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理詰めで誰でも面白いストーリーが作れる 7 キャラクターの個性とは何か

面白いストーリーを作るための、充分な量と質の理論を提供する連投テキスト。
7回目である今回は、キャラクターの個性を決定付ける要素、行動規定因子という概念について述べる。

行動規定因子

前回のテキストで紹介したキャラクターシステムの図を、以下に再び示すので見ていただきたい。

例えば寒井くんと暑井さんという二人のキャラクターがいて、寒井くんは極度の寒がりで、暑井さんは極度の暑がりだとしよう。
そして、二人がそれぞれ別々の部屋に入ったところ、いずれも室温が23℃だったとしよう。
つまり、「室温23℃」という同一の「状況」が、寒井くんと暑井さんの双方に、それぞれ「入力」されるのだ。

この時、極度の寒がりである寒井くんは、「室温23℃」という「状況」の「入力」を承けて、「暖房をつける」という「行動」を「出力」する。
一方、極度の暑がりである暑井さんは、「室温23℃」という「状況」の「入力」を承けて、「冷房をつける」という「行動」を「出力」する。

このように、同一の「状況」が「入力」されても、キャラクターが異なれば「出力」される「行動」は異なる。
つまり、キャラクターの個性は行動に表れるのであり、キャラクターの個性とは行動の個性であると言い換えることもできるのだ。

それでは果たして、その行動の個性を決定付けている要素とは、一体何であるのか?
私はその要素に対して、行動規定因子という、独自の呼び名を付けている。

行動規定因子とは読んで字のごとく、キャラクターの行動を規定する(決定付ける)要因のことである。
上の寒井くんの例で言えば、「極度の寒がり」という体質が、行動規定因子に当たる。
行動規定因子にはさまざまなものがあり、例えば「節約家」という性格や「貧困」という境遇も、行動規定因子に含まれる。
「極度の寒がり」でありながら「節約家」で「貧困」である場合、「室温23℃」という「状況」の「入力」に対して、「出力」される「行動」は「暖房をつける」ではなく、「厚着をする」とか「毛布をかぶる」とかになるかも知れない。

前回のテキストで、キャラクターシステムの内部で行われる処理(目的の検討・設定と行動の検討・決定)について述べたが、その処理における判断の基準となるのが、行動規定因子なのだ。
キャラクターによって「最適な」目的・行動は異なるとも述べたが、何が「最適」かを決定付けるものこそ、まさにこの行動規定因子なのである。

行動規定因子の五つの領域

行動規定因子の全体像を把握していただくために、次の図をご覧いただきたい。

これは、行動規定因子を主軸に据えた「キャラシート」である。
以後、この「キャラシート」のことを、行動規定因子表と呼ぶ。
左上の「登場人物名」、中央上部の「概要」、右上の「類似の既存キャラクター」「属性」以外、表のほとんど全域を占めているのが、「行動規定因子」である。

そして表内に示されているように、行動規定因子には五つの領域がある。
百聞領域一見領域能力領域意識領域無意識領域の五つだ。

百聞領域とは、そのキャラクターについて知っている誰かから、話を聴くことによって判明する、行動規定因子である。
一見領域とは、そのキャラクターと実際に接触してみて、ある程度親しくなることによって判明する、行動規定因子である。
能力領域とは、そのキャラクターの能力や関心事に関する、行動規定因子である。
意識領域とは、そのキャラクターの精神(知・情・意等)に関して、そのキャラクター自身が意識・自覚できている、行動規定因子である。
無意識領域とは、そのキャラクターの精神に関して、そのキャラクター自身が意識・自覚できていない、行動規定因子である。

先程の例で言うと、
「極度の寒がり」「極度の暑がり」という体質は能力領域に、
「節約家」という性格は(思考習慣の一種とみなせるので)無意識領域に、
「貧困」という境遇は百聞領域に、
それぞれ属する。

表を見ればわかるように、行動規定因子の数は膨大である。
しかもそれらの行動規定因子のうち、どの行動規定因子がどの程度優先されるかという点についても個人差がある。
仮に全ての行動規定因子が全く同じである二人のキャラクターがいたとしても、各因子の優先順位が異なっていれば、二人の行動は全く異なったものとなる。

例えば、先の暑井さんが、「極度の暑がり」でありながら「貧困」でもあり、「極度の暑がり」という因子の方が「貧困」という因子よりも優先されるとしよう。
その場合、「室温23℃」という「状況」の「入力」に対して、「出力」される「行動」は「冷房をつける」になるだろう。
一方、暑杉くんというキャラがいたとして、彼は「極度の暑がり」で「貧困」という、暑井さんと同じ因子を持ちながら、彼の場合は「貧困」という因子の方が「極度の暑がり」という因子よりも優先されるとしよう。
その場合、「室温23℃」という「状況」の「入力」に対して、「出力」される「行動」は「薄着になって団扇を使う」になるだろう。
このように、行動規定因子が同じであっても、優先順位が異なっていれば、行動は違ってくるのである。

