心理学の研究って__ちゃんと仕事になるんですか__何してるんですか_

心理学の研究ってちゃんと仕事になるんですか?に答える

イデアラボは民間、しかもベンチャー企業で心理学の研究機関です。なかなか浸透していないこの仕事について、よくある質問ベスト2(何してるの?会社はやっていけるの?)に答えてみようと思います。


そもそも心理学は「ヒトに関わることすべて」が研究対象

心理学と名のつく本や番組が今日も日本中に溢れています。心理学で人の心を読めたり操れたりするかどうかの議論は別の機会にするとして…学術的に「心理学」として扱われている分野をいくつか紹介します。

ここでは、わかりやすくするために「ヒトの普遍的な仕組みを研究する(基礎心理学という分類に近いです)」分野の例と「ヒトとモノや社会の関わりを研究する(応用心理学という分類に近い)」という分野の例を挙げてみました。

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心理学は学際的なので特定のルールで分類することは難しいのですが、ここに挙げただけでもヒトに関わるあらゆることが研究対象になることがわかっていただけるかと思います。

心理学の中でも、物理学や医学に隣接するような研究をしている人も結構いるので、世間一般でイメージされるよりも幅広いことを研究しています。

世の中のほとんどの企業は「ヒトに関わる・ヒトのための」物やサービスを扱っているので、実は心理学の知見が使える場面はたくさんあるのです。

イデアラボの研究員は、心理学の中でも幅広い専門分野の人がそろっているので、あらゆる業種・業界の課題に広く対応できることが強みです。


具体的な仕事の流れ 

もう少しイメージしてもらうために、ロボット開発をする企業(仮)のお客さんとの仕事の流れを紹介します。

担当者は「ヒトに優しいロボットを開発したい」という目標を持っているとします。機械メーカーなどには機械を作れる専門家はたくさんいるのですが(本当にすごいことですよね…!)ロボットとヒトのコミュニケーションなど、ソフトな部分に関わる専門家はまだ少ない現状があります。

そこで、こういう時にイデアラボにお仕事が来ます。ヒアリング&ディスカッションを重ねて、本質的なリサーチクエスチョンにたどり着けるように、併走しながら一緒に考えていきます。

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それぞれのケースによりますが、この一連の流れは短くて3~4ヶ月、時には数年かけて行います。

心理学者だけでは、モノを作り出すことはできません。しかし、これまで企業の研究所の中心を担って来たいわゆる理工学部系の専門家だけでも、遠回りになってしまうところがあります。

チームになることでより良い成果が出せるはずなので、我々はヒトに関する専門家として一緒にお仕事をさせてもらっています。


会社としてやっていける(=収益を上げられる)のはなぜか?

研究系のベンチャーというと、①その時点で収益が無くても技術の将来性に投資をしてもらえる企業であるとか、②大学の一部機関として、営利を必要としない企業として存在していたりすることもあります。

しかしイデアラボは民間の企業なので、その他の企業と同じく収益を上げて存続することも目的のひとつです。今のところ10年目を無事に迎えられて、社員は生活するに十分な給与をもらえているのですが、その秘訣はざっくりと3つあるのではと考えています。

①工学や化学系と比べて、ラボの機材等にコストがかからないから
②競合が少ないから
③企業や研究所に心理学の研究者が少ないから

①について、心理学の研究は必ずしも高額の機械や材料がいるわけではないので、ラボの維持費が少ないというのがあります。脳波や心拍を測ったりする実験を行うこともありますが、最近は安くて良い機械がたくさん出ているので、そこそこハイスペックな分析PCがあれば大丈夫です。

②について、現在企業のR&D部門の共同研究先になっているのは大学や、公的な研究所くらいだと思います。大学との共同研究には信頼性やコネクション、ネームバリューなど多くの意義がありますが、それゆえにイデアラボとは特徴が違うのであまり競合とは思っていません。競合がいないからラッキー!と思っているわけではなく、私たちがいつまでもニッチ産業な社会はおかしいと考えている(もっと心理学者が社会に溢れていてほしい)ので、競合がたくさんできて、一つの業界になったらいいなと思っています。

代表の澤井がいつでも話を聞いてくれるそうです。

そして、③企業や研究所に心理学の研究者が少ない、について。これが本当に問題だと思っているのですが、モノづくり大国だった日本において、これまでは心理学の専門知識(ヒトに関する知見)があまり活かされて来なかったということです。

日本を代表するような車や化粧品、日用品のメーカーなどでは比較的多くの心理学者が研究をしていますが、それでも研究所全体の人数比で考えるとまだまだ数は少ないのです。
(誰もが知るような大企業でも心理学者は1人…ということも)

やや古いデータ(2003年)ですが、アメリカの企業研究者の9%が心理学専攻であったのに対して、2006年の日本の企業研究者では人文・社会系は1.1%だったようです。(菊地俊郎(2010) 院生・ポスドクのための研究人生サバイバルガイド 講談社ブルーバックスより)

企業が研究職の必要性を認め、研究者もそのバリューを発揮する社会になってほしいと思っています。
私たちは、イデアラボの仕事を通じて心理学の意義を感じてもらえるように働くのみです。


イデアラボのゴールは、お客さんの卒業

一見矛盾しているようですが、実は私たちのゴールは「お客さんがイデアラボから卒業すること」です。

イデアラボと仕事をしてみて、ああ心理学って使えるのかもしれない、と思ってもらえることが大事な一歩です。
その結果、自社で心理学の専門家を雇って、お客さんがイデアラボとの研究を自社内でどんどん展開できて、もうイデアラボがいなくても全然大丈夫!と言われるのであれば、それは大きな成果を残せたということだと思っています。

私が学生の頃から「心理学は食えない学問だ」といろんなところで言われていました。
でも本当にそうなのでしょうか。

博士を活かせない日本社会だとか、高学歴ワーキングプアだとか、研究費の削減だとか、研究を取り巻く環境は厳しいことも多いですが、「心理学の研究ってちゃんと仕事になるよ」とイデアラボが伝えていくことで、少しでも新しい動きにつながればいいと思っています。


イデアラボに質問がある!一緒に何かやりたい!アドバイスしたいことがある!などなどなんでもお待ちしてます。(Twitterやinfo@idealab.co.jpなどへどうぞ)

研究の知見を正しくビジネス現場に応用することで、研究で食べていける社会を目指しています。