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【イベントレポート】ファッション起業のリアル~起業3年でブランドはどう成長する?~

クリエイター系起業家は起業初期に困難をどう乗り越えたのか?
イデタチ東京を卒業したばかりの3事業者をゲストに迎え、起業前後の紆余曲折、起業の醍醐味や法人化の必要性、起業支援施設の活用方法まで、3社3様のリアルなエピソードをお届け。
起業前後の3年を経て、どのようにブランドや事業を成長させてたかを共有します。

◆スピーカー
市勢 善浩氏(フェイバニッツ合同会社 代表)
アパレル企業経験35年、マーチャンダイジング経験30年、ニット専門学校就学1年のノウハウ・アイデアを生かし、アパレルビジネスの新モデルを実現すべく2021年3月にフェイバニッツ合同会社を設立。ミドル世代に向け、すっきりとした見映えと着心地の良さを両立した日本製メンズニットジャケットブランド「FavorKnits」を運営。「日暮里ファッションデザインコンテスト2020」グランプリ受賞「荒川区ビジネスプランコンテスト2021」入賞、「第3回東京シニアビジネスグランプリ」優秀賞・オーディエンス賞をW受賞。

根岸 渓介氏(合同会社BeastBarracks 代表) 
職人の技術を駆使したテキスタイルデザイン、インフルエンサー特化型アパレルブランド運営を主軸に、パターン、縫製、ニット、シルバーアクセサリーから家具まで幅広く手がける。服作りの全工程を自ら行う。

佐藤 怜氏(株式会社EBRU 代表取締役)
1991年、岩手県生まれ。2017年に金沢美術工芸大学 工芸科 染織コース卒業。その後、イタリアにファッションアクセサリーを学ぶためにMA留学。テキスタイルメーカーで経験し帰国。
2016年 神戸ファッションコンテスト 特別賞。International talents support 2020 アクセサリー部門ファイナリスト・Swatchアートワーク賞受賞。2021年株式会社EBRU設立。WWD×ルミネ「ネクストリーダー2022」選出。

※本記事は、2024年3月27に行ったイデタチ東京のイベント「ファッション起業のリアル~起業3年でブランドはどう成長する?~」を元に、市勢さん・根岸さんパートを中心に再構成しています。

法人設立~3年を起業グラフに沿って紹介

①フェイバニッツ合同会社 市勢さん編

■事業内容:D2CブランドFavorKnits(日本製メンズニットジャケット)

ポイント
・起業1年目に創業融資を受けるコツ
・クラファンという受注生産の活用
・ピンチからの過去最高売上

FavorKnits 起業のライフチャート

起業した理由を教えてください

30年以上アパレル企業でサラリーマンをしていました。定年前のタイミングで、今までのキャリアを活かしながら、やりたいことで事業をしたい、ならば「起業しかない!」とアパレルで起業しました。

最初に始めたことは?

退職後、荒川区にあるニットの専門学校に入学し、ニットに関する知識や技術を習得しました。起業の知識は、TOKYO創業ステーション(東京都中小企業振興公社)を活用。3年分の事業計画を立て、現在も当時作った計画書をベースに収支計算や資金繰り表を更新しながら活用しています。商品コンセプトは法人設立前に作成していました。会社設立後は、すぐにECサイトで販売を開始。受注生産ではなく、製品をある程度作ってから売るため、先行して工場に発注するなどの準備をしていました。

1年目で創業融資を受けた理由は?

創業融資の制度は、使えるときに使っておくのがベターだと思います。1期目の決算前に融資を受けるのがいいと思っていて、というのも、1年目の決算後は、売上結果をもとに融資額を判断されてしまうのです。1期目決算前に借りられるだけ借りるのが個人的におすすめです。

事業計画をしっかり作り、活用し続けている市勢さん

クラウドファンディングはどのように活用しましたか?

FavorKnitsのニットジャケットは、1着5万円前後ですが、立ち上げたばかりの知名度のないブランドの5万円のジャケットをECサイトで買う人は、高額なのでなかなかいないんです。機能性を前面に打ち出して説明できるクラファンのプラットフォームに掲載することで、安心して買ってもらえると考えました。クラファンをうまく使うと受注生産に近い形にできるので、在庫はほぼ消化しましたし、先に売上が入るので資金繰りの心配がいらないのがよかったです。ブランドの初動期にクラファンを活用するとよいと思います。

資金のピンチはどう乗り越えましたか?

初年度は、役員報酬を高めに設定したり、税理士などに依頼する費用を甘めに設定した関係で、キャッシュがどんどん減っていきました。そのピンチは経費の見直しや自己資金の投入で乗り切りました。
アメリカのクラファン「キックスタータ―」に挑戦したものの、日本ほど売上が上がらず、自社サイトで受注生産に近い形の販売を行いましたが、想定より結果が出ませんでした。この時が、起業のグラフ上で一番ピンチでした。
アパレルは在庫を残すのが致命的。ブランドの方針として、生産工程の原料廃棄をゼロにしムダを無くしてセールをしていないので、売り切る必要がある。そのバランスをどう取るかが、今後のビジネス上の課題です。

ECサイトで過去最高売上の要因は?

リピーターや新規のお客さんが徐々に増え、3期目は黒字達成しました。要因として「これが効いた」というものはなく、さまざまな要素が重なった結果。黒字と言っても微々たるもので事業計画通りには進んでいません。

今後の野望は?