以上が、行動規定因子についてのあらましである。
ちなみに、この行動規定因子表の具体的な使い方については、次回のテキストで詳しく述べる。

「生身の人間」と「操り人形」

キャラクターの個性とは行動の個性であり、行動の個性を決定するのが行動規定因子である。
つまりキャラクターの個性とは、行動規定因子によって決まるのである。

前々回のテキストで私は、「生身の人間」を描くことの重要性について言及した。
そのため読者諸氏の中には、次のような疑念をお持ちの方もいらっしゃるかも知れない。
「行動規定因子などというやたら理屈めいた概念を持ち出して、それがキャラクターの個性だなどと言い張るのは、生身の人間を描くことに反するのではないか?」

仰りたいことは非常によくわかる。
確かに「生身の人間」という言葉が極めて有機的な印象を与えるのに対して、行動規定因子という言葉は極めて無機的な印象を与える。
ついでに言えば前回のテキストで述べたキャラクターシステムという概念も、非常に無機的な印象を与える。
そこに違和感や疑念をお持ちになるというのは、ある意味当然のことではある。

しかし、方法論が無機的であるからといって、「生身の人間」が描けないというのは、先入観に基づく誤解である。
そもそもこの連投テキストは、「理詰め」を特徴としているのであるから、提示する方法論が無機的になるのは、むしろ自然なことだと言えよう。
「精魂込めてキャラクターに生命を宿らせるのだ」などという精神論を語り出したら、「理詰め」もへったくれもない。
問題は方法論が無機的であるかどうかではなく、その方法論に基づけば、本当に「生身の人間」が描けるのか否かであろう。

私が「生身の人間」という言葉を用いるとき、その対義語として主に想定しているのは、「操り人形」という概念である。
下手なストーリーにありがちな現象として、主人公を含めた全てのキャラクターが、常に作り手にとって都合のいい行動ばかりするというものがある。
この現象に対してよく聞かれる批判として、「キャラクターが単なる駒として扱われている」「キャラクターがまるで操り人形のようだ」といったものがある。
それらの批判の根底にあるのは、キャラクターの自発的な意思が感じらず、ただただ作り手の作為に従って動いているだけという状況に対する、強烈な違和感・不快感がある。

「生身の人間を描け」という私の言葉の奥には、「キャラクターに自発的な意思を持たせろ」「作り手の作為とは無関係にキャラクターを動かせ」という深意が込められている。

よく聞く作り手の体験談として、「キャラが勝手に動き出す」というものがある。
「生身の人間を描く」というのは、そのような「勝手に動き出すキャラ」を作る・描くという意味である。
「勝手に動き出す」などと言うと、いかにも理屈を超越した超常現象や精神論のような印象を与えるかも知れないが、実はその現象の実態こそ、行動規定因子の為せる業なのだ。

「操り人形」現象がなぜ起このるかといえば、そのキャラクターに充分な行動規定因子が設定されていないか、作り手がその設定を無視・軽視しているせいで、キャラクターの「出力」する「行動」が、ひたすら作り手にとって都合のいいものばかりになってしまうからだ。
もし充分な行動規定因子が設定されていて、作り手が常にその設定を念頭に置いて重要視していれば、「出力」される「行動」は、作り手の都合とは無関係に、そのキャラクターの自発的な意思を感じさせるものとなるだろう。
「勝手に動き出す」という現象は、そのキャラクターの行動規定因子の設定が、完全に作り手の無意識にまで根を下ろした結果、そのキャラクターの自発的な意思を感じさせる「行動」が、自然と「出力」されることによって発生するのだ。

要するに、「生身の人間」としてのキャラクターを作る・描くためには、充分な行動規定因子を設定し、その設定を遵守するという方法が、極めて有効なのである。

まとめ

キャラクターの個性は行動に表れるので、
キャラクターの個性は行動の個性とも言い換えられる。
行動の個性を決定付けるのは行動規定因子であるので、
キャラクターの個性を決定付けるのは行動規定因子である。

行動規定因子の種類は膨大であり、
百聞領域、一見領域、能力領域、意識領域、無意識領域という、五つの領域に分けられる。
また、各行動規定因子の優先順位によっても、キャラクターの個性は異なる。

「生身の人間」としてのキャラクターを作る・描くためには、充分な行動規定因子を設定し、その設定を遵守すべきである。

今回のテキストは以上である。
最後まで読んでくださったそこのあなた、本当にありがとうございましたm(__)m

参考文献
○ロバート・マッキー著、越前敏弥訳『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(フィルムアート社)(2018年)
○沼田やすひろ『超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方』(講談社)(2011年)
○Webサイト『コトバンク』内「政治体系」の項(https://kotobank.jp/word/政治体系-1178804)
○アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ著、新田享子訳『トラウマ類語辞典』(フィルムアート社)(2018年)

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