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お店から出されたレシートというお題に、どんな神様をつくろうか答える。言ってみれば大喜利をやってたんだと気づいた。私にとって「タダのカミ様」ってそういうことだったんです。 〜タナカマコトさんインタビュー〜

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【タダのカミ様】
レシート×切り絵×神様

最近はコンビニで不要な人向けの箱が用意されているレシート。購入した証なのに、ぞんざいに扱われがちな存在。そんなレシートを切り絵作品にしているアーティストがいます。タナカマコトさんは広告業界に一度は足を踏み入れますが、自分の居場所はここじゃないと2年であっさり辞め、バイトをしながら切り絵をしていました。その後切り絵の仕事が少しずつ増え、今では資生堂のCMやユニクロの展示と活動の場が広がっています。レシートをどうやって作品にするのか、アイデアはどこからやってくるのか伺いたくて時間をつくっていただきました。

——今日はよろしくお願いします。新作を持ってきていただいてますね。

タナカマコトさん(以下、タナカ)はい、8月22日から大阪のスパイラル・マーケットで展示が始まるのですが、新作30点を展示する予定なので、現在、制作に追われている日々です。毎日2点を目標に制作していますが、娘を保育園に預けている間だけだと到底間に合わないので、寝かしつけた後、深夜に制作することも。笑

——そんな大変な時にありがとうございます。これが作品ですか。わー!どれもすごく細かい!

タナカ ありがとうございます。レシートに印字された文字からモチーフを考え、神様に見立てて切り絵します。これは「くいだおれ」のレシートなので、「くいだおれ人形のカミ様」というテーマで切りました。

「くいだおれ」の文字が切り抜かれているレシート

——うわ、ホントだ。くいだおれの文字がちゃんと残されて切り抜かれてます。

タナカ こちらがスパイラル・マーケットで「豆皿オラウータン」の商品を購入したレシートになります。”オラウータン”のワードが目についたので、オラウータンの神様を切りました。こっちは京都水族館のカミ様です。これまで魚のカミ様は切ったことがあったので、少しひねって人魚をモチーフにしました。レシートは物欲の象徴です。レシート1枚に1人の神様が宿ると考え、『タダのカミ様』というシリーズを22年続けています。

——大阪のレシートはどうやって手に入れたんですか?

タナカ 普段は自分で買い物をしたレシートで作品をつくっています。今回は「大阪のカミ様」というテーマで展示のオファーをいただいたので、スパイラルにご協力いただき、大阪近郊で買い物されたスタッフやお客様のレシートを頂戴して制作いたしました。

——レシート収集についてもう少しお聞きします。普段はコンビニやスーパーなど行動範囲は限られていますよね。それだとレシートの種類も決まってきてしまう。あえて違うものを探しにいくとか、そういう意識はありますか?

タナカ あえて違うところへ買いに行く、ということは意識しませんが、何か特別なものを買ったらまずレシートを見るようにしています。普段買わないような、特別な高い洋服を買ったらブランド名が大きく載ってたりするので。そういうレシートは無造作に財布に入れたりせずにクリアファイルに入れて保管してます。ただ、お店によっては「商品1、商品2」って記載されるレシートもあったりするので、そんな時はとてもがっかりします。笑 

——そんな苦労があるんですね。そこまでレシートにこだわりを持ち始めたきっかけはなんなのでしょう?

タナカ 学生時代にコンビニでバイトしていたんですが、大手町の駅ナカにあったので、土日はお客さんが全然来なくて、めちゃくちゃヒマだったんです。レジ横にあったハサミを使ってちょっとそこにあったレシートで切り絵を始めてみたっていうのがきっかけでした。最初はレシートを素材として扱っていただけで、印字された商品名とかは意識していなくて、ある時から商品名を活かすおもしろさに気づいたんです。

「切りひらひらく(2020年)」 

——タナカさんくらいレシートを集めてる人は他にはいないでしょうね。今日は他の作品も見せていただけると聞きました。この大きな作品は何を切ってるんですか?

