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クライミング医科学講習会

大森 俊 先生
皮膚科医 スポーツドクター クライマー
専門 スポーツ皮膚科学 フットケア 潰瘍・創傷 

「クライマーに知ってほしい皮膚のあれこれ」のお話をして下さり、この会に参加できなかった方に共有できればと考えまとめてみました。

また「ROCK &SNOW 85号」
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【スポーツ皮膚科学 Sport Dermatology】
も合わせてご覧ください。

多くのクライマーが切望する
「指皮を早く回復させる方法」について、「残念ながら今のところ明確な答えがない」そうです。

しかし、大森先生の経験と専門的立場からアイデアを共有していただきました。

クライマーの言う「指皮」とは皮膚の一番表面にある「表皮」のことです。
そして、その「表皮」にも4つの層があり一番表の「角層」厚さにして0.02mm サランラップ の薄さほどの層のことを「指皮」と我々クライマーは呼んでいます。
クライミング後に「角層」がすり減り、部分的な表皮の欠損が「指皮がなくなる」状態です。

また、大森先生の話によるとこの「角層」は「男性よりも女性の方が薄いかもしれない」とのことでした。

この「指皮」が完全に生まれ変わるには14日必要です。
しかしクライミングにより「指皮がなくなる」という刺激がスイッチとなり、指皮の回復が促進され、1~3日の休息を与えることで「登れる指皮」に戻るようです。

そもそも「皮膚」の役割として「バリア」機能があり
・身体内の水分が必要以上に体外に出ないようにする。
・菌などが体内に入らないようにする。
などがあります。 
「指皮がなくなり」バリア機能が薄れたら身体にとっては非常事態なわけで、回復が促進されるのも納得ですよね。

また「ケア」と「治療」も混同しない方が良いとのことでした。

先ず「ケア」として
「指皮の回復を早める」ために
「指皮が回復しやすい環境を整える」
「指皮がすり減りにくい環境を作る」ことが大切だそうです。

指皮の回復しやすい環境を整える方法として「指皮ケアの基本はお肌のケアと同じ」で
クレンジング→ウォッシュ→ローション→
ミルク→クリーム
の順を追ってお手入れすることが大切なようです。

1・ホールドや岩に付着した雑菌やチョークなどの汚れを綺麗に洗い流す。
2・薬局などで市販されている「グリセリンカリ液」などの水酸化カリウムの作用で「角質」の乱れや毛羽立ちを整える
3・化粧水や美容液で潤す
4・クリームでコーティングし潤いを保つ

以上のことを登らない日も含め、手の状態を観察し1日の内で1〜3回、それを毎日継続することを勧められていました。

また、クライミング用のハンドクリームは「4」のコーティングの時に自分の肌に合うものを選択し使用すると良いそうです。
しかし、1日中潤っている必要はなく乾燥している時間も指皮の回復には必要なようです。

角質を構成している成分の一つに「セラミド」というものがありセラミドがあるお蔭で
「指皮の再生を促す」
「角質の細胞同士をくっつける」
「バリア機能に貢献する」
「潤いを保つ」などの働きを助けてくれます。

また、ビタミンCを摂取することで上記の「セラミド」の作成を助けてくれます。
加えて「セラミド」が配合されているクリームを使用することで、身体の中からも外からも「指皮」を生まれ変わる働きを助けてくれるようです。

また、指皮が削れ過ぎて損傷が表皮で止まらず「出血」を伴う場合には「ケア」ではなく「治療」が必要です。
この場合には完全に再生するまでに「角層」が再生する以上の日数が必要になります。

「出血」した時には
・真水で菌と異物を洗い流す
・傷口を保湿し乾燥を防ぐ

また、治療に有効な成分として「ビタミンE」
があげられ、クライミング用のハンドクリームに配合されている物もあるようです。

そして、保湿のために「キズパワーパッド」「ネクスケア」などの「ハイドロコロイド」と言われる貼るタイプの物で傷口を覆う。

もしくは皮膚科に受診してお薬を処方してもらいましょう。

傷をそのまま放置しておくと
化膿(感染症) 
傷あと(瘢痕 色素沈着) 
ひきつれ(拘縮)など
皮膚本来の柔軟性が損なわれパフォーマンス低下の要因になってしまう可能性もあります。

また傷が深かったり、治るのに時間がかかればかかるほど傷跡が残りやすく、傷の治療中と治療後には傷跡を紫外線に当てないこともポイントだそうです。

どちらにしても「指皮の回復」のために大切なのは
「質の良い睡眠をとる」
「指皮が削れないよう登らない日を設ける」ことだそうです。

手の皮膚の特徴として
「物に触れる」
「外気に触れる」
「紫外線を浴びる」
「指の動きに合わせ伸び縮みする頻度が多い」
「圧迫刺激を受ける」
などがあげられ、指先は常になんらかの刺激があり、寝ている間は刺激から解放されます。
そのため「寝ている間が唯一の指皮レスト時間」だそうです。

また、質の良い睡眠は成長ホルモンの分泌を促し、その結果「指皮の再生能力」が促進されます。

食事面で気をつけることは
「ビタミンC」と「タンパク質」摂取する。
これにより指皮の再生能力を促し、指皮である「セラミド」の合成を助けてくれるようです。

続いて、指皮がすり減りにくい環境を作る方法として上記の「日々のケアの継続」に加え
「ホールドを触らない指皮のレスト日を作る」
「登らない日を設けコンディショニングやフィジカルトレーニングの日を設定」する。

また、日々のクライミングの時から「指を保護する」ことも1つの手段です。
その方法として
「保護膜を作る」
「指先のテーピング」
「トレーニンググローブの使用」
などもあるようです。

長くなりましたが、以上がお話していただいた内容です。
これをきっかけに
「すり減らない程度に刺激を与えつつ意識してレスト日を作る」
「身体のみではなく指皮のケアにも意識を向ける」そんなきっかけになれば幸いです。

怪我なく楽しく好きなクライミングを永く続けましょう。

お付き合いいただきありがとうございます。

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