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【創立75周年の鉱研工業】アフリカの水ビジネスで地球に貢献

ボーリング技術とODA経験を生かす
卓越したボーリング(掘削)技術などで知られ、アフリカの村落給水事業でも多くの井戸の建設などを進めてきた鉱研工業(株)が2022 年10 月、創立75 周年を迎える。同社の木山隆二郎社長に、同社の歩みを振り返りつつ、現在および今後の展開について聞いた。

鉱研工業(株) 代表取締役社長 木山 隆二郎氏



1960 年代から海外積極展開

 鉱研工業(株)の歩みは、1946年、ボーリング技術者6人が福岡で起こした(有)鉱研舎から始まる。石炭が「黒ダイヤ」と呼ばれた時代、ボーリングマシンや付属品の製造販売、ボーリング・グラウト(薬液注入)工事の請負を業とした。翌年10 月、鉱研試錐工業(株)を設立し、本社を東京に移した。当社はこれを創業の起点としている。
 当社の特徴の一つが、早い時期から海外事業を展開していることだ。当社は現在でも、ボーリング関連の機械などを設計・製造し、販売する部門の売り上げが約60%を占め、掘削などの工事よりも多い。海外展開も販売が先行した。
 1965 年に中国向けの販売を開始し、1969 年にはコンゴ民主共和国の鉱山に立坑工事の機械を納入すると同時に技術指導を行った。これが日本企業として初のアフリカ事業だった。
 やがて工事も手掛けるようになり、1973 年にはシンガポールの桟橋の基礎工事、1976 年には香港の地下鉄の基礎工事に関わった。その後、東南アジアのほとんどの国で販売や工事を実施した。アフリカでも東アフリカと西アフリカで、かなりの数の工事をやっている。
 1980 年代以降、サブサハラアフリカでの地方給水支援が本格化する中で、当社も多くの政府開発援助(ODA)事業に携わっていった。1981 年にマダガスカルの地下水調査用ボーリングマシンの納入から始まり、1984年にはスリランカで水井戸掘削機を納入した。
 ODA での初の工事は、1989 年のルワンダでの井戸掘削と高架水槽の建設であった。

トーゴ(1990年)掘り当てた水に歓喜する村人


SDGs を会社の中期計画に

 2019年6月に社長に就任し、社是「ONE&ONLYの技術構築のために前進」を掲げた。2021年には新中期経営計画「STEP UP 鉱研 ACTIONS 2025」を設定した。売り上げの10%増など具体的な目標を社員と共有するとともに、「ACTIONS」の「S」として、持続可能な開発目標(SDGs)のSを組み込んだ。
 私は、海外に出ない会社は伸びないと考えている。リスクのある海外事業を本気でやるためにも国内事業でしっかり利益を出すことも重要だ。インド人やカンボジア人の社員、ベトナム人の技能実習生もいるが、海外事業強化のためにも戦力となる外国人の採用も増やしていきたい。優秀な女性の採用も続けたい。


環境に配慮した伊勢原工場

 当社の新たな製造拠点である伊勢原工場が2022 年6 月1 日より稼働を開始した。敷地面積は15,000㎡であり、旧厚木工場の1.5 倍となる。快適な就労環境の確保と将来を見据えた施設機能を備え、さらにSDGs への取り組みとして、同工場と全国の拠点で使用する電力を再生エネルギーで賄う(RE100)ことで、年間230 トンの二酸化炭素(CO2)削減に取り組む。また、神奈川県が定める建築環境総合性能評価システム(CASBEE)では4つ星のAランク評価を取得している。

