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何かと何かを掛け合わせてアイデアを生み出すって自分の中の根底にあるなと改めて感じています。今回は「折り紙とAR」の掛け合わせだったのですが、今は新しい技術のおかげでたくさんのものが生み出されてくるけれど、それに身近にあるものや使い古されたものをぶつけてみることで起きる化学反応が面白いなと。 〜絶滅危惧オリガミチームインタビュー〜

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【絶滅危惧オリガミ】
折り紙×AR技術

電通のコピーライター木下さとみさんの双子のお姉さん木下こづえさんは、京都大学の野生動物研究者。二人は広告と動物研究というまったく違う道に進みましたが、ユキヒョウの研究をしていたお姉さんと一緒にその魅力を広めるため、ユキヒョウの歌をつくり、野生と動物園と生活者をつなぐクラウドファンディングを2013年に実行。それ以来お互いの専門分野をクロスオーバーしながら「twinstrust」というユニットで活動し、妹さとみさんは電通の中で「動物のことなら木下」という立ち位置を確立しました。一方電通デジタルの石川さんと電通から出向中の堀さんは、社内のソーシャルプロジェクトに二人で応募すると見事採用されます。絶滅危惧種の動物を扱うということで、グループ内で専門性をもったクリエイターを探していたら木下さんに行き着き、3人が中心となって『絶滅危惧オリガミ』というコンテンツを今年11月にローンチしました。折り紙とARというデジタル技術の掛け合わせ。くわしいお話を聞きたくて、3人に集まっていただきました。

——今日はお集まりいただきありがとうございます。まずはこの絶滅危惧オリガミに行き着いた経緯を教えてください。

堀崇将さん(以下、堀) 電通デジタルの中にACRCという、データサイエンスとクリエイティブを掛け合わせることをミッションにしている部署があるんですが、毎年ソーシャルプロジェクトという、クライアントワークではないことでアイデアを持ち寄るイベントをやっています。僕と石川と二人で考えたアイデアの中に後々絶滅危惧オリガミにつながるものがあった。それはARで拡張する折り紙というもの。僕も石川もそこまで絶滅危惧の動物に詳しいわけではなかった。しかも環境や動物保全に関わる人たちはみなさん本気でやっていから、僕と石川だけだと彼らと渡り合えるか心配だった。電通グループの中で地道に探している中で木下さんが「DENTSU生態系LAB」という活動をしていることを知り、直接オファーのメールをしました。それで、このコアメンバーが揃ったというわけです。

——DENTSU生態系LABってどういうものですか?

木下さとみさん(以下、木下) 私が所属している部署でクリエイティブユニットを立ち上げました。姉とのつながりで絶滅危惧種の保全活動や、動物園の仕事を請け負うようになり、せっかくならそれを活かそうと思って、「DENTSU生態系LAB」という旗を立てて、ビジネス発想じゃない、クリエイティブ発想で絶滅について伝える活動をチーム3人でやっています。

堀 絶滅危惧種について調べると、実は上野動物園の動物がほとんど絶滅危惧種だった。折り紙のモチーフについて調べてみると、例えばツルや、トラなども種によっては絶滅の危機があると判明した。折り紙になるくらいメジャーな動物が絶滅の危機にあるということにショックを受けました。先ほど水口さんにツルのAR体験をしていただきましたが、折り紙がくしゃくしゃと丸まって、それが広がると残り1800羽しかいないという事実がメッセージとして現れます。みんなが折り紙として知っているツルがもしかしたら絶滅してしまうかもしれない。それをARで伝えたかったんです

タンチョウヅルの折り紙をカメラでスキャンすると
AR空間でタンチョウヅルが動き出し
折り紙が展開するとメッセージが書かれている

——木下さんは今回このチームでどのような役割を担ったんですか?

木下 まずは伝えるという部分では、自分の手で折ったアナログな折り紙がデジタルを介して人の心に届く、そこにすべてが詰まっていると思ったので、私は真実をきちんと伝えることに心を配りました。それともう一つの役割は動物園など専門性のある人たちへの橋渡しです。きちんとお二人の話を聞いて、この企画なら動物園側も喜んでくれそうだなと思えたので紹介できました。

——専門性のあるといえば、お姉さんも野生動物の研究者です。一度は違う道を進んだのに今またどんどん近づいています。やっぱり双子なんですね。

木下 それぞれに専門性はできたので、お互いの専門を掛け合わせると化学反応が起きることがわかった。私は普段の広告の仕事では関われない人と会えたり、向こうは向こうで研究では関われない人と出会えたり。そういう面白さは感じています。

——折り紙もそうだし、ARの動きもそうだと思うんですが、直感で伝わるようにしなきゃいけないことって多かったと思います。どんなことを心がけましたか?

