の取り組みに焦点を当てている。欲を言えば1本章立てし、海外展開を目指す国内の元気に満ちた中小企業や地域の国際化を通し「地方創生」に取り組む自治体の活動事例などをもっとフォーカスし、その支援にあたる開発コンサルタントの記述が欲しかった、と思う。この構図こそが、いま業界の広報に求められており、学生や若い世代を惹きつける大きなポイントになっていると考える
からだ。
 第2部「開発コンサルタントの仕事」は、第5章:開発コンサルタントの具体的な仕事、第6章:開発コンサルタントの仕事の具体的な事例集、の構成だ。ODAによる調査と技術協力プロジェクトを事例に、開発コンサルタントの役割・機能を図表や写真を交えて分かりやすくたどっていく。学生などにとどまらず、開発コンサルティング企業で働く若手社員にも役立つ内容である。
 第3部「開発コンサルタントに必要な資質とキャリア形成」は第7章:開発コンサルタントに必要な能力・スキル、第8章:開発コンサルタントになるための資格要件とキャリア形成法、第9章:大学時代そして卒業してからの過ごし方、第10章:開発コンサルタントの魅力、の4章立てだ。語学力、コミュニケーション、異文化対応、調査・分析など、開発コンサルタントに求められる能力を解説し、さらに各能力を磨くため「大学時代にやっておきたいこと」、「大学卒業後、30歳までにやっておきたいこと」を一覧表で提示している。キャリア形成について、ここまで踏み込んだのは、おそらく本書が初めてであろう。学生や若い世代にとって「指針」となり得る貴重な一冊だ。

(本誌・和泉隆一)


『開発コンサルタントという仕事―国際協力の現場を駆けめぐる』
笹尾 隆二郎 著
日本評論社
1,800円+税


・Amazon

・紀伊國屋書店


本記事掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2021年4月号に掲載されています
(電子書籍はこちらから)

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