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ideaboard® 開発ストーリー連載 #8_社会実装編 |アイデアを生み出す空間を共創する

この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
〈過去の記事〉
ideaboard® 開発ストーリー連載 #1_発想編 | アイデアの種を育て続ける 
ideaboard® 開発ストーリー連載 #2_デザイン開発編 | プロトタイピングと仮説の更新
ideaboard® 開発ストーリー連載 #3_デザイン開発編 | デザイン事務所 f/p design との協業
ideaboard® 開発ストーリー連載 #4_知的財産戦略編 |デザイナーの新たな収益モデルを考える
ideaboard® 開発ストーリー連載 #5_モニターテスト編 |更新した仮説の検証
ideaboard® 開発ストーリー連載 #6_ものづくり編 |トキハ産業株式会社との協業
ideaboard® 開発ストーリー連載 #7_ものづくり編2 |形の実現に向けた製造課題へのアプローチ

 第8回目となる今回は、NKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN 室長の長﨑 陸さんにお聞きする最終回。ついに商品化されたideaboardの社会への実装と、次の構想についてもお聞きします。

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長﨑 陸 / Riku Nagasaki
中西金属工業株式会社 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN
NKC BUSINESS DESIGN CENTER

1. ideaboardを必要とするデザイン現場に深く届けていきたい

ーどう販売を広げていくか、何か考えていたことはありますか?

ここはある意味デザイナーの一番弱いところかもしれない。でも、スタートアップのような形でものづくりするときには必ず直面するハードルなので、そういうものだとある意味楽観的に捉えていました。

僕たちが考えていたことは大きく言えば2つで、ひとつはideaboardを試作段階から、デザイン業界のいろんな事務所で使ってもらって一緒につくっていくこと。だから、その方々の横のつながりで、業界の中で自然と広まっていくということは期待してました。やっぱり一緒に作ってきた中でファンになってくれた方もいますし、実際にそのつながりで大口の受注もありました。

もうひとつは、デザインの賞に出してみること。グッドデザイン賞とかだと東京の都心で実物の展示もあって、自分たちがターゲットにしているようなワークプレイスや、クリエイティブなオフィスで働く方の他、官公庁関係の方々に見てもらえる。アイデアが響く人たちが集まるところでしっかりと展示ができたので、結果的にはよかったと思っています。
いずれにせよ、デザイン業界という狭い範囲の中ですけど、その分深く潜っていくということをしたかったんです。


2. アイデアを生み出す空間への実装

ー実際にideaboardの販売が始まって、使用されている事例などは聞かれますか?

コンセントさんとOpenAさんが一緒にSPRINT GARAGEという空間を設計していて、その中でideaboardという新しいものをうまく取り入れてくれました。人がどう身軽に働くか、クリエィティブに働くかという点を踏まえた、ideaboardの社会実装まで進んでくれたという点で非常に勉強になりました。

SPRINT GARAGEでは、プロジェクトブースとして空間を仕切る壁が全部ideaboardで作られているんです。その一枚一枚がサービスデザインを深めていくための1セッションのフィールドになっている。料理で言うと、切る、混ぜる、焼く、盛り付けるというような、各セッションに沿ってアイデアを深めていくことができるんです。

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あと、ここでideaboardを運ぶために設置されているカート。もともとは工事現場でいろんな石膏ボードとかを職人さんが運びやすくするためのものなんですけど。これもOpenAとコンセントが見つけてきてくれたんですよ。僕らも大量に運ぶのは重たいなとは思っていたんですけど、それがいい形で解決されている。

こんな風に、セッションができているんですよね。僕たちのクリエーションに対して、向こうからもクリエーションが返ってくる。コンセントさんやOpenAさんが目指すアイデア共創のプロセスを、ideaboardという道具をうまく使いながらアップデートしてくれているんです。このやり取りによって、僕たちはさらにideaboardをよくできそうな気持ちも生まれてくる。まさにイメージしてた使われ方をしていて、こんな嬉しいことはないですね。

ー販売開始後も実際に見に行ったりしますか?うまく使われていると感じた現場があれば教えてください。

東京のドラフトというデザイン事務所では自分たちのデザインの提案とか、そのデザインの提案を補強するリサーチ資料とかをペタペタ貼ってるんですよ。本当に一枚のシンプルな板として全面に貼られている。そしてそれを重ねて保管しとくんですね。なんだろう、消したくないみたい。どんどん増えていくんです。
ideaboardがもうなくなったら、ideaboardを梱包していた段ボール箱を切ってまで(笑)。

一度作った身体感覚を伴う情報の塊とか熱量みたいなものを抱え込んでおきたい、そのままストレージするという意味で一番ヘビーに使ってもらってたんじゃないかな。コンセントの事務所でも、書き込んだ後のideaboardがそのまま多く保存されていましたね。

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3. Next - ideaboardの構想で見えてくる新たな可能性

ー次のideaboardの展開などは考えていますか?

今まさに仕込み中なんですが、マグネット版をやっぱり作りたいですね。
マグネット版を諦めた理由は、もちろん軽量性を追求したいということと、もう一つは製造プロセスの中で、どうしても今の体制ではクリアできないボトルネックがあったんです。だけどそれから2年ほど経って、KAIMENが国内だけでなく海外のネットワークも広げながらものづくりをしていく中で、その課題をクリアできる可能性を手に入れた。
今なら重さもほぼ変わらず、でもマグネットがついちゃうていうような夢のideaboard ver.2.0ができるかもしれない。

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デザイン思考とかをヘビーに使っているデザイン事務所や、クリエイティブスタジオの方々からは、どうしてもマグネットが欲しいという声もあったので、そこにストレートに応答できる、ということはすごく夢のある話だと思っています。

ただ、マグネットを使う使わないも一長一短なんですよね。イメージコラージュのように、いろんな画像とかを切って貼る時に、マグネットはテープより配置直しがしやすい。ただ、紙同士をくっつけるときは結局テープで貼る方が合体させやすかったり、A4の紙にひとつのアイディアを貼ってそれをそのまま動かすときにも、テープのほうにメリットがある。大きな物とか貼ろうとすると、マグネットはいくらあっても足りなくなったり。

マグネットが要るクリエイティブワークと、マグネットが要らないクリエイティブワーク。多分そのカルチャーや方法論の違いもあるんですけど、そこは自分たちももう少し観察をしてみたいなと思っています。

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ーマグネット版ができればさらに市場が広がりそうですね。

今まで壁に立てかけるときも、水平に置いて使うときも、どうしても固定がなかなか大変だったんです。でもマグネット版ができたら、例えば壁に磁石を埋め込んで、ideaboard自体を壁にくっつけることもできるんですよね。空間の中でよりideaboardを生かしやすくなる。一気に可能性が広がりますね。

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あとは、ペンを貼りつけたいとか、ペンを収納するホルダーをくっつけておきたいとか、クリエイティブワークの中での話というよりも、収納の仕組みとしてのニーズも強いのかなとも思っています。
ホワイトボードや黒板という垂直面のものに対する「収納」というジャンルにどんな可能性があるかということを考えると、また新たなフィールドが見えてくるのでそこもすごく楽しみです。

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次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#9 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 其田 有輝也)

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