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【日本国際協力システム (JICS)・援助をカタチに】注目される調達代理機関の地雷・不発弾対策のノウハウ ―カンボジア、ラオスで積み上げた経験と実績に期待高まる


参与 渡辺 仁一氏
代表理事  竹内 和樹氏

ロシアの侵攻を受けるウクライナの復旧・復興支援が動き出している。地雷・不発弾などの除去支援は、言ってみればそのスタートラインだ。自らもこの分野で業務経験を積んだ(一財)日本国際協力システム(JICS)の竹内和樹代表理事と渡辺仁一参与に、地雷除去機などの実用化までに至る長い道のり、そして、実際の現場の姿などを聞いた


Interview

苦闘が続いた開発研究期

── 地雷・不発弾処理が再び注目されています。今、どんな印象をお持ちですか。

竹内 業務を実施するうえで地雷の存在を意識し始めたのは、1996〜97 年のボスニア・ヘルツェゴビナの戦後復興である。現地に長期出張し、いろいろなフィールドを回ったが、関係者からは「地雷原に迷い込まないこと」、「地雷原に入り込んでしまったら足跡のある所を戻ること」、「足跡の無い所では持っているペンを斜めに刺し異物がないか確認すること」など
インストラクションがあった。その時、恐怖と共に、“これは大き
な問題だ”と痛感した。
 紛争が終結すれば復旧・復興開発の段階に入る。しかし、埋設された地雷や不発弾は明らかに開発の妨げになるし、長く人々の生活上の脅威になる。その対策を考えないといけない、と思った。その後、2003 年にアフガニスタンでの無償資金協力を通じて日本の地雷除去機や地雷探知関連機器の実
用化試験が始まり、やはり“この分野は日本がリードしていくべき
テーマだ”と確信した。その当時、「平和構築」という言葉を聞く機
会はそれほどなかった。

渡辺 その後、カンボジアに対する取り組みが始まっていくが、
JICS としては、知識や経験がまったくない中、文字どおり“手探り
状態”で業務を開始せざるを得なかった。当時の担当者は、基本的
な知識を求め地雷問題関係の本を買い漁り自習するとともに、防衛
省OB、大学の研究者、地雷問題に取り組む民間団体などを訪問
し、情報収集と関係者とのネットワーク化を行った。
 また、当初は灌木除去機の防弾ガラスが武器輸出三原則の審査対
象となり、許可が出るまで経済産業省、メーカー、商社との間で協
議を重ね、何度も資料を提出するなど大変な苦労があった。

竹内 カンボジアでは「カンボジア地雷対策センター(CMAC)」
が中心的に地雷処理に当たっている。CMAC に対して無償資金協
力の支援を始めて、すでに25 年にもなる。地雷対策と並行する形
でJICS は2003 年4月から小型武器回収プログラムの実施監理機
関として、資金管理を含めた案件管理業務を担当した。回収は直接
武器を持ってくる人もいれば、紛争時に武器を隠すために掘った場所に案内され、そこを掘り返して大量の武器を回収することもあった。注意しなければいけないのは、周辺に地雷が埋設されていることだ。CMAC と協定を結び、地雷探査を行い、小型武器の回収と共に地雷の除去にもあたった。
 また、ラオスはベトナム戦争中の空爆により深刻な不発弾汚
染の問題を抱えており、1996年に不発弾対策専門機関UXO Lao
を設立した。日本政府も灌木除去機などの調達や除去活動支援のた
めの無償資金協力を実施し、JICSはプロジェクト管理を行った。こ
の中でCMAC はUXO Lao に対する技術支援も行われた。
 カンボジアの経験と実績がその後、ラオス、コロンビアなどの不
発弾・地雷対策支援へとつながっており、これまでの流れをふり返
ると感慨深いものがある。

開発に注いだ民間の情熱

── カンボジアでの取り組みは、官民連携の先駆的かつ典型的な事例ではないかと思います。

渡辺 2006 年に地雷除去活動を支援する機材の開発研究が本格的
に始まった。研究活動を進めていく中でJICS は機材選定をしなけ
ればならなかった。とにかく、やる気のある意欲的な企業を引っ
張ってきて日本全体で取り組んでいこうという流れを形成していっ
た。その上で、カンボジアであればカンボジアの土地・環境に合っ
た地雷除去機や探知機の開発研究をメーカーなどと一緒になって進
めていった。
 探知機が実用化されたのは、ほんの数年前のこと。開発研究に着手し
て20 年かかっている。本当にメーカーなど民間の力がなければ地雷除去機
も探知機も開発できなかったと思っている。

竹内 まさに民間の粘り強い努力と情熱がなければ実用化は難しかったと思う。

渡辺 地雷の除去が終われば、その土地を農地化し食料を生産で
きるようになる。農民の生計向上につながり、村自体が良くなる。

竹内 外務省予算による地雷除去活動強化計画プロジェクトでは、農地の造成にも予算を使っている。カンボジアのバッタンバン州では州農業局への支援をパッケージにしながら、例えば水路を整備し農地化を進めている。地雷除去の次には農業・農村開発が必要になる。

渡辺 地雷除去活動強化計画プロジェクトの枠組みには農村開発
というポーションもある。これを通じて農道や橋などを作ってい
る。こうした基礎的なインフラが整備されると、市場のアクセスが
格段に良くなり、生産した農産物を売りやすくなる。そして農民た
ちの生計向上につながっていく。カンボジアでは造成された農地で
キャッサバ、トウモロコシなどが生産されており、技術協力で稲作
のトレーニングも行われた。

カンボジアCMAC による操作トレーニングを 受けるコロンビア人道的地雷除去チーム


ウクライナ復旧支援に向けて

── ウクライナの緊急復旧計画などが動き出し、重点分野に「復
旧・復興の前提となる地雷・不発弾対策」が掲げられています。カ
ンボジアやラオスなどの経験と実績が生きてくると思います。

渡辺 先般探知機材をカンボジアに持ち込み、ウクライナから担
当者を呼んでCMAC のノウハウを使ったトレーニングを行った。
JICS は裏方としてロジ面を担当したが、1回目のトレーニングを
終え、現在は2回目の実施に向け準備を進めているところだ。

竹内 人材育成という面では、すでに動き出している。紛争や戦
争があれば、止めなければならないし、終結したら地雷や不発弾な
ど“負の遺産”を取り除かなければならない。ウクライナでは誰が
やるか決まっていないが、準備だけはしておきたいと思う。

渡辺 CMAC もUXO Lao も活動資金不足に直面している。日
本政府やJICA の協力で、彼らの国内での発言力も高まった。彼ら
に対する継続的な支援も忘れないで欲しい。



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本記事は国際開発ジャーナル5月号に掲載されています。
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