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サステナビリティ・レポートの構成要素(1)リスクと機会の分析

今回からサステナビリティ・レポーティングの構成要素について説明します。第1回は「リスクと機会の分析」です。

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リスクと機会の分析

リスクと機会の分析とは、経済、社会、環境面のサステナビリティ課題について、自社の事業活動を進める上での将来のリスクと機会を分析することです。多くのサステナビリティ・レポートに含まれている項目です。自社の持続的発展に向けた戦略を考える上でベースとなる作業と言えます。

リスク分析とは、自社の事業活動の中長期的なリスクを特定して、これにどのように備えるかを検討することです。一例として人権リスクがあります。自社の原材料を、開発途上国の農園や鉱山などから調達している場合、現地で強制労働や児童労働の問題が発生している可能性があります。バリューチェーン上の人権侵害について把握せず放置しておくと、ここから原材料を調達するだけの企業であっても、間接的に人権侵害を助長するとして責任を問われることになります。適切に対処しないと、不買運動、禁輸措置などを招きかねません。例えば、2020年ごろから、中国の新疆ウイグル自治区での強制労働が問題視されましたが、これが米国の「ウイグル強制労働防止法」の成立と、輸入禁止措置に繋がったことは、記憶に新しいと思います。

人権リスク以外にも、地球温暖化の懸念が高まる中で、石炭や石油といった化石燃料に依存しているビジネスは、中長期的なリスクを抱えていると言えます。また、水不足が深刻な地域で大量の水を使用して製造する、あるいは大量の水の消費を前提とした製品を販売するビジネスは、水資源に関するリスクが大きいです。他にも、SDGsの中には生物多様性、海洋資源、ジェンダー、廃棄物処理、労働災害、防災など様々なサステナビリティ課題が取り上げられています。これらが自社の事業にとってリスクになるかどうか検討する作業が必要です。

一方、機会の分析とは、自社の事業活動を通じて社会や環境の持続的発展に貢献する機会はあるか、これをビジネスチャンスに活かす可能性はあるかを検討することです。企業が自社の技術やノウハウを活用してサステナビリティ課題にソリューションを提供することは、課題解決に資するだけでなく、大きなビジネス機会を得ることになります。

例えば、ICTの技術やノウハウを蓄積している企業は、自社技術を用いて遠隔医療サービスのアプリを開発することが可能です。SDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」に貢献しつつ、事業機会を拡大すること見込めます。他にも、前述のような水不足が深刻な地域で節水型の製品を開発し提供するといったケースが考えられます。特に、開発途上国の市場規模は大きく、現地のサステナビリティ課題の解決に資する製品を提供することは、大きな事業機会に繋がる可能性があります。自社の事業活動を通じて、サステナビリティ課題にビジネスを通じて取り組む可能性があるかどうかを検討することが求められます。

こうしたリスクと機会の分析結果をどう整理するかは、企業によって対応が分かれています。最も目立つのは、地球温暖化による気候変動にのみ焦点を当てて、温暖化のシナリオごとにリスクと機会を整理するケースです。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、財務に影響のある気候関連情報の開示を求めています。これに呼応する形で、気候変動のリスクと機会を分析して、その結果を開示する企業が多いです。

また、重要課題(マテリアリティ)ごとに、リスクと機会を分析し、その結果を取りまとめるケースも多いです。これについても、重要課題ごとのリスクと機会を具体的に記述するパターン、あるいは重要課題ごとにリスクと機会の有無を〇(マル)で示すパターンなど対応は様々です。

さらに、SDGsの経営活用の先駆的手引書である「SDGコンパス」では、事業活動のバリューチェーン上でリスクと機会を提示する手法を紹介しています。例えば、バリューチェーンの構成を、「原材料」-「サプライヤー」-「調達物流」-「操業」-「販売」-「製品の使用」-「製品の廃棄」と横一列に並べ、下部にリスク分析、上部に機会分析の結果を提示するパターンです。実際にこの手法を採用している企業もありますので(注)、ご参照ください。

注:東洋インキグループ「サステナビリティデータブック 2022年」(https://schd.toyoinkgroup.com/ja/csr/doc/reports/sust_databook2022ja.pdf


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次回は「サステナビリティ・レポートの構成要素(2)マテリアリティ」についてご説明します。 

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