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やりたいのは「才能の掛け算」。才能と千葉県産落花生を掛け算したらどういうものが生まれるのかを表現していきたい。 〜中野剛さんインタビュー〜

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【Happy Nuts Day】
千葉県産落花生×クリエイティブな才能

千葉県は全国の落花生の8割を生産しています。その海沿いの九十九里町でスケートボードとサーフィンを楽しんでいた3名の青年が、商品にならない不揃いの落花生を農家のおじさんからもらい、手づくりのピーナッツバターにしたところからこのストーリーは始まります。ただ自分たちが欲しいものを遊びの延長でつくっていたのに、それが人々の目に留まり商品として市場で動き出し、『Happy Nuts Day』という名前を与えられました。その代表の中野剛さんとは彼が多摩美の学生の時からの知り合い。彼が今回新たなファクトリーを建てるためにクラウドファンディングをやっていると聞き、九十九里までクルマを飛ばしてインタビューにやってきました。5月の曇り空の下、浜辺で、そして建設予定地で彼の口から出てくる話はハプニングの連続。そんな苦労話も飄々と語る彼の目線は、ずっと先の未来に向かっていました。

----遊びで始めたピーナッツバターづくりが評判になりました。

中野剛(以下、中野)2015年にスケボーキッズがつくったピーナッツバターが美味しいと話題になり、たくさんのメディアに取材されました。支持者も増えて順調に進んでいたと思っていたんですが、あるトラブルがあり会社に残っているはずのお金が一切なくなってしまった。3名いた創立メンバーも僕だけになり、なんとかその状況を乗り越えるには本業との二足の草鞋は難しい。だから広告会社は辞めて、家も九十九里に引っ越してきたんです。そこで自分的には腹が決まりました。

——営業とかはどうやっていたんですか?

中野 その時点で300くらい取引先があったんですが、一切営業してなかった。スタートが幸運に恵まれていて、最初に取り扱ってくれたのがeatripの野村友里さんだった。彼女の好物がピーナッツバターだからって、友だちが紹介してくれて。まだ遊びの延長でやってた頃だったからタッパーに入れて持って行ったら美味しいってよろこんでくれたし、スケーターがやってるってこともおもしろがってくれて、それでお店に置いてくれたんです。そこから全国の強くアンテナを張っているお店にどんどん広がっていったというわけです。あとは、糸井重里さんの影響も大きかったです。僕が海外に行って留守にしている時にアルバイトの子が発注数を間違えた。旅から戻ってきたら事務所に在庫が2000個もあった。170個発注したつもりが1桁間違えていたという。困ってしまって、つくり過ぎたから食べて欲しいってSNSで発信したら、株式会社ほぼ日で働いている知人が社内メールで困ってる知り合いがいましてって全送信してくれて。それを見た糸井さんがこんなバカな奴がいるってTwitterでつぶやいてくれた。そしたら、5時間ですべて売り切れちゃったんです(笑)。糸井さんの「インターネット的」って本に影響されて、会社の名前やフィロソフィーを考えていたから、つながりができたこともうれしかった。それ以来、ほぼ日のマーケットに出店させてもらってます。

千葉県九十九里町の畑


——広告会社を辞めてピーナッツバターという道に進んでいくというのも珍しいと思います。

中野 辞める以前に海外の広告賞のセミナーでどこかの国のクリエイティブディレクターが、もう広告界でいい思いはできないから、君たちは別の道を探した方がいいと言ったんです(笑)。そんな時に神戸の友人がイートインができる精肉店を立ち上げると言い出していたので、神戸に引っ越して参加しようと。広告ではない、店主の思いをカタチにしてお店にするというデザイン。やってみたら改めてこっちの方が自分には向いているなと思いました。元々10代の頃から日本を代表するクリエイティブディレクターになりたいという思いはあり、それを自分らしい道で歩むってどういうことだろうと模索していた。まずはお茶の間へのコミュニケーションを獲得するために広告会社を選んだ。ハプニングからこちらの道を選んだわけではあるけれど、経営者として日本の産物をブランド化するということができたら、それは説得力のあるディレクションなんじゃないかと思っているわけです。なので、僕の中では決してやりたかったことから外れたわけじゃなくて、やりたかった方向に向かっている感覚はある。このHappy Nuts Dayでの知見を活かして、その先はピーナッツ以外でもトライして、特に地方を盛り上げていきたいです。

——この新しいファクトリーができれば、自分らしいクリエイティブを設計できるわけですね。

中野 このファクトリーのテーマは「才能の掛け算」です。これまで広告業界や食の業界に身を置いてきて、たくさんの才能ある人たちと関わってきました。そういう才能と千葉県産落花生を掛け算したらどういうものが生まれるのかを表現していきたい。例えば、この前は沖縄の黒糖職人のレジェンドと呼ばれる人に会いにいってきました。珊瑚黒糖といって珊瑚の粉が混ざった土で育ったサトウキビでつくられていて、驚くほど口の中でスッと溶けておいしい。その黒糖を煮詰めた鍋に僕が焙煎した千葉県産のピーナッツを入れて絡めて冷やした「ピーナッツ黒糖」をつくったら、本当においしくて。ピーナッツ屋だけじゃ辿り着けない感動が生まれたのです。他には廃棄になる殻を、左官や繊維の染めに活かしていくことだったり。そうやって落花生というモチーフを多面的に捉えて可能性を引き出すことをしていきたい。

6月10日までクラウドファンディング中

----農産物という一次産業をもっとクリエイティブにしていく。

中野 そうです。クリエイティブよりの人たちって産物の方にすごく興味がある。自社工場になることで製造ロットのハードルが下がるんです。実験的な商品、美味しいけどニッチなものもどんどん商品化していきたいと思っています。

——なるほど。デザイナー的には自分のMacが一台手に入るようなことですね。

中野 はい(笑)。ただ今回廃校になった幼稚園を使ってファクトリーにするんですが、壊して新しい建物にすると何千万円もかかります。壊さずにその場所が元々持っていたポテンシャルを活かすプランをつくって、パッケージ化していけば、それを他の地方でも使えると思うんですね。そうやって全国に広げていきたいです。

----確かに少子化が進む今、そんな地方は日本中にたくさんある。そして、その近くには一次産業があって。その二つをつなげていけたらいいですね。今日はありがとうございました。クラファンの成功を応援しています。

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