堀 僕は元々折り紙自体に興味があって。日本人にとって折り紙って古くから親しまれていて、みんながつくれるもの。それって実はすごいコンテンツだなってずっと思っていました。いい意味で変わらない折り紙ですが、そこにテクノロジーを掛け合わせるとさらに幅広い人に使ってもらえるんじゃないかって思いがあったのが出発点なんです。古くからあるものと新しい技術が融合して、新しい表現になる。それによって折り紙という文化が継承されてアップデートしていくことにつながります。古くからある「折る」という行為を経ないとARという新しい技術が使えないというのが、体験として新しいなと思っています。

石川隆一さん(以下、石川) 広告の話になっちゃうんですが、デジタル広告ってつまんなくなってるなと思っていて、理由としてはデータドリブンという考え方があるのかなと。データがこうだから、こういうクリエイティブにしましょうとか、こちらの色のほうがクリック数が多いから、色はこれにしましょうとか、クリエイティブがどんどんそういうつくり方になっていて、コンピューターを介することでデータが取りやすくなって、その結果クリエイティブがどんどん狭められることになった。個人的にはそれに対して危機感を感じていて、データドリブンなものから、もっと拡張できるようなクリエイティブに向き合っていきたい。今回はもちろんテクノロジーを使っているけど、データドリブンではないクリエイティブとして爪痕が残せられたかなと思っています。

——実際に僕もこのトラの折り紙を折ってみて、すごく難しかった。普段使わない筋肉を使っている気がして、それもおもしろいなと思ったんですね。知識を受動的に得るだけじゃなくて、まずは能動的に折るという行為が必要。しかもかなり苦労して。だから、おもしろい。石川さんがおっしゃったデータドリブンじゃなくて、ヒューマンドリブンというか。

石川 まさにおっしゃる通りで、頭を使って手を使って、思いを込めながら折る。だから折り紙って捨てにくいもの。それがさらに拡張したら新しい情報としてより受け入れられるんじゃないかと。

——この折り紙の柄のデザインについては苦労したことはありましたか?
 
堀 ARの技術的な問題として、カメラが認識するために特徴的なパターンを入れなければならないんです。色面だけじゃなくて柄など使ってキャラクター性を高めないとマーカーとして機能しない。認識できるレベルとデザイン性のちょうどいいところを探るという点で苦労はしました。より複雑であればあるほどキャラクターがはっきりして認識しやすい。トラであれば、この太いストライプが認識する上ですごく重要なんです。そこにプラスして和柄を入れることでよりキャラクター性が高まりました。
 
木下 それぞれの動物の生息地に関係した和柄を選んでいるんですね。トラは麻の葉をイメージしたものだったり、ペンギンは波だったり。

全部で5種類 柄のデザインにもこだわりがある

——デザインにオリジナリティがありますね。ローンチ前の10月に那須どうぶつ王国で絶滅危惧オリガミを体験できる先行イベントを開催されたそうですね。3人とも参加されたそうですが、会場はどんな様子だったんでしょう。

木下 動物園って動いてる動物を見るために行くところなので、その動物前から離れて折り紙を折りに来る人なんているんだろうかって心配してたんです。でも私たち以外にも数名スタッフを配置したんですが、手が回らないくらいお客さんに来てもらえて。ARの最後は、例えばトラなら密猟者に殺されてしまうとか悲しい終わり方をするので、どう受け止められるか心配してたんですけど、みなさんにはいい意味での発見として捉えてもらえたようでした。たぶん言葉だけで絶滅危惧の現状を伝えても「ふ〜ん」ていう受け止め方だと思うんですが、体験と一緒に理解してもらうって大事だなと思いました。
 
堀 一番心配だったのがツルはともかく、他の動物を折れなかったらどうしようと。蓋を開けてみたら、もちろんわからないから教えてほしいという人もいましたが、みなさんちゃんと折れていて、折り方も考えた僕としてはほっとしたというのが正直なところでした。環境問題とかなかなか親子で会話をするきっかけってないと思うんですが、そのきっかけをつくれたことはこのイベントをやって良かったなと思います。

——僕がまだ電通にいた頃はマス広告が中心で、お金をたくさん投資してどれだけ話題になるかってことを競ってましたが、こうやって自分たちの中から染み出してきたものを世の中とフィットさせていき、いろんな人とリンクしていくというやり方がとても健全だと思います。最後に今後個人的にこういうことをやっていきたいってことはありますか?
 
堀 元々大学時代にもアイデアについて勉強してきて、ホッチキスさんのインスタも見させていただいて、何かと何かを掛け合わせてアイデアを生み出すって自分の中の根底にあるなと改めて感じています。今回は「折り紙とAR」の掛け合わせだったのですが、今は新しい技術のおかげでたくさんのものが生み出されてくるけれど、それに身近にあるものや使い古されたものをぶつけてみることで起きる化学反応が面白いなと。そういうクリエイティブが僕の今後のテーマになるんじゃないかと思っています。
 
石川 ARやVRさらにはメタバースとかデジタルテクノロジーを使って表現の幅はどんどん広がっていくだろうなと思っていて、例えば今だったら塩味が強くなるカトラリーというものができたりしていて、デジタルの表現の場は確実に世の中に広がっている。もちろん画面上で何かを表現するというのは残ると思うんですけど、いままでになかったデジタルを使ったクリエイティブにはずっとチャレンジしていきたい。
 
木下 コピーライターとして大事にしているのは自分の心がいかに動くか、喜怒哀楽を感じられるか。書いてる人間の心が動かなかったら、受け取る人の心も動かないので。その中で、DENTSU生態系LABでは姉と一緒に野生動物の生息地、標高4000mに登って死にそうになったりしながら活動しています。でもそうやって心を動かしているからこそ、SDGsや環境への取組みが机上の空論になってないか、お金だけが動いてないかという視点をもてていると思います。メタバースなど、生きものとして感じる空間じゃないとテクノロジーとつきあうのはしんどかったりする。生きものとしての心地よさはすべてのことにおいて重要な観点なんじゃないか。そう思っています。

 
——インタビューを通して絶滅危惧オリガミはみなさんのクリエイティブに対する思いが詰まったコンテンツだとわかりました。もっとたくさんの人に知られるように、僕も応援していきます。今日は長い時間ありがとうございました。

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