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このはしわたるべからず ブラックな一休さん

【このはしわたるべからず】

ある日、一休さんが桔梗屋の店の前の橋を渡ろうとすると、橋の通行を禁止した看板が立てかけてあった。

「またいつもの無理難題だな。あわてない慌てない」

そこへおれが通りかかった。
一休さん「すいませーん、そこの卑しき身分の者。あなたはこの看板をどう読みますか?」
おれ「あなたはもしかしてあの一休さんじゃないですか!?それにしてもその呼び方はひどいなあ」
一休さん「桔梗屋さんは私にいつもこんな意地悪をするのです」

おれ「わざと平仮名で書いてあるようだし、見かけほど明解な文ではないようですね」
一休さん「そうなんですよ。こ・の・は・し・わ・た・る・べ・か・ら・ず。さっぱりわかりません」

おれ「この看板は一休さんを悩ませるためにわざとそこに掲げられているのですね。だから橋が崩れかかっているから危険を回避するための警告という意味はない。はし(橋)という言葉は、この橋を指し、たとえばロンドンやパラグアイにある橋を指し示しているのではないこと。わたるべからず とは(今)わたるべからず ということであり、(今夜)わたるべからず(明日)わたるべからず ではないこと」

一休さん「ポクポクポクチーン。わかりました。あなたひとつここで馬になってください」
おれ「馬ですか?これでいいですか?」おれは渋々、その場で四つん這いになった。
一休さん「そうです、それでいいです。そのまま僕を乗せたまま橋を渡ってください」
おれ「わっわかりました一休殿!」

おれは屈辱を感じながら一休を運んだ。
橋のむこうには桔梗屋さんが腕を組んで、今度こそ一休をぎゃふんと言わせようと待ち構えている。

桔梗屋「こら一休さん!あなた橋の前の看板をちゃんと読んだのですか?」
一休さん「私は橋を渡ったのではありません。この身分卑しき者の背中に乗っていただけです!」

桔梗屋さん満面の笑みを浮かべ、大げさに両手を拡げてわっと驚いてみせた。

桔梗屋「これは一本取られた!!と言いたいところですが一休さん。私が看板にこめた意味とは、ちと違うようですな!」
一休さん「わかっていますよ桔梗屋さん。このはし渡るべからずとは、端っこを渡るなという意味で、橋の真ん中を通ればいいのですよね!だからこの男に橋の真ん中を渡るようにさせたじゃありませんか」

桔梗屋は今度は本気で驚いた顔をした。おれも驚愕のあまり呆然としている。

桔梗屋「いやあ一休さんも人が悪いなあ。わかってるなら初めから一人で歩いて渡ってこればよかったのに」

一休さん「いやあ丁度いい男がいましたので。桔梗屋さんが考えていたのとは異なる、判定のつきかねる方法をとって意表をついておいて、その実、ちゃんと正解もしてみせようと思いました。実行したトンチに2とおりの意味をこめて彩りを添えるくらい僕には容易いことでした。今度はもっと難問でお願いしますね」
桔梗屋「わははは。一休さんも冗談がきついですなあ」

一休さん・桔梗屋「あっはっはっはっは」
おれの立場はどうなるのだ?気分を害したおれは退散しようとしたがどうも雲行きが怪しくなってきた。二人が疑惑の眼をおれに向けている。

桔梗屋「それよりこの男、実に奇妙な身なりをしていますな。南蛮の装いでしょうか?」
一休さん「私にも彼の正体はわかりません。われわれの住む世界とは異なる、どこか黄泉の国からやって来た異邦人のように、私には思えてなりません」
桔梗屋「げに怪しげ。ひっ捕らえて牢に閉じ込めろ!」
「ハッ!!」

桔梗屋の丁稚に縄で縛めらたおれは地下の牢に閉じ込められた。その後、身柄を侍所に引き渡され、言語を尽くしてタイムマシンを使って未来の世界からやって来たことを弁解したものの、要領を得ぬと速やかに処刑は執行され、通りの辻に重犯罪人と一緒に首が並べられた。

おれが遺したタイムマシンを見つけた一休は、バブル期の日本にタイムスリップ。ジュリアナでトンチの威力を発揮してモテまくったそうだ。

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