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【“再エネ100%”への挑戦vol.1】ゼロからビジネス創出を― 40代の決意JICA職員時代の経験生かし、途上国の脱炭素ビジネスを推進

「青い地球を未来につなぐ」を掲げ、世界中で再生可能エネルギービジネスを展開する自然電力(株)。目指すものはよりよい世界――。それは国際協力と変わらない。


自然電力(株)電源開発本部海外事業部シニア・コマーシャル・マネージャー インドネシア・ベトナム事業責任者
小川 亮氏 (おがわ りょう)
東京大学法学部卒。中学時代にルワンダの内戦を知り、学生時代のバックパッカーの経験などをきっかけに「世界を変えたい」と2003年にJICA(旧JBIC)に入構。主に円借款、海外投融資事業に従事。インドネシアの初の地下鉄MRT建設や発電所・送配電案件、ミャンマーのティラワ経済特区開発プロジェクト、パラオ国際空港ターミナル拡張・運営事業などに携わる。2021年に自然電力へ。ニューヨーク州弁護士。




再エネ100%を目指すベンチャー

 自然電力は、太陽光・風力・小水力・バイオマスによる再エネ発電所開発の資金調達、設計・調達・建設、アセットマネジメント、運用保守までを手掛け、再エネ100%の世界を目指す。2011年の東日本大震災の福島原発事故をきっかけに日本のエネルギー環境への危機感を持った、風力発電ベンチャー出身の3人が創業した。エネルギーを地産地消し、可能な限り環境負荷やコストをかけない「ベーシック・インフラ」*を地球規模で普及させ、ひいては世界平和に貢献したいという思いが根底にある。
 約300人のグループ社員の国籍は累計20数カ国に及ぶ。アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)といった国際協力機構(JICA)の事業の留学生などがインターンに入り、そのまま入社することもある。各社員が愛着を持つ地域をよくしたいという思いを抱き、主体性を持って自律的に事業を進めている。多様な人材が国内外のパートナーと連携・協業しながら、その地域に最適な再エネ事業の開発から導入・運営保守までを一貫して手掛けることが強みだ。
*:ベーシック・インカムにヒントを得た造語


カナダの年金基金が700億円を拠出

 気候変動や地政学リスクの高まり、ESG投資の流れを受けて、世界的に再エネが注目されている中、同社はスタートアップの機動性を生かし、現在、日本で100を超える発電所の建設・運営保守を手掛ける。海外ではブラジルや、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどの東南アジア地域を中心に事業を展開。創業から12年だが、発電実績を総合的にみると1ギガワット(原発1基分)を超える。近年は、変動性のある再エネを蓄電池や電気自動車などのエネルギーリソースの制御を通じて有効活用するためのエネルギーマネジメントシステムの開発にも注力している。
 これらの実績の積み重ねもあり、2022年10月にはカナダの大手年金基金・ケベック州貯蓄投資公庫から700億円の大型資金を調達した。


「社会を変える」強い思いに共感して

 同社の海外事業で、ベトナムとインドネシアの事業責任者を務めるの
がJICAから転じた小川亮さんだ。
 JICAでは、円借款や海外投融資事業に携わり、ミャンマーのティラワ経済特区開発やパラオ国際空港ターミナル拡張・運営事業(海外投融資事業)など、“企業による途上国の経済社会開発”を後押しした。2018年からのインドネシア駐在中は、国際金融公社(IFC)と協働し、廃棄物発電の官民連携(PPP)事業における「トランザクションアドバイザリー業務」を立ち上げた。インドネシア政府の入札業務や調達手続きのサポートを行うもので、廃棄物発電事業という収益性確保が難しい分野でのPPP推進を加速化させた。40代を迎える頃、人生後半のキャリアを考えた小川さん。「現場に近い場所で悔いのない仕事をしたい。ゼロからビジネスモデルの創出に挑戦し、よりよい世界のために貢献したい」という思いを膨らませた。「社会を変える」という創業者のコミットメントと事業展開のスピードに魅力を感じて転職した。


ベトナムのプロジェクト視察


新興国でチャレンジする醍醐味

 小川さんが取り組む事業の形態は顧客のニーズに合わせてさまざま。例えばインドネシアでは、日系企業の工場を主な顧客として屋根置き太陽光パネルを設置する事業の導入を進めている。
 一方、ベトナムでは独立発電事業者として、大規模な太陽光・風力発電所の立ち上げに尽力。具体的には、必要な土地の取得から、設備の維持管理、ベトナム電力公社(EVN)との契約交渉や資金調達を手掛ける。発電した電力は電気を供給する電力会社に卸供給され、地域の旺盛な電力需要を支えている。
 こうした事業を進めていくには難しさもある。インフラ成熟度の低い途上国ほど、再エネなど電力分野への新規参入業者に対する規制が強いからだ。再エネのコスト優位性もまだ低い。とはいえ、途上国に進出しているグローバル企業が自社のパートナー企業に、製品製造に係る電力の再エネ転換や二酸化炭素(CO2)排出量削減を求める動きは進んでいる。今後、途上国の電力市場も劇的に変わると見られる。
 「そうした潮流のなかで新たなビジネスモデルを考え、途上国の脱炭素化に貢献していきたい」と語る小川さん。新興国はカントリーリスクがあり、大企業は二の足を踏みがちだ。「その点、ベンチャーだからこそ踏み込んでいけることにはJICA時代と変わらぬ楽しさがある。企業をはじめ個人のお客様の脱炭素実現を目指し、知恵を絞ってゼロイチを生み出していく」と決意を新たにする。


現地ベトナムスタッフとの打合せの様子



本記事掲載誌のご案内

本記事は国際開発ジャーナル2023年6月号に掲載されています。
(電子版はこちらから


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