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ideaboard® 開発ストーリー連載 #11_外部パートナー編 | f/p design

この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
第1〜8回は開発者であるNKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMENの長﨑 陸さんに、第9回以降は外部パートナーのみなさまにインタビューしています。

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今回は、fp design 株式会社 代表取締役 金子さんにお話を伺いました。

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金子 浩 |Hiroshi KANEKO
f/p design

1. 作るのは「ホワイトボードではないもの」

ーまずは普段のお仕事について教えてください。

f/p designは、プロダクトデザインを軸にしたデザイン事務所で、ドイツのスタジオが親会社、京都スタジオがその子会社としての日本法人です。昔からオフィスファニチャーの分野を得意としていて、医療機器や産業機械のデザインも多いです。ここ最近はプロダクトだけではなく、画面のインターフェースやグラフィック、プロダクトを含めたメーカーのCIやブランディングの仕事も多いですね。京都スタジオは5年ほど前に私が日本に戻ってきて開設し、今は5人のチームで運営しています。

ーideaboardの構想を最初に聞かれたとき、どんな話をされたか覚えてますか?

まず、これからつくる製品が「ホワイトボードではない」ということが、まず一番初めからお互いの共通認識としてあったのを覚えています。

というのは、私個人的にも、元々メーカーでオフィスファニチャーのデザインをしていた経験があってその複雑さを実感していたからです。今のホワイトボードはもう何十年も前から様々な開発がされていて、書いたものがプリントできたりスキャンしてデータ化できたり、既にいろんな機能が複雑に盛り込まれている。だから私としても「ホワイトボード」というカテゴリにはしたくない、まずは先入観を捨てなければと思っていました。

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2. デザインや機能の無駄をいかに外していくか

ー開発において大事にされてた視点はありますか?

社内ではいつも、その製品の要素をいかに減らすか、形の無駄・機能の無駄をいかに外すかというところをよく話します。

ideaboardの場合、最初のリクエストは、マグネットを使って連結する仕組みありきで、それをいかにプロダクトに落としていくかというものだったと思います。でも結果的には全く違うものになってますよね。つまり最終的にそういった使い方が出来ればいいだけで、必ずマグネットを使わないといけない、というわけではなかったのです。
もちろんチームでアイデアを展開するフェーズでは、マグネットの仕組みはおもしろいと思ったし私達もいろいろ試してみたいと思っていたんです。でも製品として目指すのはあくまで「一枚のシンプルなアイデアを書き留めるボード」。具体的にモノに落としていく段階で、マグネットも含めて付加的な機能はどんどん削ぎ落とされていきました。

ープレゼンテーションスタンド(シリンダー)の形状についても、議論があったとお聞きしました。

KAIMENの長﨑さんと私達で、珍しく意見が別れたところになりますね。これは純粋にプロダクトの形の話になるのですが 、f/p designのポリシーの一つに、「形状が言葉で表現できるぐらい分かりやすいこと」というものがあります。最終的なシリンダーの形としては、「円筒にスリット」でほとんどの人が想像できる。でもこれが「円筒を縦方向にカット、垂直方向にスリット」となった途端に人によってかなり頭に描くイメージが変わってくるんです。

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製品が世の中に出たときに、形を言葉で伝えられるようにしておいた方がコミュニケーションしやすく、人から人へ伝わっていきやすいと思っています。だからそこにはこだわって進めさせていただきました。

ー開発が進むにつれて、機能やデザイン面で削ぎ落とされていくものが多いプロジェクトですね。

一般的な商品開発だと、どうしても機能が増えたほうが親切でユーザビリティも上がるんじゃないかとなりがちですよね。とくに市場の中に既にあるものを作るときには何か違うものにするために、機能もできるかぎり付加して売ろうとする方向にいってしまう。本当はそうではなくて、例えば紙やお箸は付加的な機能は何もないけど、いろんな方法で使えて万能じゃないですか。そういったものが、本当にいいものなんだとと思うんです。

そういう意味では、ideaboardは機能も形もこれ以上減らせないところまでできたと思います。極端に言えばどんどん板になっていった。結果を見るとこの「板」だけをデザインしたのか?、という話になるんですけどそうなんですよね、このシンプルな一枚の板がアウトプットなんです。

