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\ベナン発/ 企業グローバル化のススメ【オンライン日本語教育に取り組む戸田建設】日本人社員の意識改革にも注力

昨今、多くの日本企業が海外市場への進出に取り組んでいる中、外国人の活躍を後押しすることがより重要になっている。問題となりやすいのは、母国語の異なる社員同士のコミュニケーションだ。 社内のグローバル化に取り組む戸田建設(株)は、そうした問題に対応するため2022年8月から、ベナン共和国を拠点としたオンライン日本語教育事業を開始した

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外国人職員16人が参加

 戸田建設が同社の外国人職員向けに始めた「ベナン拠点」のオンライン日本語教育は、1回の1.5 時間のコースだ。まずは言葉を学ぶことの意義、言葉を通じて文化を知ることの重要性を伝える。楽しみながら、日本語のリスニング・スピーキングスキルを育むのはもちろん、ひらがな・カタカナの読み書き、そして文法の習得までを目指す。授業当日だけではなく予習と復習も指導している。
 第一期生として、西アフリカ諸国の同社職員10名が参加。そして今年1 月からは第二期生としてコートジボワール、タイ、ベトナム、インドネシアなどの職員が参加し、通算16人が受講している。
 講座はベナン時間に合わせて行われる。早朝に受講しなければいけないアジア地域からの参加者もいて大変なようだが、欠席者はほとんどない。講座への満足度は高く、皆熱心に参加している。


外国人職員が来日研修で建設現場を見学


戸田建設のグローバル化戦略

 このオンライン日本語教育は、戸田建設による社内グロー バル化戦略の一環だ。同社は、海外市場へのさらなる展開を見据え、2019年ごろから日本人社員への英語教育に加え海外現地人材の育成に力をいれてきた。現在、日本人社員約 4,000人に加え、1,000人を超える海外職員を抱えている。
 こうした多国籍の職員の育成と連携を促進するため、人事統轄部グローバリゼーション推進部が社内改革を進めている。同部主導の下、2019年 11月には、同社の第二公用語は英語に定められ、全社員を対象に無料の英語教育が提供されている。社内文書の英語化も進められている。
 同時に、 外国人職員への日本研修も提供されはじめた。2019年にはタイ、ミャンマーなどのアジア地域や西アフリカから現地職員が1年半の研修のため来日した。この研修の加者は研修期間中にまず日本語を学んだ上で、日本の工事現場などで実務を経験する。この制度では毎年新しい現地職員を招いて継続している。戸田建設としては今後もこうした日本研修を引き続き推進する。とはいえ、世界各地にいる全外国人職員を日本に呼ぶことはできない。そのため、オンラインを活用した効果的な日本語プログラムの導入を検討していた。
 そんな時、「ぜひ一度ベナンに来てほしい」というメールが人事統轄部グローバリゼーション推進部部長の小田裕司氏に送られてきた。


現場研修先の皆と


言語を学ぶモティベーション

 メールは当時コートジボワールでの事業に従事していた戸田建設の社員である今井孝志氏からだ。メールによると、ベナンで面白い日本語教育の取り組みがあると言う。
 小田氏はさっそくベナンに渡航した。そこで待っていたのは、教育・文化交流を通じて日本とアジア、アフリカ諸国をつなげるベナン共和国の国際IFE財団と日本のNPO法人IFE (以下2団体を総称してIFE) が運営する「たけし日本語学校」だった。2003年に開設されたベナン初の日本語学校だ。この学校の生徒の日本語能力の高さに驚かされた。週1回の講義しかないにも関わらず、入学数カ月の生徒たちが日本語で会話し、日本語の歌を歌っている。同校の授業も全て日本語だ。
 「どのような方法で教えたら、ここまでの上達スピードとなるのか」と思わず聞いたところ、同校で日本語教師を務める石田泰久氏は「生徒たちが自主的に家で勉強をしてくるから上達が早い」と説明した。
 石田氏によると、生徒の自主性を後押しするコツは「日本語や日本文化の素晴らしさを最初に生徒たちに教えることと、当校独自の『たけし日本語学校スタンダード』というコースデザインを元にしたカリキュラム」 だという。地理的にも、心理的にも遠い外国には興味がわかない。そして興味が無ければ、その言語を自主的に学ぼうとは思わない。そう考えるIFEは、生徒がまず日本を知り、「日本で学びたい」と思わせることを教育方針に据えているのだ。
 そのような教育方針と手法に感銘を受け、IFEと連携することで、社員のための良いオンラインプログラムが組めるかもしれない、と感じ戸田建設は連携を進めた。現在、この連携の下、IFEは実証研究という形で戸田建設職員に対して日本語教育を提供している。
 このプログラムに手ごたえを感じる小田氏は、IFEと共に戸田建設職員以外の人々も対象にした有料のオンライン教育ビジネスを展開していく構想もあると言う。


ベナンのたけし日本語学校にて(左から今井氏、石田氏、小田氏)
オンライン日本語講座の様子


優秀な人材を逃すな

 戸田建設は今後もオンライン日本語教育をはじめ、社内の語学教育に注力する構えだ。一方、小田氏は外国人に日本語を覚えてもらい、日本人に同化することを求めるだけではだめだと考える。
 最終的に目指しているのは”異化”だ。“異化”とは、多様な背景を有する職員が、それぞれの言語や文化を生かしながらそのままチームの一員として活躍できることだ。「海外の優秀な人材を雇用していく上では欠かせないアプローチだ」 と小田氏は確信する。社内文書の英語化推進や、世界の拠点間の連携強化はその一環だ。
 とはいえ、社員の意識の変化は一朝一夕では実現できない。 改革に戸惑う日本人社員も多い。そのため、小田氏らは積極的に外国人社員の活躍や海外拠点の取り組みを社内で共有することで、世界各国で活躍する戸田建設職員の仲間意識を育み、互いに受け入れ合う体制を構築していきたいと言う。こうした取り組みは“先行投資”であると考えている。
 異化推進に向けた取り組みの第一歩として、英語や日本語の語学力向上が推進されているが、 西アフリカ地域での事業も展開している戸田建設だ。今後、フランス語など、より多様な言語が飛び交う事務所になっていく日も遠くないのかもしれない。

(本誌企画部・野田頭 真永)


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本記事は国際開発ジャーナル4月号に掲載されています。
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