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人材育成・成長投資・情報開示の三本柱で挑む【(株)ニュージェック 創業60周年スペシャルインタビュー】

水力をはじめとしたカーボンニュートラルを世界へ
(株)ニュージェックは今年9月21日、創業60周年を迎える。近畿地方の経済発展に寄与する関西電力の子会社として、近年は海外で再生可能エネルギーの普及に取り組みながら災害対策にも注力してきた同社の使命や展望は何か。今年3月24日付けで就任した山林佳弘代表取締役社長に聞いた。

代表取締役社長 山林 佳弘氏


関西にも大規模コンサル企業を
── ニュージェックは、映画『黒部の太陽』でも知られる富山県の黒部川第四発電所(以下、黒四)の建設に携わった技術者たちが設立したと聞きます。

 当社の設立は黒四の竣工と同じ1963 年9月だが、同年は日本初の高速道路である名神高速道路が開通(栗東~尼崎間)し、世界初の高速鉄道とされる東海道新幹線が翌年に運転開始を控えるなど、画期的なインフラ建設が行われていた。黒四は、近畿地方の工業の発展に欠かせない電力を供給するため、世界銀行(世銀)から融資を受け、関西電力㈱の技術者たちが命を賭して挑んだ一大事業だった。
 そうしたインフラ建設の飛躍的な増加を背景として、民間の活力をより一層活用するために、インフラの計画・調査・設計を担う専門的な技術を持つ建設コンサルタントの需要が高まった。当時、大規模なコンサルティング企業は東京に数社しかなく、西日本の公共インフラの仕事を出張で対応していたものの、災害などに迅速に対応できない。そこで建設省(当時)と京都大学が「関西にも大規模な建設コンサルティング企業をつくるべき」と旗を振る形で、黒四の実績があった関西電力に話を持ち掛けた。それで関西電力が中心となって、関西の産官学のご支援を頂きながら、当社を設立し*、黒四経験者を中心に選りすぐりの技術者を派遣し、サービスを始めている。そうした経緯から、当社は、関西電力が主要株主であるが、今も一部株式を創立時からの株主に保有いただいている。
*:(株)新日本技術コンサルタントとして設立。

── 新社長としての抱負は。

 わが国では「防災・減災・国土強靭化」や「インフラの高経年化に対応した維持管理」が急務であり、河川改修、ダム、港湾など公共インフラの補強事業が多い。大半は国や地方自治体から委託を受けた事業で、当社受注額の約65%を占めている。コアとなる防災関連の公共インフラ事業に対応できる人材をさらに増やしたい。今、約800 人の社員が対応しているが、年齢構成上の課題は30 代、40 代の社員が少ないことだ。国の予算削減や事業仕分けによって、土木関係の仕事が大きく減った世代に当たる。若い社員を積極的に雇用し、技術継承を図ることが急務だ。
 海外事業は発電所や送電線の計画・設計・工事監理が多い。かつては海外事業が全体の約3分の1を占めた時期もあるが、今は全体の2割程度となっている。大規模な電力案件が減少してきたこと、またわが国の政府開発援助(ODA)の額が減ってきたことなどが影響している。
 わが国の「質の高いインフラ」を輸出し、相手国の経済発展に貢献する意義は今も大きい。ODA だけに頼らず相手国の企業と協働し、民間・公共事業への参画や、国際開発金融機関が支援するプロジェクトに挑むなど、今後もあらゆる方法で挑戦していく。


68カ国で事業を展開
── 海外事業の歴史と現況は。

 1970 年代に、インドネシアで初めての火力発電所となる「タンジュンプリオク火力発電所」の工事管理を受注したのが、当社の大規模な国際事業の第一歩だ。後、同じくインドネシアのサグリン、およびチラタの水力発電所の計画、設計、工事監理や、フィリピンの500kV 基幹送電の設計、工事監理事業など実績を積んできた。
 人口が多く経済成長も著しい東南アジアに重点を置いているが、アフリカや南米を含め、これまで68 カ国で事業を行った。近年はカーボンニュートラルの観点から、太陽光、風力や揚水発電といった再生可能エネルギー関連の事業が多い。当社として初の地熱発電事業となったインドネシアのディエン地熱発電所建設プロジェクトや、関西電力が投資するフィリピンのサンロケダムやラオスのナムニアップ1ダムのような水力発電事業への設計支援事業もある。
 ベトナムのダナン市では、アジア太平洋経済協力(APEC)とベトナム政府の要請により、風力発電やメタンガス発電を取り入れた「低炭素まちづくり」の事業も手掛けている。またインドネシアでは、ジャワ島からカリマンタン島に首都を移転する計画であり、付随する事業をいくつか手掛ける予定だ。

人口増加が進むダナン市


若手社員は海外で武者修行
── 海外事業や人材育成の展望を教えてください。

 海外でも活躍できる社員の育成に取り組む。コロナ禍の終息を見据えて、2022 年から入社2年目の若手を海外の現場に1年間派遣している。国際コンサルティング・エンジニア連盟(FIDIC)に基づく契約交渉や、現場見学ならびに現地の会議に参加させたりするが、今年に帰国した5人の社員は英会話力も伸び、自信がついた様子だ。少子高齢化の状況下、優秀な若手には、国内外で業務経験をつけて、将来この業界をさらに魅力ある形に発展していただきたいと考えている。電力案件に限らず、激甚化する災害に挑んできた当社の技術は広く世界中で役立てることができると信じている。
 また昨今、新入社員の3~4割は女性で、「海外に赴任したい」という情熱の高い人も多く、国内外での女性の活躍も期待している。出産・育児休暇を取ってもらうのはもちろん、子どもが小学1年生になるまで時短勤務を認めるなど、子育てしながら働きやすい環境を整え、昇進も子育てがハードルとならないよう配慮している。

── 企業としての使命・目標は。
 創業60 周年を迎えるにあたり「NEWJEC Corporate Evolution to Great2023」を制定し、「業務の選択と集中」「効率性の追求」「人財活用の最適化」を図りながら、経営の効率性を追求することとした。
 業務の選択と集中については、我々の使命である「自然と人を技術で結び、持続可能で快適な未来を創る」ことに資する業務を追求していきたい。国土強靭化から再エネなど、幅広い分野を扱うが(WIDER !)、同時に強みを生かせる業務を抽出していきたい(Higher !)。例えば、情報通信技術(ICT)を使って、気候変動のリスクや洪水の被害予測を見える化し、企業のTCFD(機構関連財務情報開示タスクフォース)などに活用できればと考えている。また電力系の建設コンサルタントとして、水力のみならず広く再生可能エネルギーの技術力を高め、国内外での活用を図りたい。
 効率性の追求については、研究やDX ならびに他社との共創を通じて、飛躍的な業務効率性の向上に努めたい(Higher !)。併せて、快適かつ効率性を高める職場環境の改善にも取り組みたい。
 人財活用の最適化については、各グループの時間生産性管理粗利の分析を行いながら、人財の適材適所を図り、会社全体の稼働率を向上することに取り組みたい。また海外事業の場合は現地の企業と組むことで、お互いの強みと弱みを補強し、コスト競争力を高め、より強く(STRONGER!)なれればと考えている。将来的には他企業のM&Aも視野に入れる。


(株)ニュージェックの主要プロジェクトは、下記PDFからご覧いだだけます。


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本記事は「国際開発ジャーナル2023年9月号」に掲載されています
(電子版はこちらから)

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