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【JICA Volunteer’s Next Stage】インドネシアの村人をまぶたに焼き続ける―日本の共生社会をけん引する存在へ

☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します。協力隊事業の柱の一つである「ボランティア経験の社会還元」を担うOVへの期待と今後の協力隊事業の展望について、自らも協力隊OVであるJICA青年海外協力隊事務局の橘秀治局長に聞きました。(聞き手:本誌編集部・吉田 実祝)

橘 秀治さん
●出身地 : 東京都
●隊 次 : 1996年3次隊
●任 国 : インドネシア
●職 種 : 市場調査
●現在の職業 : JICA青年海外協力隊事務局 局長


地方創生や多文化共生で活躍するOV
―― OVの帰国後の社会貢献をどのように評価されていますか。またOVは協力隊の経験をどう生かしていますか。

 OVの皆さんは協力隊員として活動した2年間で培った知見を帰国後に日本社会の課題解決のために大いに生かしている。中でも最近注目しているのは、地方創生や多文化共生における活躍だ。日本の各地方でNPOやNGO、会社を立ち上げたり、近年増えている外国にルーツを持つ人々との共生社会を築こうと励んだりする人が多い。隊員時代に現場で地域の人と一緒に汗をかき、意見交換しながら社会を変えようと取り組むことでさまざまな体験を積み、自己肯定感やコミュニケーション能力を身に着ける。また途上国でマイノリティの外国人として活動する中で多様性や人とつながりを実感する。それらを次は日本社会で地域の人や日本に来た外国人との共生に生かしている。その他の分野でも、協力隊経験を日本社会にシェアすることで新しい化学変化が起きることを期待している。

―― 自治体や企業がOVに期待していることとは。

 自治体・企業からは、海外での事業展開などに加えて、国内で外国人を受け入れる立場としての役割も期待されている。コロナの一時帰国中に群馬県嬬恋村のキャベツ農家を手伝った隊員たちの話が注目されたが、それは単なる労働力としてでなく、海外の技能実習生とのつなぎ役になったことが評価された。日本の地域に溶け込めなかった外国人が隊員を通じ、地域社会に溶け込むきっかけを得た。また近年、外国にルーツを持つ子どもが増えていることから、隊員経験のある教員などの存在も求められている。

―― JICAではOVの進路をどう後押ししていますか。

 帰国後のキャリア形成は最重要課題の一つだと認識しており、従来から進路開拓に力を入れてきた。従来から行う全国の自治体・企業と協力隊員との交流会に加え、2020年からは地方創生や多文化共生などに貢献したいと考えているOVに対し、自治体・公共団体・NPOなどの求人を紹介している。また、帰国後に進学を希望する人も多く、2021年に奨学金制度を立ち上げた。今後はさまざまな形で社会課題を解決するために尽力しているOVの表彰も始める。現役隊員やこれから応募しようという人にOVが社会貢献している様子を具体的に伝えることで、世代、地域を超えたつながりを作っていく。協力隊経験後に社会課題解決のために起業する隊員もいるので、今後は何らかの形で側面的なサポートができないかも考えていきたい。


今こそ求められる協力隊
―― 今後の協力隊事業の在り方は。
 コロナ禍、ウクライナ戦争、気候変動、食料・物価高騰といろいろなものが絡み合う複合的な危機の時代だ。多くの国では特に貧しい人ほどその危機の影響が大きく、困難に直面しているので、今こそ日本が真の友人だと示す重要な時だ。だからこそ、現地に行って共に考え、共に汗を流す協力隊の事業自体が必要とされている。
 その上で4つの方向性がある。①早期にコロナ前の派遣規模に戻すこと。コロナ前は常時約2,000人が世界で活動していたが、今は800人弱(2023年1月時点)だ。コロナの一斉帰国後、派遣待機中の隊員の再派遣にも全力で取り組む。②そのためにも安心・安全な環境づくり。万が一のときには緊急輸送できるなど、安全面をそれぞれの国で確認し、安全性を確保できた地域へ派遣していく。③デジタル技術を使って活動の質の向上につなげる。コロナ禍でオンラインの活用が促進され、日本の事務局から派遣地の隊員へのサポートやコミュニケーションも多様な形で取れるようになった。昨年から発足させたLinkedInの分野別ネットワークでは、隊員やOVがいつでも情報交換、相談できる場として活用され始めている。④JICAの他スキームとの連携だ。JICAの課題別事業戦略である「JICAグローバル・アジェンダ」に基づき、途上国の政府・人々はもちろん、国内外のさまざまなパートナーと協働してグローバルな課題解決に取り組むことを推進しようとしている。協力隊事業もその一つだ。例えばアフリカでは米増産を目指し「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」に注力している。この取り組みの中で個々の農家を回って指導するのは協力隊員など草の根で活動する人だ。政府レベルで決定したことを各農家まで伝えて指導する人々が必要だ。大きな絵の中の一部だが、プログラムによっては協力隊員も重要な役割を果たしている。他にも水の防衛隊や算数学び隊などがある。


現場の視点を忘れずに
―― 橘局長も協力隊の経験者ですね。隊員時代はどのような活動をされ、その後、経験をどう生かしていますか。

 インドネシアで市場調査隊員として派遣されていた。当時はチーム派遣という制度があり常時7~8人ほどの隊員で、インドネシアの特に貧しい地域の5つの村の総合開発に従事していた。チームには、村落開発、畜産、野菜栽培など異なる職種の隊員がいて、私は市場調査の役割を担った。活動では村の農畜産物の流通やマーケットでの売値を調べて今後の生産について提案したり、物理的に市場を作ったり、農産物を加工して販売する支援をしていた。
 村に2年間住み込んで、村人と一緒に生活して学んだことは多い。中でも「現場の視点を持てること」が一番役立っている。これまでのJICAの仕事では企画部や総務部が長く、JICA全体の中期計画や経営戦略の作成や技術協力などの制度を作る仕事が多かった。ややもすると東京で、机の上で考えがちだった。だが、常に村人の顔を思い浮かべながら、本当に現地に役立つのかという視点を持ち続けられた。そして「へこたれない力」も生きている。苦労が多い業務でも、常に前向きに楽しく仕事に取り組めた。後輩たちには失敗をしながらもさまざまな学びを得られる隊員生活を引き続き頑張ってもらいたい。


本記事掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2023年4月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)


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