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ideaboard® 開発ストーリー連載 #12_外部パートナー編 | レクシア特許法律事務所

この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
第1〜8回は開発者であるNKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMENの長﨑さんに、第9回以降は外部パートナーのみなさまにインタビューしています。

〈過去の記事はこちらから〉

今回は本プロジェクトで意匠権の取得を担当された レクシア特許法律事務所 鈴木行大さんに、お話を伺いました。

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鈴木 行大 |Yukihiro SUZUKI
レクシア特許法律事務所 弁理士

1.デザイナーをサポートするために弁理士の道へ

ーまずは普段のお仕事について教えてください。

専門は意匠権です。そのものの外観、デザインなどを守りながら、企業がうまく事業に活用できるよう権利化などのお手伝いをしています。意匠に関わる個人から中小、大企業がクライアントです。

ーもともとデザインを勉強されていたんですか?

大学ではもともと化学系を専攻して、そのままなんとなく繊維メーカーに就職したんです。でも、就職してから徐々に自分のしたい事とは違うなと感じ始めました。本来自分の好きなものを考えると、建築やデザインだと気づいたんです。アートというよりも工業デザインですね。ただ、自分にはデザインを一から創造する力がない。それなら、そんな業界で働くデザイナーさん達を専門的な力でサポートするような仕事をしようと考えるようになりました。そこから弁理士という職業に行きつき、予備校などにも通って資格を取得しました。
そんな経緯で弁理士になっているので、友人で、身近なデザイナーである長﨑さんには、何か手助けできたらいいなとは思っていました。

長﨑さんはこのプロジェクト以前から、デザイナーが自分のデザインをうまく収益化できない状況を課題と捉えられていたようです。日々の業務の中でデザイナーの働き方やビジネスモデルについて課題を感じられたりしますか?

費用を値切られたり、下請け扱いでちゃんとした対価が貰えなかったり、同じような問題はよく聞きますね。実際、「職業:デザイナー」でお金の面で苦労している人は多いように思います。また、デザインと知財を積極的に結び付けて考えるデザイナーの方はまだそんなに多くないんじゃないでしょうか。
長﨑さんがインタビューで話していた「デザイナーの収益モデル」という話はまさに求められているビジネスモデルなんじゃないかなと思うし、知財に関わる私からしたらすごい面白い視点だなと思いましたね。

2.ideaboardでの意匠権について

ーideaboardの意匠権についての相談は、開発のどの段階で持ちかけられたんですか?

大抵のプロジェクトでは、最終の形がしっかり決まったところで相談がくることが多いんです。今回、ideaboardでは、権利で守りやすいデザインにするために、プロトタイプの段階で類似範囲などの話がすでに出ていました。権利範囲ありきでデザインを進めていくというのはかなり珍しいですよね。

ー出願された具体的な権利について教えてください。

ideaboardの最大の特徴は、まずその薄さ、シンプルさ。そうなると将来、長方形以外の形状の製品が製造される可能性も考えられます。そこで、正方形と円形も、長方形と同じデザインコンセプトからなるデザインと捉え、関連意匠として出願、取得しました。これで、形が多少変わっても、薄さや、フレームの断面形状という形態的特徴が共通すれば、これらの意匠権の権利範囲内に含まれると言えます。

もうひとつ、書き込む部分とフレームに段差がなくフラットになってる点を部分的に守る権利も取得しています。フレームと板面に段差がなくフラットになっているホワイトボードはこの権利内に入る。その他の形はなんでも良くてここが部分的に共通していれば権利侵害になります。

つまり、全体のデザインと部分的な形態、両方から守っているということです。チャレンジングなところもありましたが、出願したものがすべて登録になって、結果的に非常に良い権利が取れたんじゃないかと思っています。

Ideaboard商品

ー「良い権利」とはどういうことなんでしょう。

一概には言えませんが、簡単に言えば、権利範囲が広いということだと思います。権利範囲が広ければ、他社が同じようなものをやろうとしたとき、少し形を変えただけでは権利侵害になります。意匠権を取得したデザインについてはその企業や個人が独占的に使用でき、安定した事業を行うことができるんです。
つまり、権利範囲が広いと、他社に対して牽制力・抑止力がある。「他社の参入を強く防ぐことができる」という意味で「良い」ということです。

ー長方形と正方形と円形。すごく一般的な形状に思えますが今までそこは取られてないんですね。

形はあったと思うんです。ただその形で、且つ、薄くてフレームがフラットでシンプルなホワイトボードが無かったということですね。「ありそうで無かったもの」だった。

シンプルな形状、スタンダードな形状、普遍的な形状を意匠権で抑えることはとても有効だと思います。というのも、そういった形状は、誰もが作りやすいし、やりたいと思う形状だからです。実際はシンプルなものほどデザインでは苦労していると思いますが、他社からしたら、使いやすくて作りやすそうに見えるのに、真似できない。同じ分野ならかなり嫌な存在になると思います。

3.デザイナーと知的財産分野

ー最後に、デザイナーの知財分野への取り組み方についてご意見をお聞かせくだい。

デザイナー自身が、ちゃんと知識を持って、知財の権利を取りにいく姿勢が必要だと思います。自分の作ったものを守るために必要な知識です。デザインを守るための法律はいろいろありますが、その中でも意匠権は特に有効だと思うので、知って欲しいです。

また、自分が創作したデザインの権利の帰属についてもしっかり理解しておく必要があると思います。多くの企業や事務所では、「従業員が創作したデザインの権利は企業に帰属する」ような契約があると思います。そのような契約があると、デザイナーさんが売れて、いざ代表的なデザインを持って独立しようと思っても、権利は会社にあるので持っていけません。こういう問題って実際あるんですよ。なので、権利の帰属についても知っておくことは大切だと思います。権利の帰属については契約書に書かれていると思うので、一度ちゃんと読んでみてもよいかもしれません。

今回のideaboardのプロジェクトで、デザインの過程のリアルな現場を実践的に見れたのは、とても貴重でありがたい経験でした。デザイナーをサポートしたいという思いで弁理士になっているので、開発を見ながら検討するというプロセスをデザイナーと一緒にできて、権利化までいったのは夢が実現した感じがします。意思があるとうまくいくのかなって思いますね。

次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#13 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根 )

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