3. 材料選びや外部デザイン事務所へのモニター提供について

ー開発において、最も苦労された点はどこでしょうか。

見た目のデザインだけでなく、こだわっていた薄さ、軽さ、耐久性を実現する材料選びには非常にこだわって時間をかけました。

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製造を担当されたトキハ産業さんがとくに一番気にされていたのが、薄さです。私達は当初10mmを下回るような薄さの目標をもっていて、トキハさんからするとそれをフレームや骨組みも無しで実現するのはかなり大きなチャレンジだと。芯材である発泡ウレタンの発泡率は高ければ高いほど重量は軽くなりますが弱い。発泡率を低くすると密度が上がって強いけど重い。私達はとにかく厚くはしたくないけど、女性でも5枚くらいまとめて持てる軽さは目指したい。さらに耐久性とコストも。その辺のバランスをどうとるのかというところに一番時間もエネルギーも注ぎ込んだと思います。

発売スケジュールも決まっているし、この時期はいい意味で緊張感がある期間でした。機能やアイデアをバシバシ切っていく段階とは対照的に、トライ&エラーの繰り返しで、トキハさんには本当に辛抱強くお付き合いいただいてありがたかったです。

ー開発途中のプロトタイプを他のデザイン事務所にモニターとして使っていただく、という外部との連携もありました。その対応についてはどのように感じていましたか?

そこはやはりいい意味で、プレッシャーがありましたね。そもそも長﨑さんご自身もデザイン畑ですし、大手のデザイン事務所を出ていたりという背景がある中で、f/p design を選んでもらえたところがあり、期待に応えたいけど応えるにしてもにもすごくシンプルな製品なので、それが一番難しかったです。

モニターとして他のデザイン事務所の方たちのところに持っていくということは、まだ途中のプロセスを全部見せてしまうということ。同じ業界の中で、最終的な良いデザインをきちんと見せたい思いもあるけど、ユーザーとしてのリアルな意見も聞きたい。そういう意味でプレッシャーは感じていました。それが長﨑さんの作戦だったのかな(笑)。常に見せていくという前提があることで、常に全力でやっていかないと、といういい緊張感をもらえていたと思います。

ープロジェクトを進めていく中で、印象的なエピソードがあれば教えてください。

試作品の確認のために天満のスタジオに伺ったとき、試作品はどこだと思ったら、隣で使っているアレですと。スタッフの方がアイデアボードに簡易的な脚をつけてもう普通に使っていたんです(笑)。これがKAIMENさんのやり方だなと思いました。どんどん先へ進んですぐ実践する。テーブルとして使えるのか、脚はどれくらい必要か、どれくらいの重みなら反らずに使えるのか。たしかプリンターか何か重いモノを置いていたと思います。このシーンはよく覚えてますね。

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あと、ひとつひとつの決断がすごく早かったこと。それは今回のプロジェクトのキーになると思うんですけど、長﨑さんはご自身で判断されるスピードをすごく意識しているんじゃないかな。
その判断軸も、見た目のデザインだけではないことは確かで、ユーザーにとって何が魅力的であろうか、
というところが一貫していると思いますね。一緒に仕事をしていて、気持ちがいいペースでした。

4. ideaboardの進化について期待すること

ー今後、ideaboardはどう進化すると思いますか?期待することがあれば教えてください。

長﨑さんが初めの頃、「アイデアの熱量が覚めないうちに書けることが大事だ」とおっしゃっていて。それは私の中にはない言葉だったのでよく覚えています。私はいつも無地の白い紙ばかり使うんですけどこれはそういうことかもしれないと。何の制約もなくて、絵でも文字でも何でもすぐに書ける、何枚重ねてもいいし、縦でも横でもサッと書けてアイディアの熱量が冷めない。ideaboardもそういう存在なのかもしれません。そのキーワードを使えばこの先の進化が見えてくるのかなと思っています。

今コロナ禍で、ideaboardの開発をしてた頃と全く違う状況になって、世の中の多くがオンラインじゃないですか。便利なオンラインツールがいっぱいあるけど、そうゆうものではなくて無駄なものを全て削ぎ落としたオンライン上のideaboardってどんなものだろうとか。勝手な考えですけど、あったらおもしろいなあと。

こうゆう時期が過ぎたらトキハさんとかみんなで集まって座談会をしたいですね。みなさんのインタビューが出揃って、あの時実は…ってお互いの本音を聞いたらきっとおもしろいだろうなと思います。

次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#12 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 寺嶋 諒)

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