伊勢原工場(2022年)環境に配慮した新工場が稼働


アフリカで新たな事業展開

 現在約75 億人の世界人口は2050 年に100 億人となる。アフリカの人口は12 億人から25 億人になり、食料が不足することは目に見えている。ODA 事業も含めた当社の75 年間の経験を生かし、アフリカで水ビジネスを確立したい。アフリカ諸国の主要産業は農業であるため、人々が水を自由に使えるようになれば、農業の生産性が向上し、生活レベルは向上する。それが、SDGs の理念である「誰一人取り残さない社会」にもつながる。地下水の開発を通
して、飲料水の供給のみならず、食料問題などの途上国の開発課題に関して横断的にアプローチしていきたい。


水道料金徴収に電子マネー

 アフリカは事業拡大の余地にあふれた「ブルーオーシャン」だ。そのブルーオーシャンを目指す取り組みの一つとして、マラウイでは国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGs ビジネス支援事業」に採択された「電子マネーを用いた持続可能な給水システムに関する基礎調査」を進めている。本事業を通して井戸の運営維持に必要な料金を電子マネーで徴収し、水アクセスの向上を目指す。
 当社は1989 年からマラウイで井戸の建設を進めてきた。同国で掘削した井戸の数は1,429 本にものぼる。しかし、現地の状況をみると、「ハンドポンプ(手押し井戸)があるだけでは、幸福とは言えないのでは」と感じさせられる。村の女性が40 リットルのバケツに水をくむために取手部分を上下させる回数はなんと141 回。かなりの力が必要で、子どもなら3人がかりだ。これを、毎日朝、昼、晩と繰り返す。
 井戸の維持管理能力の向上も大きな課題だ。JICA 調査団の報告書によると、地方ではハンドポンプ井戸の30%が故障したまま放置されている。この問題を解決するため、現地のベンチャー企業と連携し、電子マネーにより従量制で水料金を支払うことで、維持管理のための料金を徴収する、持続可能な給水システムの構築を目指す。電子マネーをチャージしたカードをタッチするだけで水を得ることができるため、水くみ労働も大幅に軽減される。

ブルキナファソ(2019年)水があれば乾季でも農業が可能に


公共水栓設置で安価な水を

 2016 年に同国中西部で高架水槽や管理棟などを有する管路系給水施設を建設した。本プロジェクトによって多くの家庭に飲料水を供給することが可能となり、安全な水へのアクセスは向上した。しかし調査を進める中で、マーケット周辺の商店やレストランは水道があるにもかかわらず、水道に接続していないことがわかった。水道への接続料と商業用の水道代が高いことが理由だという。そのため、衛生的とは言えない浅井戸の水が日常的に使われている。マーケットで売られる食品を介して、感染症が拡大することが危惧されるという海外の調査報告もある。これらの課題も、マーケット周辺に複数の公共水栓を設置することで改善可能だ。商店やレストランのオーナーは安全で安価な水を購入することができ、感染症の拡大の予防にもつながる。

マラウイ(2016年)ODAにより高架水槽と管路給水設備を建設


日本らしさ生かす協力推進

 水道事業はあるがODA の村落給水事業が少なくなる中、ODAに頼らない海外ビジネス展開も考えている。当社の国内事業の中に、ホテルや工場、病院などでの地下水浄化プラントの維持管理や飲料水供給システムの管理がある。これを海外でやりたい。
 途上国では水道の水質が悪い国も多く、インドでは一般家庭やホテルなどの大型施設の多くは自前の井戸を持っていると聞いている。しかし、地下水位の低下といった水不足が懸念されており、当社のプラントによる水質浄化や、節水技術は今後需要が増加すると考えている。
 アフリカなどに行くと日本人は非常に好感を持たれていることがわかる。これは今までの国際協力によって積み上げてきた日本の誇るべき資産である。このベースの上に立ち、当社の技術と日本人らしいきめ細かなサービスを通して、今後も世界に一層の貢献をしていきたい。

マラウイ(2022年)電子マネーを用いた持続可能な給水システムのイメージ図



掲載誌のご案内

本記事は「国際開発ジャーナル2022年10月号」に掲載されています。
(電子書籍はこちらから)



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