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【BOOK INFORMATION】日本発のNGOによるアフリカ農業開発の35年間の軌跡をたどる

『農家と共に歩んで』
 本書は35年以上にわたり、アフリカの小規模農家を支援している一般財団法人ササカワ・アフリカ財団(SAA)の軌跡をまとめた書である。アフリカ農業開発の現場の記録は、農業開発に携わる人々に役立つ情報が満載だ。SAA理事長の北中真人氏が本書を解説する。


 本書は、SAAの35年に及ぶ歴史を綴った社史である。それは同時に、変化する時代のただ中において、サブサハラ・アフリカの過酷な大地に生きる小規模農家と共に歩み続けた一NGOによるアフリカ農業開発の記録でもある。原作は、鋭い洞察力と確かなストーリーテリングで知られる米国のサイエンス・ジャーナリスト、トーマス・ヘイガー氏が綴った“Walking with the Farmer”だ。不安定な政治情勢、農村をとりまく社会経済的課題、さまざま
な利害関係者の思惑のせめぎあいを生き生きとした筆致で描いている。
 SAAは、(公財)日本財団初代会長の笹川良一、「緑の革命の父」としてノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーローグ博士、ジミー・カーター元米国大統領という3人の巨人により生まれた。きっかけは1984年に「アフリカの角」を襲い100万人を超える犠牲を生んだ大飢饉だ。当時既に引退間近だったボーローグ博士は、アフリカに「緑の革命」をという笹川氏の熱意に折れ、参画。理論より実践を重視し、晩年近くまでSAAを率いた。ジミー・カーター元大統領は、外交ネットワークと交渉力で政府首脳たちの協力を取り付け、現地農業政策における農業普及の一翼を担う存在としてSAAを位置付けた。SAAが活動を本格化させた90年代のアフリカは、ワシントンコンセンサスの下、小規模農業にとっては厳しい時代だった。それでも、国民の大部分を占め主要な食料生産を担う小規模農家を支援することが、国の食料安全保障を築き、発展を支えるという信念に揺らぎはなかった。
 初期のSAAを特徴づけていたのは、高収量の改良品種と化学肥
料のパッケージをデモンストレーション圃場で展示する手法だ。農村に圃場を置くことで慣行農法との違いを一目瞭然に示した。特にガーナで成功し、政府の全面的な協力を受けて急速に拡大し、同国のメイズの収量は劇的に増加した。
 しかし、アフリカの「緑の革命」の実現は一筋縄ではいかなかった。増産の結果、市場価格が暴落し、豊作貧乏が起きた。一歩前進すると、また新たな課題に直面した。そのたび、SAAは立ち止まり、対策を講じた。そして2010年には、その活動を、生産、収穫後処理・農産加工、マーケットという、バリューチェーンを包括する形に進化させた。
 アフリカではいまだに「緑の革命」は実現していない。それどころか、気候変動や慢性的な土壌劣化など、アフリカの農業や食料安全保障を取り巻く環境はさらに複雑化している。こうした状況に対応するため、SAAは現在、土壌の健全化を主軸とする環境再生型農業、栄養に配慮した農業、市場
志向型農業を事業戦略の3本柱に掲げている。アフリカの小規模農家の食料、栄養、所得の改善に貢献し、ひいては持続可能で強靭な食料システム構築を目指して活動を展開している。
 本書は、アフリカの農業開発の変遷、複雑さを浮き彫りにし、アフリカの農業開発に関心を持つ人々にとって貴重な洞察を提供する一冊と言えるだろう。

電子版は、SAAウェブサイトにてダウンロードできる。
本書に関するお問い合わせは info@saa-safe.orgまで


「農家と共に歩んで」
トーマス・ヘイガー 著
ササカワ・アフリカ財団
1,000円+税


掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2023年8月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)

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