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食糧援助・経済社会開発計画の実施でアフリカの国民生活守る【日本国際協力システム(JICS)援助をカタチに】

インテグレーター機能を強化し調達代理業務の効果発現期す
第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が2022年8月27日、28日の両日に開かれた。コロナ禍、ロシア軍によるウクライナ侵攻などで経済的に打撃を受けるアフリカの国が増える中、調達代理業務を通し食糧・医療・エネルギーなど多様な分野で支援を続けるのが(一財)日本国際協力システム(JICS)だ。その取り組みの一端を追った。

業務第二部地域第六課 巣山 裕記氏
業務第二部地域第六課 福島 紗絵氏

コロナ補正によるアフリカ支援

 JICS が実施する調達代理業は、業務第一部と第二部で推進されており、このうちアフリカを担当するのは業務第二部地域第六課だ。職員は現在15 人ほど。同課で働く職員の実に3 分の2 がアフリカでの生活経験があり、同地に強い思い入れのある“根っからのアフリカ好き”が揃っている。
 その思い入れは語学の面にも表れており、仏語圏アフリカ諸国の担当者はネイティブを含む上級仏語話者が多い。被援助国のカウンターパート関係者らと通訳を介さず、コミュニケーションをとれることは支援案件の迅速、かつ効果的な実施につながっている。本誌も再三伝えてきたことではあるが、強い“語学機能”はJICS の大きな持ち味のひとつだ。
 アフリカにおけるJICS 業務の概況を見てみよう。代表的なスキームは、機動性があり、開発途上国の多様なニーズに対応する「経済社会開発計画」と人間の安全保障の要、“食”を支える「食糧援助(KR)」が挙げられる。また、近年は運輸やエネルギー分野を中心に大型の「インフラ整備」案件の実施にも積極的に関わっており、注目される。
 迅速性や機動性に優れた調達代理機関を活用した無償資金協力の経済社会開発計画は、保健医療や教育、運輸、エネルギー、農業など極めて幅広い分野を対象に、途上国が求める多種多様な機材・製品の調達に威力を発揮している。アフリカに限らず、JICS の専門性を背景とした高い機動性は、外交政策上の要請や国際的な開発課題への取り組みに生かされている。
 新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威をふるう中、多くの途上国に対する緊急支援として注目されたのが令和2年度第一次補正予算による経済社会開発計画の実施だ。100 カ国近い途上国に供与され、このうちJICS はアフリカを含め58 カ国、金額にして約280 億円の調達を担った。アフリカ地域では、仏語圏16 カ国に対する保健医療機材の調達代理業務を実施し、コートジボワール、ベナン、ジブチ、ガボン、ニジェール、コモロの6 カ国については要請された機材は全て契約済みで納入が進行中だ(ジブチは完了)。
 ギニア向けコロナ補正案件などを担当する業務第二部地域第六課の福島紗絵氏によると「現地渡航が厳しく制約される中、メールやオンラインツールを頼りに遠隔で調達代理業務を進めていった。これまでの業務で培ってきた幅広い分野の資機材の知識や調達に関するノウハウ、現地のネットワークがうまく機能している。特にJICS 業務の経験を持つローカルスタッフの存在は大きい」と話す。ギニアに調達する品目は、酸素濃縮器、小型救急車、病院用の発電機などで、機材選定に当たっては業務第二部に配置されている技術課のスタッフと密接に情報の共有を図り、最適な機材を選定した。

国民生活の基礎・食糧を供与

 一方、コロナ禍の食糧援助の実施も苦労が多かった。「新型コロナウイルスのパンデミックは業務の進め方を一変させた。食糧援助についても大きな変革が求められ、その実施は大きな挑戦の連続だった」、こうふり返るのは地域第六課の巣山裕記氏だ。食糧はまさに被援助国の国民生活に直結する最重要物資。不足すれば、栄養や健康、ひいてはあらゆる経済・生産活動に影響を及ぼす。
 食糧援助は長い期間にわたり、JICS が担ってきた重要事業だ。緊急時とはいえ、「人間生活に欠かせない食糧の供給をストップさせるわけにはいかない」という調達代理機関の使命を組織内で再確認・共有し、実施促進に努め
た。現地調査が出来ない中、メールやオンラインツールなどで被援助国側と協議を深めるとともに、巣山氏ら業務担当者は主要な船積港の状況を調査。輸送ルートが機能していることを確認した上、手続きを進めていった。ただ、その手続きも、公正性や透明性の確保に配慮しつつ抜本的な見直しに迫
られた。その一つは、人との接触が大きく制約される中、入札に際しては各入札者が直接、書類を持参することなく応札可能な仕組みを急ピッチで整備した。巣山氏によると、従来、紙でやりとりしていたものを電子データ化し
て、対面でなくても入札が出来るようにするなど見直しを図った。こうした工夫の積み重ねにより、2020 年度に実施した食糧援助の調達手続は、アフリカとハイチの全13 カ国向け全てを完了することが出来た。
 一例を紹介すると、2020 年度カーボベルデ向け食糧援助(供与額2.5 億円)では、政府米(日本米40%、タイ米60 %) とフランス産小麦がそれぞれ調達された。JICS によると、案件開始当初からすでにコロナ禍にあり、現地渡航は困難で相手国側とのやり取りはすべて遠隔で対応した。幸いにも同国は長年食糧援助の受け取り国だっただけにスキームの理解度が高く、迅速実施を後押しする一助になった。天候不良による小麦収穫の遅れやコロナ禍による世界的な海運の混乱もあり、小麦の納入が予定より遅れてしまうという事態が起きた時、カーボベルデ側は食糧在庫ひっ迫を訴え、早期納入を強く望んだという。JICS や日本政府関係者は、食糧を輸入に頼る農業脆弱国にとって食糧援助がいかに期待されているか、再認識したという。

業務実施手法に工夫を重ね

 ロシア軍のウクライナ侵攻に伴い、ウクライナからの穀物輸出が大幅に停滞しており、途上国の食糧問題に危機感が深まっている。先ごろ、ドイツで開催された主要7カ国首脳会議(G7)では途上国に対する食糧の安定供給のため45 億ドル(約6,000 億円)の追加支援が打ち出された。当然、多くのアフリカ諸国もその対象となろう。二国間援助である食糧援助を同じ文脈で捉えることはできないが、トラクターなど農業生産資機材を調達できる経済社会開発計画の実施と併せ、農業・エネルギーをキーワードにJICS の存在感は一段と高まっていきそうだ。
 前出の福島氏は「ウクライナの問題で打撃を受けているアフリカの国は多い。その中、私たちがなすべきことは予定されている食糧援助や経済社会開発計画などを迅速かつ確実に実施していくこと。それが打撃を受けている国にとってもプラスになるはずだ」と話す。
 コロナ禍やウクライナ問題による輸送費、資材・部品価格などの上昇、円安の高進などJICS 業務への影響は多種多様だ。JICS では、事業関係者とのパートナーシップをさらに強め、調達代理方式の業務実施手法に工夫を重ね、インテグレーターとして被援助国、事業関係者双方にとって適正、かつ関係者の参加促進を図り、この難しい局面を乗り越えていく方針だ。

アフリカ向けに船積みされる日本政府米

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本記事は国際開発ジャーナル2022年8月号に掲載されています。
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