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重要なポスト・コロナの青写真作り

日本テクノ(株)の新川勝樹社長に聞く

水分野に高い専門性を持ち、近年は世界銀行案件に取り組むなど事業領域の拡大を図る日本テクノ(株)。新川勝樹社長に新型コロナウイルス感染拡大の影響と当面の課題を聞いた。

知恵を出し合って

Q.現在の業務実施体制についてお聞かせください(4月中旬段階)

 3月の最終週から管理本部・技術本部・取締役員の各部門で当番制を敷き、部門別に少なくとも1人は出社して連絡・調整業務などに当たらせている。それ以外は原則在宅勤務が続いている。現在、主力を置く政府開発援助
(ODA)の主契約案件は、国際協力機構(JICA)の調査、技術協力プロジェクト関連で契約交渉中1件を含む4案件、構成員参加では約10件の実施に当たっている。このほか円借款、世界銀行案件などを実施しているところだ。
JICAの予算ひっ迫問題の煽りを受け減収傾向にあったが、回復基調となった矢先に新型コロナウイルスの感染拡大が起きてしまい、経営環境の厳しさは続いている。

Q.主に国内業務に携わる親会社の日本水工設計(株)との連携はどう取られていますか。

 国内事業は年度明けから仕事を取っていく段階にあり、海外部門で担える仕事があれば振り分けてもらうことは可能である。ただ今後、渡航制限が解けてODAプロジェクトが始動・再開になった時、アサインしていた技術者が国内の仕事に就いていた場合、すぐに海外業務に戻すわけにはいかない。社員数40名弱の当社では、技術者の数にも限りがあるため、その辺の兼ね合いが難しくなると思っている。
 JICAは現在、継続中や新規案件について、本来、海外の現場で行う活動を国内で対応できる部分があれば、当面、国内業務に振り替え、マンマンス(M/M)を付けている。継続中の技術協力プロジェクトであれば各種マニュアルや報告書の作成、データ収集などの作業を国内に振り分け、その分を上乗せできれば既存プロジェクトは何とか凌げるだろう。ただ、物量的にはそんなに大きくはならない。その辺は私たちコンサルタントも知恵を絞り、「国内でやるなら、こういうアプローチで、こういう成果を出していきたい」と積極的にアイデアを出し、JICAとのキャッチボールを活発に行っていく必要がある。

Q.案件公示は途切れることなく、続いています。

 コンサルタントにとっては安心感がある。プロポーザルで契約交渉順位第一位を取り、契約交渉、契約締結と、事業開始までの流れを積み上げておくことは営業資産になり、金融機関の信用度も高くなる。また、案件公示があれば受注の成否とは別に、プロポーザル作成という業務執行につながる。
そのプロセスは、間違いなく技術者を鍛えることになる。プロポーザルの提出にあたっては、オンラインでの受付が可能となっており、業務の合理化、簡素化につながっている。電子化の取り組みは、大いに歓迎したい。

BHN充足に対応

Q.2021年はセネガルで「世界水フォーラム」の開催が予定されるなど、水、あるいは栄養、衛生など、いわゆる人間の安全保障に関わる分野に焦点が当てられるようになってくると思われます。

 世界的に新型コロナ禍が拡大する中、その“気配”は感じている。当社もこれまでアフリカにおける技プロ、無償案件などを通じて、安全な水の確保、手洗いの重要性などを地道に啓発してきた。水、栄養などのキーワードがある中、SDGsが掲げる「誰一人、取り残さない」という思いで協力事業に取り組んでいきたいと考えている。ここしばらく、「質の高いインフラ輸出」という観点から大型のインフラ整備事業ばかりが注目されてきた。だが、もっと“地に足の着いた”ベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)の充足に再
び目を向けていく必要があると考える。ポスト・コロナに向け、アジア、アフリカ、中南米など地域別に、官民合同による大型の調査団を編成し、案件の形成調査をかけることも検討されるだろうが、今こそJICAはBHN案件を形成していくべきであろう。

Q.ODAではアフリカ、中南米など開発途上国を対象としたポスト・コロナの青写真作りが欠かせないと思います。

 当社が得意とする水や衛生をはじめ、保健医療、教育、基礎インフラ整備など、それぞれの分野を得意とするコンサルタントで調査団を編成し、是非実施していきたい。調査業務として発注してもらえれば、参画を目指すコンサルタントは多いはずだ。
 コンサルタントの収益率の悪化は以前からの問題になっているが、コロナ禍はそこに追い打ちをかけている形だ。入札説明書のM/Mと実態上のM/Mの乖離が収益率の悪化を招く大きな要因になっているとの指摘もあり、JICAにはその改善も引き続き、求めていきたいと考えている。

取材対象者:日本テクノ(株)代表取締役社長 新川 勝樹氏

『国際開発ジャーナル』2020年7月号 掲載記事



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