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もっと本を読んだり、映画を観るくらい気軽に建築を楽しめるようになるきっかけがこの建築弁当にできたらうれしい。普通に会話の中で建築の話題が出てくるようになることが理想です。 〜建築弁当プロジェクトメンバーインタビュー〜

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【建築弁当 BENTO ARCHITECTURE】
弁当箱×名建築

いい建築は、いい弁当箱だ。金沢21世紀美術館の模型に美しく盛り付けられた食材のビジュアルにそんなコピーが添えられている。建築が弁当箱に見立てられ、「みんなでひとつのお弁当」や「おかずの個性が光る個室」など、弁当箱の特徴=建築のコンセプトになっている。大学時代は建築学科で学び、今は広告代理店に勤める飯田瑛美さん(以下、飯田)、大石将平さん(以下、大石)、関谷“アネーロ”拓巳さん(以下、関谷)の3名が集い、そこにアートディレクターの坂本俊太さん(以下、坂本)が参加し、『建築弁当』というプロジェクトとして動き出しました。特設サイトも完成度が高く、どうやってアイデアを形にしていったのかすごく気になったので、4人にお話を聞かせてもらいました。

——そもそもこの4人が集まるきっかけは何だったんですか?

関谷 2020年4月、コロナ禍に上司から「今年は何か好きなユニットをつくりなさい」という指令が降りてきました。PRが好きならPRのユニットを組むでもいいし、ソーシャルグッドなことならそれでもいい。何でもいいから個人が動いていかなきゃダメだと言われて、飯田が「建築のユニットを何かやりたい!」と声をかけてくれたんです。僕と飯田と大石はみんな建築学科出身だったこともあり、建築と広告の両方を経験した人だからできることを3人でやりたいなと。僕も飯田も建築はもちろん、料理も好きで、「お弁当を建築化」することができたら、弁当も食体験も新しくなるんじゃないかって思いつき、模型をつくったりしていたら、これはアートディレクターの力が必要だ!ってことになり、坂本に相談したんです。

飯田 建築弁当のアイデアにたどり着く前に、私が個人的にごはんと建築の図面を描いていたのがあって、そういうところから弁当にするっていうアイデアシートを書いて、それをみんなでブラッシュアップしていったという経緯です。

——それはどんなスケッチだったんですか?

飯田 コロナ禍で時間ができたのもあって、ごはんと建築というテーマで実験をしていまして。建築をごはんで例えるのはおもしろいなと思っていた延長で、お弁当にした方が建築に興味ない人も一発で理解できるんじゃないかって思い、そこからみんなでアイデアを膨らましていきました。

飯田さんのごはんと建築の図面

——食と建築がつながるって部分をもう少し聞かせてください。

飯田 グリム童話のお菓子の家のように、お菓子で建築をつくることを友だちと一緒にやっていたりもしていた。それを見た建築を知らない人もおもしろいと言ってくれて。そこから配膳を建築的に考えてみたらどうだろうって考え方を変えてみたんです。その流れでたどり着いたのが、建築弁当でした。

——なるほど。3人で建築×お弁当がおもしろいとなったと。最初は何からスタートしたんですか?

飯田 「安藤忠雄の住吉の長屋はお弁当箱っぽいね!」って一致して。きっと不思議なお弁当箱に見える。それで実際に模型をつくっておかずを入れてみたんです。

関谷 入れてみたらこれはおもしろいかもって。

関谷さんの自宅に集まり試作

——さすが建築やってた人ですね。試作品から完成度が高い。これは1、2階があるんですね。

関谷 だいたい幕内弁当とかって一段じゃないですか。それが2階や3階ができたらおもしろい。お弁当の断面ってあまり見たことないと思うので。

住吉の長屋の断面図

——坂本さん、3人に誘われてこの話を聞いた時にどんな風に思いましたか?

