現代企業経営の命題解決に根本からアプローチする「シン・組織モデル」とは【前編】
先日「経営多角化の新たな理論開発・経営人材育成・組織コンサルを行う、研究機関兼 ファシリテーション・コンサルティングファーム」である株式会社MIMIGURIのCOOに就任した原です。
※就任Podcastも収録しましたのでよろしければ聞いてみてください。
私はこれまで、グローバル展開する数千人規模の上場企業や急成長スタートアップで事業と組織の成長に向き合い多角化経営に挑戦/実践してきました。
このnoteでは、その中で感じてきた旧来型経営/組織モデルの限界とそれに代わる可能性を秘めた新しいモデルについて書いてみたいと思います。
前編では企業が向き合う命題の変遷(2010年代前半~現在)を整理します。
企業が向き合う命題の変遷
2010年代前半の企業経営命題を振り返る
私が経営ボードメンバーになった2010年代前半時点で多くの企業が向き合っていたであろう経営命題は以下のように表現できるかと思います。
※注:本編全てがあくまで私個人の視点と経験値を基に整理したものです。
象限①|メガトレンド適応
世界が加速度的にボーダレスになりGlobalでのビジネス拡大が加速。その他Mobileやクラウドの登場で社会/事業環境が急速且つ大きく変化していた。企業はそのメガトレンドに適応し事業機会とすることに躍起だった象限②|選択と集中でシェア拡大
メガトレンド適応に必要な投資原資を素早く継続的に獲得する為に、成長性は高くなくても短期的収益性が高い事業=Cash Cow (※金のなる木とも言われる) を選択し資源を集中しシェアを拡大していた。全社的な経営アジェンダの中でも結果的にこの象限②が優先されることが多かった象限③|人的資源管理の追求
経営の重要ファクターである「ヒト」を資源、つまりリソースとして活用するコストと捉え、いかに効率的なコスト構造に変えていくか?=人件費を抑制できるかが共通テーマだった象限④|組織の求心力強化
社会/事業環境の変化(メガトレンド)へ対応する中で遠心力が働きやすくなる組織の求心力を強くすることで経営計画の推進力を担保していた
命題と向き合う中で感じていた「難しさ」
振り返るとこれら命題一つひとつに挑むことも難しかったのですが、更に苦悩したのが4つの命題間にある構造問題でした。
環境変化に合わせた未来創造の起点であり最も不確実性の高い 象限①(メガトレンド適応)が、他3つの象限それぞれとの間にパラドックスを抱える構造だったのです。
パラドックス1.|象限①(事業領域拡大)⇔ 象限②(選択と集中)
メガトレンドに適応し未来を創造する為に事業領域を拡大したいけど⇔足元の収益を確保するためには既存領域の選択と集中が必要
パラドックス2.|象限①(人材配置分散)⇔ 象限③(人的資源管理)
メガトレンド適応領域に人材を配置したいけど⇔不確実性高い新規探索領域へ人材を分散配置することは人的コスト効率としては悪化する
パラドックス3.|象限①(遠心力が働く)⇔ 象限④(求心力強化)
組織に遠心力を働かせて象限①の探索を推進したいけど⇔比較的不確実性の低い事業計画(選択と集中/人的資源管理による収益性向上)を強く推進するためには求心力を高めたい
このパラドックスにどう向き合い・解消/止揚していったのかの詳細の話はここには書き切れないので、別の機会もしくはコンサルティングをご依頼いただいた際にお話できればと思います。是非ご相談ください。
しかし、後述しますが今思えば一つの命題に対して3つの命題がパラドックス構造にある(=3つのパラドックスがある)状態は現在のそれと比較するとシンプルだったと言えます・・・。
命題と向き合う中で感じていた「違和感」
これら命題の難しさと向き合いながら、同時に違和感も感じていました。
違和感1.|象限①:メガトレンド適応における『手段の目的化』
この頃はどの企業のIR資料にもグローバル・デジタルという言葉が踊り、自社にとっての意味を具に紐解かずに「何か考えろ!」とトップマネジメントが「戦略なき号令」をかけている状態の企業が多かったと思います。
私個人の体験でも、グローバルビジネス戦略が整理される前に「とりあえず異動がスムーズに叶うようにグローバルグレーディング導入だ!」とか、主にPC利用のデスクワーカーが対象のプロダクトでも「このデジタル化時代にモバイル対応は必須だ!」と開発要件の優先度をズレた方向に変えてしまうなど、手段の目的化が横行していたのを記憶しています。
