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オセロ宇宙大会(本多のSFショートショート)

友人にすごい嘘つきがいる。

先日、高級車の前でどや顔をしてる写真をくれて元気そうで何よりだ。笑

会おうよと言ったら「会うしかねーべな!」と言ってるから、近くに住んでるし楽しみだ。笑

ものすごい嘘つきが世界を巻き込む話が読んでみたい。誰か書いてくれ。こんな話が読みたいというのを思いつく限りで書いてみた。

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ある嘘つきがいる。

そいつはとにかく落ち葉のような嘘をたくさんついて、大樹のようなドエライおおごとを隠ぺいしている。

たくさんの嘘をつくことで自分の存在可能性すら希釈して、実体的には透明人間(インビジブルマン)、存在的には自らを虚構化する超能力をもつ。

彼は嘘をつくほどますます透明化して悪事もできるし喜んで嘘をつきまくった。透明人間になれば銭湯で女湯に入ったり、コンビニでアイスを万引きし放題だ。

しかし、「あるおおごと」の事実が明るみに出たときに、彼は窮地に立たされてしまう。

大事の発覚に慄然として凍り付いた彼は、文字通り結晶化して透明化と虚構化が困難になった。

それでも追い詰められて必死の彼は「虚」と「実」をオセロの石の表と裏みたいにひっくり返して、事実をウソにすることに成功した。日頃のウソのたまもので、過去にさかのぼって遡及的に事実を塗りかえる超能力までついに手に入れたのだった。

彼はガラスの靴のシンデレラが灰かぶりに戻るように、結晶化が解けて自由に再び走りまくれるようになった(トマス・ピンチョンの「重力の虹」に人間の皮膚の色を司るチロシンを意のままに代謝させることで皮膚の色を自由に変えられる、自動色彩幻覚という超能力の持ち主が出てくる。オセロみたいに身体の半分が黒、もう半分が白のオセロ人間になるというのも面白いと思う!!)。

ところが、真実がウソ(真→虚)になったら、ウソが真実(虚→真)になってしまった。

彼がいままでについた小さな取るに足りない膨大なウソがすべて本当になった。「○○くんの消しゴムを盗んだのは僕じゃありません」「僕はカンニングしてません」これが真実になったからと言って彼が潔白になるだけで、大したことはないのだが、「人を殺したことがある」という幼少期のウソが真実に、「地球を三回くらい滅亡させた」「糞尿を食べたことがある」「バッタを食べた」「幽霊を見たことがある」「宇宙人と交信したことがある」「イチローを育てたのはおれ」「貯金が5京円ある」「第三次世界大戦がもうすぐ起こる」すべての、呼吸するようについた、誰が聞いてもウソだとわかる低次元なホラが全部本当になった。

「おれはこれまでの人生で一度も嘘をついたことがありません。これは嘘ですけど」こういうややこしいことを言うやつだから困る。

地球どころか宇宙が大混乱になった。宇宙ドーナツ説を唱えたことがあったから宇宙がドーナツの形になったり、この世が何度も終わったり始まったりを繰り返した。

すべてがメチャクチャになった時に彼は「オセロ宇宙大会」の会場で、藤井聡太とオセロの対局に取り組んでいたが、どうしても勝てないとわかると、審判をリボルバーで撃ち殺して、オセロ盤をひっくり返して、「おれを勝たせんかい!」と藤井選手の胸倉をつかんで恫喝した。

混乱した世界にやけくそになった彼がとっさに起こしたこの行動が、正解だったらしい。窮地に立たされたゴキブリはIQが瞬間的にはね上がり、300を超える知能指数で危機を脱するという嘘くさい研究があるが、彼はメタ解法の天才を発揮した。

オセロ盤をぐしゃりと踏みつぶし、石があたり一面にバーッと飛び散り、審判は血をどくどく流して絶命し、藤井聡太はくるくると目を回してぶっ倒れていた。

そうなのだ、彼はオセロで藤井選手に勝ったのだ!

オセロの試合に腕づくで勝利すると、世界が元に戻った。しかし彼はすべての超能力を失った。

彼が裏返しにした「あるおおごと」の事実は、元通りの事実に戻り、彼はその追及をうけて社会的な立場をすべて失った。彼の透明だった存在は、太いGペンで描いた漫画の輪郭のようにくっきりし始めて、ついに彼は嘘いつわりのない人間になった。

めでたしめでたし



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