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国際開発×イノベーションで新しい開発協力を切り開く【(株)コーエイリサーチ&コンサルティング】

働き方改革が進む中、人材育成・確保が大きな経営課題に開発協力におけるソフト・コンサルティングのトップ企業、(株)コーエイリサーチ&コンサルティング(KRC)が設立5周年を迎えた。この間、経営統合した旧コーエイ総合研究所と旧システム科学コンサルタンツとのシナジー効果はどう高まったのか。直面する経営課題、今後期待される開発コンサルタントの新しい役割などと併せ、取締役・コンサルティング事業部長の西山隆一氏に聞いた。      
(聞き手:本誌顧問/企画部長・和泉 隆一)
※本記事は2022年7月に掲載しました

(株)コーエイリサーチ&コンサルティング 取締役
コンサルティング事業部長 西山 隆一氏



「拡大」と「変化」への対応

―― コーエイ総合研究所(KRI)とシステム科学コンサルタンツ(SSC)が経営統合し、コーエイリサーチ&コンサルティング(KRC)が誕生してちょうど5周年を迎えました。この間、シナジー効果はどう高まりましたか。
 両社ともにソフト系がメインだったが、KRI は主に産業開発、経済分析、そして教育分野を得意としている一方で、SSC は主に保健、平和構築、そして建築・機材分野に強みがあった。重複する分野はそれほど多くなかったため、統合により1 社でカバー出来る範囲が大きく広がった。
 統合当初は、両社の業務フローの違いから多少の混乱もみられたが、徐々に整備され、現在は落ち着いている。この5年間に人材の交流も進み、出身母体の垣根を越えて案件を受注するなど、シナジー効果は高まっていると思う。

―― 2020 年度における国際協力機構(JICA)のコンサルタント契約実績では共同企業体の代表者受注で第6位、一社の単独受注では第3位の実績を上げられています。JICA 業務の比率は現在どのくらいですか。
 規模の効果が受注増加につながっている一方、2021 年度については、売上の約90%がJICA案件とそれに付随する無償資金協力や円借款事業になる見込みで、事業領域の拡大は引き続き大きなテーマだ。メインの顧客であるJICA の事業内容も変化を遂げており、拡大と変化に対応していく必要がある。大きな潮流の変化をいち早く、的確に読み取り、私たち自身も変わっていかなければならない。
 一方、顧客の偏りによる経営リスクもあり、特に2017 年から18 年に起きた資金ショート問題では大きな影響を受け、売上も大幅に減少せざるを得なかった。JICA 以外のクライアント拡大が重要な営業テーマのひとつとなっており、具体的な方策を模索中である。

―― 新型コロナの影響は出ていますか。
 海外渡航ができなくなり、2020年は経営的に厳しい状況が続いた。2021 年からはコンサルタントの国内アサイン拡充を図り、稼働率を上げていくことにシフトした。その効果により売上は回復しており、昨年には黒字化し、引き続き、今年も堅調に推移している。


“EDU-Portニッポン”を推進

――顧客の多様化という意味では国内市場も大切になっていると思います。
 SSC には元々国内事業部があり、地方自治体の計画作りなどに携わってきた。KRC となった現在も引き続き取り組んでおり、事業を拡大させていきたいと考えている。
 一方、3年ほど前から文部科学省の「日本型教育の海外展開(通称“EDU-Port ニッポン”)」の案件を受託しており、官民協働のオールジャパンで取り組んでいる。承知のとおり、近年日本型教育は海外から注目を集めており、海外展開を図るとともに、その経験を通し、さらに日本の教育の質を高めていこうという事業だ。KRC のコンサルティング・サービスについては文科省から好評を得ており、引き続き充実したサービスの提供に努めていきたい。
 こうした案件を通じて、日本の教育界とのネットワークが広がりつつある。例えば、教育産業界の多様な人々、事業に関わっている大学の教員・関係者の方々などとのネットワークは極めて価値があるものだ。この事業の経験やネットワークは、今後の海外案件などにも十分生かしていけるものだと考えている。

――「国際開発× イノベーション」をテーマとした社内組織「KRC ソーシャル・イノベーション・ラボ」の活動状況や成果についてお聞かせください。
 成果の一つとしては、乳幼児の身長を測定する携帯アプリを開発し、これを開発途上国の栄養バランスの調査に使おうという流れになっている。JICA が運営するJICA Innovation Quest( ジャイクエ)という新しい国際協力のアイデアを生み出すオープンイノベーションプログラムに応募したところ、採択された。
 このアプリは、現在KRC がマダガスカルで実施している栄養関連の技術協力プロジェクトの取り組みから生まれたもので、親会社である日本工営(株)の中央研究所と共同開発を行った。今後現場で活用し、効果が実証されれば商品化も検討している。ソーシャル・イノベーション・ラボについては、途上国の開発現場からさまざまなニーズを吸い上げ、具体的な形にしていきたい。その活性化は今後の課題の一つだ。


ファシリテーション機能への期待

――国際開発援助の潮流も大きなうねりを持って変わってきています。こうした中、開発コンサルタントの新しい役割、機能についてはどう捉えられていますか。
 KRC が得意とする保健医療分野だけでも、例えば介護、栄養、成人病対策、さらに医療保険システムの整備など新しいテーマがどんどん出てきている。また、教育では基礎教育だけではなく、学校給食やインクルーシブ教育などへのシフトが見られる。
 いずれの課題も日本が経験してきた、あるいは現在直面している問題とも共通するものがあり、私たち自身がこうした分野の能力強化に努めるとともに、専門的な知見を有した方々をネットワークし、日本の経験と取り組みを各国の事情に合わせる形で的確に伝えていくハブとしての役割、ファシリテーターとしての機能が開発コンサルタントに一層求められてくると思う。その際、課題になるのが人材の確保・育成である。

――業界全体の課題だと思います。
 “働き方”の多様化とともに、若手社員の育成が重要なテーマとなっている。私は、KRC を社員の自己実現と会社の成長の両立が図れる会社にしたいと考えている。現在、社内で人事タスクフォースを立ち上げ、制度の見直しを検討している。リモートワークが定着しつつある中、社員間のコミュニケーションにも工夫が必要である。社員がやりがいをもって働けるよう、今後、さまざまな方策を検討し、実施していきたい。
 一方、KRC では多くの社員が、育児あるいは介護と、自分のコンサルタントとしてのキャリアを両立しようと頑張っている。新型コロナの影響もあり、従来は海外の現場で実施していた業務も、ある程度国内で対応できることが分かった。国内業務への振替が増大するのに伴い、さまざまな事情を抱えたこうした社員に仕事の場を創出したことは確かだ。「これでキャリアを継続できる」と喜んでいる社員も多く、人材確保の面で、国内業務の活用はひとつの方策となるだろう。また、育休を取得する男性社員も多く、第一子と第二子で通算3年の休みを取った社員もいる。働き方が多様化する中、社員の仕事と暮らしを守る支援制度の充実も次なる5年の重要な課題である。


本記事掲載誌のご紹介

本記事は国際開発ジャーナル2022年7月号に掲載されています。
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