加えて、この頃盛んになったのがオープン・イノベーションでした。こちらも(当然全てがそうではない前提ですが)取り組み自体が目的となることが散見され、オープン・イノベーション「ごっこ」と揶揄され数々のプロジェクトが霧散していった・・・というのは、どの企業においても多かれ少なかれ存在したのではないかと思います。
違和感2.|象限②③④:サスティナビリティの欠如
カリスマ的なリーダーがトップダウンで方向性と戦略から具体的な目標まで決める。選択と集中でフォーカスされた領域で高度に分業された業務に一人ひとりが邁進する。人件費抑制の為に細やかな業務管理が行われコスト構造が効率化される。
経営視点からすると素晴らしい、美しくすらもあるこの状態を目指し、皆が疲弊しながらも、声を掛けて鼓舞し・士気を高め続け、一人ひとりの踏ん張り(パワープレイ)が積み重なると一時的に理想状態に近づくこともありました。ただし、それが持続的に(サスティナブルに)実現することは叶わず、同時に組織(身体)全体が徐々に蝕まれていく感覚を覚えるようになりました。今思えば、この頃の経営モデルは「ヒト」が置き去りになっていたと捉えています。
違和感3.|全体:命題個別の対応に振り回され続けるモグラ叩き状態
上述しているパラドックス構造を起因に「あっちを立てればこっちが立たない」状態に振り回され続けました。
新しい事業が生まれないからトップがコミットメントを高めると、既存事業はオワコン扱いされていると不満が溜まる。長時間労働が問題化し残業コントロールを強化するとミドルマネジメントの求心力が失われていく…etc
やっとこっちが良くなったと思ったら、今度はあっちで火を噴いているぞ!という状態が続き、常に『恐怖のモグラ叩きマネジメント』に悩まされ続け、マネジメントもメンバーも疲弊し、このままでは光が見えないと必死で藻搔きながら最適解を追求し続けていたのを覚えています。
現在(2023年)の企業経営命題を整理してみる
現在に目を移して2023年の経営命題はどうなっているのでしょうか?
私なりに考察していきたいと思います。
まず、現在の企業経営命題に言及するには、ここ10年余りでの社会変化についてデータから抽出した意味合いを共有しておく必要があると思います。
この10年余りでの「ヒト」に関する社会変化
■変化1. 生産年齢人口は減少の一途|優秀な人材の獲得競争は益々激化
¶生産年齢人口(15-64歳)の推移データ
2010年時点 8,103万人→ 2021年時点 7,450万人 / 2025年時点推計 7,170万人
■変化2.会社発展より個の充実度重視の傾向|就業価値観変化に対応が必要
¶就業価値観調査データ
自分の仕事の目的は会社を発展させることである 2000年58pt→2021年49pt
会社や仕事より、自分や家庭のことを優先したい 2000年66pt→2021年79pt
違和感から焦燥感へ|現在の命題は対処アプローチは通用しない
約10年余りの時を経て、私が当時向き合っていた命題は、社会環境変化も相まってどんどん難しくなり、多くの経営層が焦燥感を抱くレベルまで達してきているのではないかと捉えています。
象限①|理念追求型の非連続な多角化を実現
約10年前の手段が目的化していたメガトレンド適応は大きく変化しました。グローバル展開は当たり前になり、デジタル化はDXと呼び名を変えて(実装は道半ばですが)本来の意味は大分定義されてきました。
オープンイノベーションや新規事業開発はコンセプト偏重のお祭りムードから一変し、具体的な成果を地に足ついた形でつくり出すモードに明確にシフトチェンジ。自社らしい事業多角化を「着実に実現する」ことが求められています。その一方で競争は待ってはくれず激化の一途であることに加えて、破壊的イノベーションが出現するサイクルも益々短期化しています。それゆえに非連続な成長を実現し素早くマーケットでの持続性あるポジションを築き、更にそれを適切なタイミングで自己否定し新しいイノベーションを生まねばならないのが現代経営の最難関ポイントと言えると思います。
また、社会全体の価値観がPurpose(社会的な存在意義)を重視するように変化していることが象限①の命題をより複雑にしています。単にマーケットポテンシャルが大きかったり、自社が競合優位性が持続的に発揮できそうな「儲かる」ビジネスであるだけでなく、社会的意義を果たそうとする理念があるかどうかに経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が集まるようになっています。