タナカ これは『切りひらひらく』という作品です。娘がまだ小さかった頃、寝かしつけの時に、毎晩即興でストーリーを考えて語り聞かせをしていました。私が思いつくままに話をするので、オチも無いデタラメな内容なんですけど、娘は毎回楽しみにしてくれていた。その、適当につくり上げられていく物語が、自身の細かな下書きをしないで切り進めていく制作スタイルと重なったんです。そこで、即興の物語の世界観を切り絵で表現しようと考えました。語りきかせた言葉の象徴として広辞苑を、ちぐはぐな物語の象徴としてバラバラになった文庫本を媒体に、舞台となる森を切り絵で表現しました。例えばこれは広辞苑の「ピエロ」の単語のページを使って、「ピエロ」を切り絵しています。

「切りひらひらく」(拡大)

——こちらは何ですか?

タナカ この展示は『風、抜ける』です。いままで切り絵って額に入れるものとしてつくっていたんです。でも、最近はむき出しで飾るおもしろさに気づき、風に揺れる切り絵がきれいだなと思うようになりました。風に関係する素材で切り絵を表現したいと考え、風鈴にたどり着きました。そして短冊部分に切り絵を施すことを思いついたんです。風をテーマにした曲の楽譜だったり、風の神様について書かれているギリシャ神話の1ページを使って短冊をつくりました。

「風、抜ける(2021年)」

——ボブ・ディランの「風に吹かれて」もありますね。

タナカ はい、「風に吹かれて」の楽譜と、ボブ・ディランの自叙伝を素材に大きな風鈴を制作しました。風鈴って、元々は中国伝来の、お寺の屋根の四隅に飾ってある「風鐸」というものが由来となっているそうです(諸説あり)。風鐸の鳴る音が聞こえる範囲の人達には災いが起きないと言われていると知り、この不安定な世の中だからこそ、この切り絵の風鈴の音が、風に乗って、世界中の人々に届いたらいいなという願いを込めて制作しました。

——タナカさんの「切り抜きたい」って衝動はどこからくるのでしょうか?

タナカ 私は基本的には飽き性なんです。せっかく就職した広告の仕事も2年でやめちゃいました。こんなに続いているのは切り絵しかない。20年以上続けてきて何百体もつくってきたけど全然飽きない。2019年にスパイラルが開催しているアートコンペSICF20に『タダのカミ様』を出品したらグランプリをいただきました。審査員の中に倉本美津留さんがいて「タナカさんがやってることって、お店から出されたレシートというお題に、どんな神様をつくろうか応える、いわば大喜利ですね」って言われ、そこで気づいたんです。自分で勝手にレシートをお題にして大喜利をずっとやってたんだ。だから飽きなかったんだなって。それと切り絵は紙を半分に折って切っていくので、開いた時に初めて完成形がわかるんです。それがおもしろくて、結局自分がいちばんたのしんでいるんだなって。笑

——タダのカミ様の「タダ」ってどういう意味ですか?

タナカ 2つの意味があって、ひとつは、これは結局はレシートで、〜にすぎないという意味の「ただ」の紙ですよっていうことと、もう一つが、貰う人にとってはお金のかからない「ただ」のレシートが神様に変わるっていうこと。財布の中にあるゴミ同然だった存在が切り絵をすることによって、神様になっていく様が面白いなと思いました。また、レシートは感熱紙なので年月が経つと文字が消えて真っ白になる神様もいるんです。昇天していくようにも思えて、それがまた愛おしいんですよね。

——昇天する前に大阪にタダのカミ様を見にいかなきゃですね。タナカさんが切り絵に取り憑かれた理由が、今日は少し覗けたような気がします。ありがとうございました。

SPIRAL Creators File タナカマコト展
会期:2022年8月22日(月)−9月10日(土)
10:30-20:30
会期中無休
https://www.spiral.co.jp/shoplist/spiral_market/s_osaka/SPIRAL-Creators-File-tanakamacoto

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