坂本 ちょうどコロナになって、家で食べるためだけにお弁当箱にごはんを詰めるってことにはまっていまして。めちゃタイミングが良かった。アートディレクション的には建築模型に食材を詰めるって、いい意味で変な絵になるのは確実だから、できるだけアカデミックな方向に持っていったほうがいいんじゃないかって直感的に思いました。

飯田 建築の人はどうしても模型を模型として撮影してしまうんだけど、パッと見ただけですべて伝わるビジュアルになりました。アートディレクターの力はすごいと感じました。

——その後の21世紀美術館やTokyo Apartmentは4人で話し合いながら進めていったんですね。

飯田 建築ごとに具材にもこだわりがあります。住吉の長屋に試作で入れたものと最終的に詰めたものは変わっていたりします。

——21世紀美術館は中華です。Tokyo Apartmentは中華の隣にイタリアンがあって。それぞれの建築物が持っている特徴を、入れる料理で表現しているのがおもしろいですね。

関谷 それで言うと、みんな建築が好きな3人だったので、建築の難解なおもしろさを一般の人にも伝わるようにできないかなと話してた。お弁当で表現すれば、建築自体のコンセプトも表現できるんじゃないかと。そこに配慮したコピーライティングにしています。
 
飯田 食べる体験と建築物に入った時の体験がリンクするようにと考えながら進めました。

——建築家がつくった意図もお弁当にすることで表現できるってことですね。21世紀美術館のタレルの部屋には杏仁豆腐が入っていますね。

飯田 タレルの部屋は天井が抜けてるのでそこから何か出てるとおもしろいねって、さくらんぼを入れました。
 
関谷 平面図の段階で色味などを坂本に見てもらって。料理をいろんなところから購入してきて、盛り付けていくという。飯田にフードコーディネーターの役割もやってもらいました。

それぞれの部屋に入れる食材にもこだわりが

——盛り付けもきれい。これを飯田さんがやってるなんてびっくりです。

飯田 建築を伝えるために無機質な感じでいいという話になっていたので、比較的やりやすかったです。

——プロダクトにしていくとか今後の発展はお考えですか?

関谷 今やっているのは建築をそのまま再現するのではなく、それぞれの建築の概念をお弁当で再現するとこうなるというアプローチで絶賛制作中です。お弁当箱としては不便な部分もあると思うんですが、コンセプチュアルなプロダクトとして考えています。まだ販売や量産するという段階ではないのですが、まずはプロトタイプをつくって発表していこうと思っています。
 
飯田 コロナ禍もあり、ゆっくり楽しく部活みたいにやってきたのもあって、クラウドファンディングも興味あるんですが、まだ楽しい範囲でやっているというか。

——そうですね。商売にしちゃうと楽しさが苦しさに変換してしまったりしますからね。

関谷 いちおう販売しませんかという問い合わせはもらったり、カーサブルータスからもこれは販売したほうがいいと言ってもらえたり。そういう声は励みにはなってます。カーサからは当初販売するなら掲載できますと言われたんですが、誌面に空きができたタイミングで「今なら載せられます!」ということで「ぜひお願いします!」と即答しました。建築やっていたので憧れのカーサに載るだけでもめちゃめちゃうれしかった。

——話は変わるんですが、建築を学んでいた人が広告業界に入ってくる率が上がっているように思うんですが、何か理由があるのでしょうか?

関谷 建築学科って実際のものをつくるところまではやらないんですが、課題があって、コンセプトを考え、プレゼンまで。その部分は広告と似てるんですね。建築は造形力が必要なんですけど、そこは弱いけど、コンセプトつくるまでは好きという人もいたり。建築は建築しかつくれないけど、広告は広告以外にも触手を伸ばせる。スパンでいうと、建築は5年以上かかりますけど、広告は3ヶ月くらいで違う仕事が始まる。

——ここで大石さんが登場してくれました。

関谷 大石はサボローが大好きです。
 
大石 サボローの本、買いました!

——ありがとうございます!トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんも若い頃に広告批評を読み漁っていて、アートディレクターの大貫卓也さんの考え方に影響を受けたと話していました。それを聞いた時から建築と広告とは距離感が近いのかなと思っていて。建築をベースにしつつも、新しい食体験をつくるというのは、実に広告っぽい考え方だなと。

大石 それでいうと、建築と広告って同じところと明確に違うところがあります。僕は学生時代にゼネコンでバイトしてたんですが、タイムスパンが長いですよね。数年単位、数十年単位で進んでいく。一方で、広告業界は数ヶ月単位。いろんなことに興味がうつっていく自分の性格もあって、僕は広告に進みました。日本人の建築家でプリツカー賞を獲っている人は結構いるんですが、でも一般の人に知ってる建築家を挙げてもらうと出てくるのは安藤忠雄さんくらい。それもあって、いい建築を広告したいなっていうのが初動にはあって。広告的に、ビジュアル的にわかりやすいってことで弁当にたどり着いたんです。

——みなさん楽しそうですけど、辛かったことはなかったですか?
 