これらをまとめると、経営資源が集まる『社会的意義ある理念を追求する領域』で『非連続規模での自社らしい多角化』を『確実に実現すること』が求められており、言わば象限①の中で3つの要素のパラドックスが存在しており、10年前と比較すると遥かに難しい命題に進化している状態と言えます。
象限②|高生産性をサスティナブルに実現
短期収益性の高い既存事業を選択し資源を集中、高度に分業された業務に一人ひとりが邁進することで高い生産性を維持しようとしてきたこの領域は、分業が高度化していく一方で個の創造性が失われていきました。その結果、企業の離職理由として「やりがいを感じない」が上昇してきているというデータもあります(以下参照)。
先程の社会変化データが示す通り、人材獲得競争が激化している中で優秀な人材の定着は死活問題です。高度に分業を洗練させたり、細やかに業務管理をするだけでなく、『個が創造性を発揮することでやりがいを持って働き続け』つつ『高い生産性も実現』するのが現在の経営命題です。この象限②にも象限内パラドックスが存在する状態と言えます。
象限③|人的資本経営の追求と企業価値向上
経営の重要ファクターであるヒトを資源(リソースとして活用するコスト)と捉えていた人的資源管理から、資本(=投資対象)と捉えて投資・育成することで、企業価値向上に直結させるものと認識を大きく変えようとする提言が2022年にMETIより人材版伊藤レポート2.0という形で出されました。
コストだから抑制することで効率性を上げようという一面的な視点から、適切な機会や環境、支援を提供する、つまり投資することで効果性を上げて価値創造に繋げようというのは、ヒトがヒトらしくあるべきといった理想論だけでなく、人材獲得競争が激化しヒトが希少になる中で、今いるヒトの可能性を引き出し・最大限に活かせるような企業に「変容」しないと競争力を担保できない、という現実論の双方が揃ったからこその大きな流れであると捉えています。
現実論を直視してこの命題の解決に真っ向から取り組むのと、理想論を掲げて人的資本情報開示義務化などの流れに乗る対応をするのとでは全く違った結果を生むことになるのは自明だと思われます。
そして、真っ向から取り組む覚悟を決めてから先にも立ちはだかる課題があると捉えています。
人材へ投資するとはどういうことか?人の可能性を引き出すためには?学習する組織とは?等、これまでと「問い(課題設定)」が全く変わってきます。そういった新しい問いに向き合い、本質的な人的資本経営を実現する為には、何から手を付ければよいのかわからない企業は、実は非常に多いのではないでしょうか。
象限④|多様性を活かしたパフォーマンス向上
「チームを強くするには多様性が必要だ・・・!」、「うちの会社は多様性をうまく活かせていない・・・」こんな言葉を聞く機会が増えていますが、そもそも多様性とは何であり、多様であることが常に是であるのか?を本質的に理解せずに言葉だけが先行しているシーンも多いのではと感じています。
多様性は実は単純なものではなく、その性質を理解してチームやプロジェクト、ビジネスの特性に合わせた活用をしていくものです。
多様性とその具体的な活かし方について理解を深めたい方はこちらの動画がオススメです。
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そもそも上述した通り、約10年前は同質性の高い集団を意図して作り上げ求心力を高めて推進力を担保するのが命題でした。つまり短期的に推進力を高めるためには多様性は弊害になるケースすらあります。
それでも多様性を活かしたパフォーマンスを重視する背景には、象限③と同じで多様性を活用したほうがより良いアウトプットが出る側面と、多様化していくヒトと社会を活かせる企業にならないと生き残っていけない側面が両立しているからこそ大きな潮流になっていると捉えています。
つまり、多様で本来バラツキやすい性質のヒトと組織を結束させながら、多様性を活かすからこそできるアウトプットを出していく命題に向き合う必要があるのです。
このように象限間だけでなく象限内にもパラドックスが存在し、益々複雑化し難度が高まっている現代の経営命題を対処的でなく根本から解決する鍵は、後編で提示する具体的な「シン・組織モデル」にあると考えています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
後編も近日中に公開します。
公開したタイミングでtwitter告知しますので私のアカウント(@harashindayo)をチェックいただければ嬉しいです。