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仕事におけるPurpose - 第2回:Purposeと共通善の考え方

第1回で「Purpose」の定義を紹介した中で、Purposeとは「企業と世の中を結ぶもの」、そして「企業の揺るがない軸として進化し続ける原動力」という原則について述べた。第2回では、企業がPurposeを通して社会的存在意義を見出すことについてさらに深める。

Common good (共通善)とは

Common good という英語を聞いたことがあるだろうか。「だれにとっても」(common)「よい」(good) であり、「万人に開かれた普遍的な善」のことを指す。

では、「普遍的な善」とは何を指すのか。募金、ボランティア、民主主義、公正、福祉など、共通善という言葉から連想される単語はいくつもあるが、その起源は古代ギリシャの哲学者アリストテレスが唱えたフロネシスという考え方にさかのぼる。まず、アリストテレスは知を3つの観点から考察した

・テクネー(Techne):テクノロジー、技術
・エピステーメー(Episteme):エピステモロジー、認識
・フロネシス(Phronesis):賢慮(Prudence)、実践的知恵(Practical Wisdom)、実践合理性(Practical Reason)

アリストテレスがこのフロネシスの要素を重視したのは、どんなにすばらしい技術を駆使し、正しい認識に基づいていても、それが人類全体の善(共通善)に貢献しないのであれば知ではあり得ないと考えたからである。 

価値・倫理の思慮分別を持って、個別のコンテクストで最適な判断・行為ができる実践的知恵(高質の暗黙知)があってこそ、人類の善、ひいては発展に貢献すると考えたのである


この考え方に、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が影響を受け、政治の目的を「共通善(何がコミュニティにとって善いことかという考え方)」に置いたことから共通善の概念が広まったとされている。 

そして、この「共通善:コミュニティ全体にとって善いことかどうか」という観点を背負ったPurposeが、ビジネスや企業に社会的信頼をもたらすのである。

企業が「共通善」を追求すべき理由とは

マイケル・サンデル教授と交流が深く、現千葉大学大学院教授で政治学者の小林正弥氏は、かつては「企業の利益・株主の利益を最大化する」というリバタリアニズム(政治的自由、経済的自由を重視する発想)が中心であったのが、リーマンショック後市場経済が破綻し、かつてのリバタリアニズム的な思考からコミュニタリアニズム(美徳を中心に正義を考える発想)へと社会全体の風潮が変わってきたと話す。

しかし、コミュニタリアニズムを追求する一方で、売り上げや利益を上げなければ企業としては成り立たなくなるというジレンマとどう向き合うかが課題だと述べる。

そもそもビジネスは元来「善いこと」とは一線を画す存在であった。日本においてもビジネスによる「金儲け」が正当化されたのは、ほんの200年ほど前のことで、「清貧」という概念がもてはやされた歴史は世界中に散見される。

Hollensbeらの研究でも、NGOやボランティア団体が「generator of trust:信頼の産出者」と呼ばれるのに対し、企業は「consumer of trust : 信頼の消費者」と位置付けられている。

資本主義のもと、企業が株主への配当を最大化しようとする行為は、ともすれば株主のため「だけ」とも捉えられかねない。つまり企業は「利益を得る」という企業本来の目的を果たすことで、それまでに得た社会からの信頼を消費し続けている存在なのである。そこで有効性を発揮するのが、「共通善をふまえたPurpose」であり、それらを実践に移すことで顧客の信頼を食い潰すことなく生み出すことができる。

同様に、ハーバード・ビジネス・スクールのカーナーズ・ラッブ経営学名誉教授であり、センター・フォー・ハイアー・アンビション・リーダシップセンターのディレクターでもあるマイケル・ビール氏はこう述べている:

「企業のPurposeは株主価値を超えたものでなければならないという認識が高まってきており、それはビジネスにコストをかけるものではなく、ビジネスを強化するものでなければならないということだ」。

また、Purposeについての議論の多くは、企業が明確なPurpose意識を持っている場合、より良いパフォーマンスを発揮することを示唆している。EYとハーバード・ビジネス・レビューが共同で行った調査では、Purpose意識を持つ企業の58%が過去3年間で10%以上の成長を報告しているのに対し、Purposeの意識が完全に組み込まれていない企業の42%は同期間に成長が見られないか、あるいは衰退したことが明らかになった。企業が社会の信頼を得ようとPurposeを設定することは、何ら企業活動を阻害するものではなく、むしろ後押しするものだということが証明されたのである。

以上より、共通善と利益追求の間を支え、ジレンマを解決する鍵となるのが「Purpose」の設定だということが推察できる。
企業が提供する製品やサービスが世の中にどう影響を与えるのか、人々にどのように「善い」と捉えられるのか、その道筋であり軸となるのがPurposeである。

Hollensbeらの論文は最後にこのような言葉を述べている:

Purpose provides an overarching framework to substantiate the need for businesses in society, and to amplify the positive impact they generate in the communities where they operate.」 

Purposeとは、社会におけるビジネスの必要性を立証し裏付けるものであり、事業を展開する地域社会にポジティブなインパクトを与えるための包括的な枠組みを提供するもの。(編集者意訳)

なぜその企業のその製品やサービスでなければいけないのか、「必要性を立証」し、かつ「世界にポジティブなインパクトを与える」という共通善に基づく考え方こそが企業のPurposeに必要なのである。

本記事では様々な文献によって明らかとなったPurposeと共通善の考え方について記載した。今後、様々な角度から仕事におけるPurposeに関した知見を掘り下げていく。

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参考文献

あしたのコミュニティーラボ. (2015). 「共通善をビジネスとして回すための新しい価値づくり:実践知研究センターという訓練場(前編)」
https://www.ashita-lab.jp/special/5474/(閲覧日:2020年11月27日)

President Online.(2011). 「本物の幸せ哲学「共通善」の話をしよう:マイケル・サンデル 特別インタビュー」 https://president.jp/articles/-/8171(閲覧日:2020年11月22日)

Wired.(2012). 「4つ政治哲学で今後の働き方をひもとく」
https://wired.jp/2012/08/31/political-philosophy-wirelesswirenews/(閲覧日:2020年10月22日)

Hollensbe, E., Wookey, C., Hickey, L., & George, G. (2014). From the editors: Organizations with purpose. The Academy of Management Journal. Vol.57, no.5.

The Business Case for Purpose. (2015). Harvard Business Review
https://hbr.org/sponsored/2015/10/the-business-case-for-purpose (accessed 2020-10-27)

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