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【JICA Volunteer’s Next Stage】マラウイ人のような温かな心で耳を傾ける―地域の課題解決と未来世代への連鎖を目指して

☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します

庄田 清人さん
●出身地 : 福岡県飯塚市
●隊 次 : 2014年度2次隊
●任 国 : マラウイ 
●職 種 : コミュニティ開発
●現在の職業 :(一財)ちくご川コミュニティ財団 理事・事務部長


課題を深堀り、地域活性化へ
 世界や地域の課題解決のために活動するNPO法人はたくさんあるが、これまでに2万3,000程の団体が、資金や人、情報などのリソース不足が原因で事業の継続を断念しているという。必要なリソースが動く仕組みをつくり、NPOや自治会など地域の実行団体が活動しやすい環境をつくる役割を担うのが、「コミュニティ財団」だ。日本ではまだ新しい概念であり、全国には20団体程しかない。
 そんな中、福岡県では2019年に初めて(一財)ちくご川コミュニティ財団が設立された。同財団に2020年10月から務める庄田清人さんは、マラウイでのJICA海外協力隊(JOCV)の経験を持つ。「地域のために活動する実行団体を支援しなければ、困る人がたくさん出てしまう。誰かが支えないといけない」と熱く語る庄田さんは、主に休眠預金などを活用する事業の運営・企画を担当するプログラムオフィサーとして、実行団体の伴走支援を行う。課題は多岐にわたるが、これまでに子どもの学習支援や食支援を行う無料塾や、不登校の子どもたちを支える団体、若者の社会的孤立を解消し自立支援を行う団体などをサポートしてきた。資金面のほか、調査から事業計画の作成などを支援し、実行団体の事業が持続可能となることを目指している。庄田さんによると財団での仕事は、協力隊の経験や学びが生きていると実感することが多いという。例えば、実行団体がどんな課題を抱えているかを明確にする際、現場や地域の声を聞いて課題を吸い上げる過程は、マラウイでまさに実行したことだ。庄田さんは、派遣前は理学療法士として子どもたちの療育に関わっていたことから、マラウイでも子どもの低栄養に注目していた。村々を周り、現地の人からの意見を聞きながら調査を進めたところ、母子健康手帳の記録にずれがあり、子どものワクチン接種などに影響があることに気付いた。その時に庄田さんと協力隊の公衆衛生グループが提案した改善案が、今ではマラウイ全国で使用されている。「課題は必ず現場にあり、腰を据えてとにかく話を聞くことを大事にしている。草の根の活動でも本気で動けば、制度や国を変えていける力があることをマラウイで経験できた」と庄田さんは話す。
 同財団理事長の宮原信孝さんは、庄田さんが財団に加わったことで事業が大きく進展し、地域からの評価も高いことを語ってくれた。「彼は相手の熱い思いに寄り添うだけでなく、客観的視点を持ち、論理的に事業を組み立てるところが非常に優れている」。庄田さんは「“warm heartof Africa”と言われるマラウイで、相手の話にしっかりと耳を傾けて寄り添う姿勢を学んだ。だが、寄り添うだけでは事業を持続可能にはできない。冷静な頭“cool head”で論理的に分析し、計画を立てる力も必要だということも気付いた」と言う。


協力隊員としてマラウイの子どもたちの栄養状態を確認している=写真は全て本人提供


若い世代のロールモデルに
 さらに庄田さんは協力隊の経験を若い世代に伝える活動にも積極的だ。最初はボランティアで小学生に協力隊経験を伝えていたが、継続的な活動には地域との連携が重要だと考えた。そこで、出身地の福岡県飯塚市の立岩地区まちづくり協議会と共に、地域のニーズは何か、自分のどの経験が生かせるのかなど対話を重ね、地元の子どもたちにマラウイでの経験を交えながら持続可能な開発目標(SDGs)の講義をしている。「マラウイのこと、協力隊の持つ力ややりがいなどを知ってもらうことで、若い世代が自分も挑戦したいと思えるような良い連鎖が起きてほしい」と庄田さんは語る。今年で3年目となるこの活動で意識しているのは、協力隊が身近であると感じてもらうことだ。「興味深くも、どこか遠い存在だと思われがちな協力隊を、自分の生活と接着させて考えてもらえる講義をしたい」。
 また、庄田さんは2022年の7月から、福岡県の青年海外協力協会(OB会)の会長も務めている。「コロナ禍の影響もあるからか、国際協力や開発途上国に興味を持つ人が少なくなったように思い、危機感を持っている。“誰かのために”を持続可能にする協力隊の活動が見える化され、参加したいと思う若手が増えるように、今後OB会の活動も増やしていきたい」と目標を語る。
 「まずは地域の声を聞く」と繰り返し語った庄田さんは、言葉通り地域に寄り添いながら地域の活性化を支えている。今後、国際協力や協力隊に関心を持つ若い世代を増やすには、地域と密接に連携しながら経験を伝え、さらにその経験が地域で生かされている様子を可視化できることが重要だと、取材で感じた。

(本誌企画部・野田頭 真永)


NPOの職員と事業計画について打ち合わせをしている庄田さん(右)
小学校でSDGsに関する授業を行っている様子

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本記事は国際開発ジャーナル2023年7月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)


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