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09. 既存図を描く

月曜日の朝、ミニチュアシュナウザーのTen君と散歩をしながら事務所に向かう。事務所は自宅から最寄の駅前にあり、家から徒歩7分程度しかないので少し遠回りをする。通勤途中の人たちが駅に急いでいる。

事務所に着いてTen君に水を飲ませ、スピーカーの電源を入れて音楽を流し、コーヒーを飲みながら仕事を整理する。今日は現場に行く予定も打ち合わせの予定もないので、一日中デスクで仕事ができる。一年中工事をしているから、丸一日事務所にいられることの方が少ない。貴重な時間。集中しよう。

現在進行中の案件は、これから提案するPさん、1回目の見積もり提出を準備中のSさん、打ち合わせを進めているTさんとBさん、着工前のFさん、施工中で工期の半ばまで進んでいるUさんの6件。

今週末はSさんの見積もり提出があるから最優先だけど、Pさんの既存図に着手して今週中にプランの検討に入らないと後がキツくなりそう。Uさんの造作家具の製作図の最終も今週中が締め切り。私たちは作業を分担して進める。

Pさんを訪問した時に集めた資料を整理する。竣工図の写真、現地を採寸調査した時のメモと写真。CADを起動させて既存図面のトレースを始める。

私たちは大きめのモニターにAppleのMacBook Proを繋いで使っている。ノートパソコンは打ち合わせの時にも現場に行く時にも、仕事の環境をそのまま移動できるので、ずっとこのスタイルでやってきた。

CADはVectorWorks。AppleとVectorWorksの組み合わせは、学生時代からその後に所属したいくつかの設計事務所でも使っていたので、一番慣れていて感覚的に使える。私たちの仕事は小さなプロジェクトが多いので、昔ながらのシンプルな使い方をしている。3DにするときはVectorWorksではなくSketchUpを使っている。

構造体から描き始める。通り心、壁の厚さ、柱の大きさ、梁の大きさを竣工図を参照しながら作図する。続いて採寸メモを見ながら窓や玄関ドアを描き込む。窓の位置や大きさは竣工図に寸法が入っていなかったり、位置や大きさが竣工図と違うことがよくあるので、採寸メモを参照する。外壁の内部側は断熱材が吹き付けられていてGLボンドか内装下地材でふかしてあるのでその様子を描く。ちなみに「ふかす(付加す)」とは建築の用語で、仕上げ面を前に出すという意味。建築の現場では日常生活ではあまり使われない日本語が結構多く使われていると思う。

続いて室内の壁やドア、ユニットバス、トイレ、キッチンなどを竣工図を基準に採寸メモと比較確認しながら描画する。リノベーションでは全て解体撤去してしまうのだが、既存の配管ルートやPSの位置、スラブの段差の形状を確認するために既存の状態をできるだけ正確に製図することにしている。現地の写真も参照して確認しながら進める。

次に竣工図の矩計図を参照しながら簡易な断面図を描く。スラブ間の高さと現状の床仕上げ高さ、ダクト配管部の天井の高さ、梁下の高さ、スラブが下がっている部分の床下の高さや排水配管の高さ、玄関ドアの沓摺とバルコニーなどの掃き出しサッシと室内床の高さの関係が確認するためだけなので、簡単にいくつかの寸法を入れる。採寸メモとも照合して確認する。

もう一度平面図に戻り、排水配管と換気ダクト配管を描く。先に描いた断面図と合わせて配管の状態をイメージする。分電盤、給湯器、エアコンの室内機と室外機の位置、給気口の位置をプロットする。

最後に平面図に天井高さ、梁下の高さ、窓の床からの高さと大きさ、床の段差の寸法を記入して完成。

Pさんの家 既存図

既存図の作成は竣工図をトレースし現状を描くだけなのでつまらない作業のように思われるかもしれない。しかし、注意深く行わないと大きなミスにつながる。逆に丁寧に行い詳細に建物の状態を理解していれば、設計で思い切った提案が可能になり、施工に進む過程がスムーズになり、最終的にクオリティも上がる。

そしてここから新しい住まいの検討が始まる。現状の平面図から専有部の解体撤去が可能な壁やドア、設備などを消すと、まっさらな83㎡の空間が現れる。これがスケルトンと言われている状態。

Pさんの家 スケルトン

頑丈なコンクリート製で、内部には柱や仕切りのない大空間。透明なガラス窓で覆われた開口部からは最高の眺望があり、雨風や暑さ寒さから守られている。窓を開ければ、窓から窓へ新鮮な空気が風となって流れていく。断熱性、耐震性は高いレベルにあり、清潔な水、排水、換気、防犯設備や防災設備まで整っている。最高の条件の新しい土地、敷地が急に現れたような感じがする。

マンションの間取り図は、すでにトイレやキッチン、浴室が描かれていて、壁で仕切られているから、このスケルトンの状態の平面図は普通の人はあまり見たことがないだろうと思うけど、このような平面図を見るととても可能性を感じる自由な雰囲気でワクワクした気持ちになるんじゃないかなと思う。

これで検討に入る準備が整ったことになるけど、プランの検討はたっぷり時間がある時にしたいから、Pさんについては今日はここまで。別の作業に移ろう。

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Pさんの家のスケルトンはいかがでしょうか。スケルトンにすると戸建て住宅との違いがとても良くわかります。

マンションはやはりすごく自由だなと思いますね。

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