飯田 Tokyo Apartmentの床を切る作業は辛かったです。笑
 
大石 Tokyo Apartmentって、建築上の構造がすごく複雑で。家型を積んでるんですが、見えないところにちゃんと柱があったりとか。そのバランスが崩れると、上の家が落ちちゃったり。成立させるための細部が地味に大変でした。

関谷 他の2つは正方形や長方形といった矩形の集まりなので直線を切るだけだったんですが、Tokyo Apartmentは細部の接着部分が複雑な形なので切るだけでも大変でした。でも、つくりながら建築の構造を知ることができておもしろかったです。

Tokyo Apartmentの複雑な構造

——模型としてちゃんと自立できるようにつくってるわけですね。しかも、食材を詰めても倒れない強度もある。
 
大石 そうです。ギリギリ保つように。笑
 
飯田 細かいディテールのおさまりとか、壁と床の接地面とかに注視する人が建築関係者には多いので、細部まで気を抜かずに、見えないところまでしっかりやろうと。
 
関谷 グラフィックとか映像っていろいろ嘘つけるじゃないですか。
 
——頭痛いです。笑
 
関谷 建築は模型で嘘ついたら、実物の建物はつくれない。だから模型でも成立させるっていうのは染みついているかもしれません。しかも学生にとっては模型が最終地点なので余計にそこにこだわるのかも。
 
——今回のアウトプットされたものは目にも美しいし、わかりやすい。コンセプトってこうやって形にできるんだって発見がある。それがこのプロジェクトの一番おもしろい点で、それが最終的には建築のおもしろさを広告することにつながっていると思います。今後例えばギャラリーで「建築弁当展」をやると僕が想像するなら、今やってることの延長で海外の建築を含めてさらにたくさんの種類の弁当を見たいっていうのと、もうひとつのブースでは逆のアプローチのお弁当を建築視点でつくるプロセスがわかるような展示になって、さらにそのプロダクトがミュージアムショップで購入できるっていうのが理想ですよね。

関谷 そういってもらえてうれしいです。
 
——海外の建築でいうとグッゲンハイム美術館とかだとどうなりますかね。
 
大石 蕎麦とか入れようって話になりました。笑
 
飯田 流しそうめんにしたいって言ってました。笑
 
大石 一本の長いスロープだから麺がいいんじゃないかって。真ん中に池があるからそこにつゆが入るなあって。
 
関谷 弁当じゃないですけどね。笑

——どんどんアイデアが膨らみますね。最後におひとりずつ今後の展望を語ってください。

坂本  僕はこれまでやったアプローチもいいけど、ちゃんとお弁当という小さな建築物に落とし込んでいく方をやりたいです。「建築家本人がご本人の建築の考え方をお弁当箱にしてみたら」っていうところまでやれるとおもしろいですね。

飯田 建築家と有名料理店のシェフという組み合わせもやってみたいって話は出てました。
 
大石 僕はもっと食の方向に伸ばしていけるといいなと思っていて、建築家がつくった見たことないような変わったお弁当箱に対して料理人がどう応えるか。発見する喜びが普通のお弁当箱とは違っていて、ここを開けて、次にここを開けるとどうなるかって楽しさがあれば、お弁当箱そのものの概念を変えられるんじゃないかなと。ただの箱じゃなく、時間軸を持った体験になると、お弁当箱の可能性が広がるんじゃないかと。そこを追求したいです。
 
飯田 建築学科にいた時に業界は閉じてる印象があって、自分の家族にも伝わりづらい専門的な部分が多いって感じてたんです。もっと本を読んだり、映画を観るくらい気軽に建築を楽しめるようになるきっかけがこの建築弁当にできたらうれしい。普通に会話の中で建築の話題が出てくるようになることが理想です。
 
関谷 さっき水口さんがおっしゃっていたミュージアムショップで販売するっていうのが妄想その1。その2はほっともっとみたいな業態で、建築弁当のお弁当屋をやりたい。それがかなり先の妄想です。

——かなり高めの値段設定になりますね。笑 スケールの大きな建築というものをこんなに小さな縮尺でお弁当という食の体験にしている時点ですでにおもしろいんですけど、その間くらいのスケールでも建築について伝える何か他のことができるんじゃないかってお話を聞いていて思いました。妄想はまだまだ広がりますね。

大石  既存のカフェとコラボして建築弁当を体験できるといいですね。

 飯田 他にもコラボ先を探してますので、よろしくお願いします。

 ——みなさんの仲の良さが伝わってくる楽しいインタビューでした。ありがとうございました。


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