Made in JAPANで海外進出
FavorKnitsのジャケットは、日本製です。国内の工場が激減し、現在アパレルのマーケットで日本製の割合は実は1.5%程度。国産アパレルが希少な中、上質な日本の製品としてFavorKnitsをアピールしていきたい。DtoCブランドなので、いつかショールームをつくり、製品を広めていきたいです。

②合同会社BeastBarracks 根岸さん編

■事業内容:アパレル/ジュエリーOEM・テキスタイル開発・アーティスト/インフルエンサーのブランド運営など
https://ibmg.shop.beast-barracks.design/

ポイント
・一人起業の激務と孤独
・高利益率の戦略
・ファッションデザイナーが経営を理解しておく意味

Beast Barracks 起業のライフチャート

起業したきっかけは?

文化ファッション大学院大学時代に、自分が作って働いた分だけお金が入る面白さを感じ、個人事業主として起業しました。年間200万くらい稼げればと考えたので、当時の元手は30万円ほど。この1年後にイデタチ東京に出会い入居します。

法人成りしたメリットは?

ずっと個人事業主でいることもできましたが、徐々に取引先が増え、イデタチ入居1年後の2022年に法人成りしました。
過去にイデタチ東京のイベント「起業のアトリエ」でもお伝えしましたが、法人化したメリットは、信用度の向上と、無担保無利子で公庫から融資を受けられる点。合同会社は設立費用が安く、手続きが簡単な点がよかったです。荒川区の特定創業支援等事業の補助金を使い、3万円程度で開業しました。

受注生産にしている理由は?

大量生産・大量消費に違和感があり、足りるだけ生産したい思いから、受注生産制にしています。先に一定額入るため、資金繰りに無理がありません

1人経営の孤独と激務とは?

イデタチ入居時は3人チームでしたが、結果1人になりました。事業もうまくいき、利益が伸びてきた時期でしたが、600個を1人で発送するなど激務でした。当時の記憶はないですね。一方で、ステークホルダーが安定し、これまでのデータを活用し売上げ見込みを正確に読めるようになってきた時期でもあります。事業は安定するも、1人で抱え込んで経営していたので、激務かつ孤独でした。今は、先々の見通しが立つと、精神的にも安定することがわかりました。

利益率の高さをどのように実現していますか?

自社か外注かを戦略的に考えています。例えば、ジュエリーと服を比べると、ジュエリーの方が利益率は高いんです。そのため、事業配分として、ジュエリー:服=7:3などにしていました。その上で、ジュエリーは、“ほぼ”一貫して自社製作。ほぼというのがポイントで、デザインから型の製作、研磨までを行っていますが、鋳造部分のみランニングコストがかかるため外注しています。自社の方がコストカットできる工程はすべて自社でやっています。このように自社と外注の比率を分けて利益率を上げています。
ジュエリーの利益率が高い理由を考えていくと、さまざまなことが見えてきます。ものができる工程を知っていると、「この部分をもっとよくできないかな?」と、いろいろな発想が生まれてオリジナリティにつながるとも思っています。

多岐にわたる事業を展開している根岸さん

デザイナーと経営、起業はどのような位置づけ?

ブランドを持つのが夢なので、現状は多軸展開のため一見遠回りしているように思われるかもしれません。僕は結構怖がりで、失敗はしたくないタイプなので、リスクヘッジをしたいんです。やるなら命をかけてやりたい。
経営の知識やお金の動かし方がわからずに、デザイナーとしてだけで生きていくと、結局誰かに使われてしまったり、やりたくないことをやらないといけない状況になったりします。先にさまざまな事業をやってみることで、知識を一通り持ち、自分を守りたい気持ちも強いです。将来的にはデザイナーとしてやっていきたいですが、経営を理解しておきたい
起業の経験を、自分のやりたいことをやるための基盤にしていきたいです。

根岸さんの野望は?

後世に紡がれていくブランドをつくりたい。これだけですね。

Q&A 参加者の質問に卒業生がアンサー

参加者から寄せられた質問に卒業生が回答しました

Q1.資金繰りについて知りたい

A.資金繰り表を作り、毎月見るとわかることが多いです。経費は大体決まっていてコントローラブルなので、可視化できていれば間際で慌てることはないですね。(市勢)

Q2.なぜイデタチで起業したのでしょうか。また、卒業後の事業所の場所はどう決めたのか

A.インスタ広告でイデタチの存在を知り、自分が荒川区出身ということと、賃料が安かったことが決め手です。イデタチ卒業後に荒川区内でオフィスを構えると区の賃料補助を受けられるので区内で探しました。荒川区は安い物件が多くおすすめです。(根岸)

Q3.小規模アパレルの利益率の目安は?

A.どう売るかによります。大手だと原価率20-25%と言われています。とはいえやってみないと持続可能かは判断できないですね。まずは1年やってみてはいかがでしょうか。(市勢)

Q4.起業何年目くらいからやっていけると感じられましたか

A.起業前からです。そうでないとやれないです。(根岸)

Q5.これまで売上ゼロの月はありましたか

A.あります。(全員)
   収支計画をしっかり立てて先が見通せていれば怖くないですよ。(市勢)

Q6.一人でジュエリーを製作しています。OEMをどこに頼めばいいかわかりません

A.外注する際、どこまで任せるかを判断するボーダーラインを持っておくこと。型のみご自身で作り、量産は外注などはありかもしれない。1社に頼むのはリスキーです。(根岸)

Q7.資金準備にストレスがありましたか

A.コロナ融資で低金利だったのでストレスは全くなかったです。(根岸)
事業計画書、資金繰り表を最初に準備することでストレスはなくせますよ。(市勢)

Q8.イデタチに入居したからこそできたことは?

A.インキュベーションマネージャーが温かく親身に起業・経営の相談にのってくれます。(根岸)
   ほかの入居者との協業が生まれます。(市勢)

イデタチ東京ロゴを囲んで市勢さん、佐藤さん、根岸さん


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