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1 はじめに 別離家庭の子どもと若者

離別家庭の子どもと若者:家族法制度の経験とニーズ
最終レポート 2018年
レイチェル・カーソン、エドワード・ダンスタン、
ジェシー・ダンスタン、ディニカ・ルーパニ
オーストラリア家族研究所

 このレポートは、「別離家族の子どもや若者:家族法制度の経験とニーズ」プロジェクトの結果をまとめたものです。この質的研究は、オーストラリア政府司法省(AGD)の委託と資金提供を受けて、オーストラリア家族研究所(AIFS)の家族法およびファミリーバイオレンス・チームが実施したものです。
 このプロジェクトの目的は、両親が別離し、家族法制度を利用したことのある子どもや若者の経験とニーズを調査することであり¹、子どもや若者のこのようなサービスに対する経験や、家族法制度が彼らのニーズによりよく応えるにはどうしたらよいかに焦点を当てています。この研究目的に応えるために、調査されたリサーチクエスチョン(解明課題)は以下の通りです。
 ・別離後の子育ての取決めにおいて、子どもや若者の視点から見た重要な問題は何か。
 ・親との別離に対処するために、子どもや若者はどのような支援を得ているか(例えば、サービス、ピアサポート、家族支援など)。
 ・家族が以下に点に関連して様々な家族法制度サービスを利用した子供や若者の経験の性質はどのようなものなのか。
  -子どもや若者の経験がどのようにサービスにおいて認識されているか、また、子どもや若者自身がどの程度サービスの直接的な受益者となっているか。
  -これらの経路への関与が、子育ての取決めに関する意思決定に加わることの支援になったかどうか。
  -このような状況において、研究に参加または不参加の経験はどのようなものだったか。
  -これらの異なる経路を利用する子どもや若者の経験における相違点と類似点は何か。
  -子どもや若者の視点から見た効果的な専門的実践の特徴は何か。
 また、この横断的なアプローチからは、以下の質問に関しても限られた洞察しか得られませんでしたが、これらの質問は、将来、縦断的アプローチを実施することで、より長期的な洞察が得られることが前提となっています。
 ・別離家庭で育つ子どもや若者の生活体験はどのような特徴を持ち、様々な種類の親の取決め、父親、母親、兄弟姉妹、ステップファミリー(継親と連れ子)との関係について、どのような体験をしているのか。
 ・子育ての取決めの変化の根底にある力学は何か、またそれは子ども中心なのか大人中心なのか。
 ・別離家庭で育つ子どもや若者は、何が最も助けになると感じているか(サービス、ピアサポート、ファミリーサポートなど)。
 ・子どもや若者は、子育ての取決めの変化をどのように経験しているか、また、子どもや若者の視点から、サービスの利用や再利用に対し、どの程度肯定的、否定的、あるいは両方が混じった感情を抱いているのか?
 ・長期的に異なる経路を利用する子どもや若者の状況やアウトカムには、どのような違いや共通点があるのか。
 この調査のためのプロジェクト手法を開発、実施する際、AIFSチームは500以上の法律家団体や非法律家団体と連絡を取り、さらにそのうちの70以上の団体と密接に協力して継続的に募集資料を回しました。こうした募集活動に基づくフィールドワークの面接を、2017年5月から2018年4月にかけて実施し、10歳から17歳までの61人の子どもや若者が詳細な面接によって本調査に参加し、47人の親に対しても詳細な面接によってデータを収集しました。

1.1  背景

 子どもや若者の最善の利益は、1975年家族法(連邦)第7部(以下、FLA)の設計と運用の中心を成しています。FLA第60CA条は、子育て/子ども問題において第7部に基づく命令を下す際に、裁判所が「子の最善の利益」を最優先事項として考慮するよう求めています。子どもや若者の最善の利益を決定する際、裁判所はFLAに規定されている2つの主要な考慮事項を検討することが求められており、立法上の指針が提供されています。即ち、両親と有意義な関係を持つことが子どもにもたらす利益(第60CC条⑵⒜)と、子どもが身体的または心理的な危害、虐待、ネグレクト、ドメスティックバイオレンスを受けたり晒されることから保護する必要(第60CC条⑵⒝)があります。ある状況で、これらの考慮事項が対立する場合、第60CC条⑵⒝の危害からの保護の考慮は、有意義な関係の考慮第60CC条⑵⒜より優先されます。
 また、第60CC条⑶に概説されている追加的考慮事項にも留意する必要があり、本研究で特に注目すべきは、これらの追加的考慮事項の1つとして、裁判所が「子供が表明した意見および裁判所が子どもの意見に与えるべき重みに関連すると考えるあらゆる要因(子どもの成熟度や理解度など)」を検討することが求められている点です(第60CC条⑶⒜)。重要なことは、第7部の手続(第60CE条)の文脈において、子どもや若者は意見の表明を強制されないということです。
 2012年に施行されたFLAの改正²により、「第7部の追加目的は、国連児童の権利に関する条約(UNCRC)を実効化すること」と明記した第60B条⑷が導入され、家庭法の手続きにおいて子の最善を利益の代表することがより重要視されるようになったことは間違いありません。オーストラリアが締結している国連児童の権利条約(UNCRC)は、子どもや若者が自己の養育に関連する決定に参加する権利(第9条)、および自己に影響を与える行政手続きや司法手続きにおいて自己の意見を表明する権利(第12条)を認めています。より具体的には、第12条は、子どもや若者がこれらの手続において(直接または代理人を通じて)意見を聞く機会を提供することを強調し、締約国に対し、意見を形成できる子どもや若者が自由に意見を表明する権利を与えられ、その意見に年齢と成熟度に応じた正当な重みを与えることを保証するよう義務付けています。実際には、第60B条⑷は、第7部の規定がこれらのUNCRCの原則に照らして解釈されることを立法的に明確化しています³。
 PとP(1995),家裁19,判例集1、ハリソン対ウーラード(1995),家裁18,判例集788、RとR:子どもの願望(2000)家裁25,判例集712の事件などの影響力のある判例法は、別離後の子育ての取決めを決定する際に、子どもや若者の希望(現在の見方)⁴に与えられる重みづけに関する指針を提供しています⁵。ハリソン対ウーラード(1995)において、オーストラリア家庭裁判所の大法廷は、子どもや若者の希望や見解の強さ、期間、根拠、関連問題の意味合いの理解を含む子どもの成熟度など、子どもの希望や見解に置かれるべき重みをアセスメントする上で、裁判所にとって役立つものとして特定の要因を概説しました。フォガティとケイ・JJは、子どもの希望や見解に与えられる重みは「それぞれの特定の事件における子どもの認知年齢と成熟度によって決まる」とし、その行使は子の最善の利益の原則に従う(第60CA条)としましたが、裁判所は「7歳の子どもには熟考した判断、つまり理屈の通る判断をする能力があるという反証可能な推定を裏付ける研究結果がある」(823頁)とも述べました。より一般的には、若者の希望や見解に適切かつ正しい配慮をすることの重要性が、この事例では明確に表現されています。

子どもの希望は、裁判長の判断理由に考慮されているというだけでなく、考慮されたことが示されなければならない。更に、裁判長が子どもの希望を拒否することを決定した場合、子どもの希望を拒否する明確かつ説得力のある理由を示さねばならず、特に、別の代理人が裁判所は子どもの希望を実現するべきだと申し出た場合は、その理由が示されなければならない。子どもの希望は、子どもが表明しただけという理由で軽視すべきではない。

(ベイカー・J)

 これらの代表的な判例は、高等裁判所への控訴を含むより最近の判例、ボルデモンテとボルデモンテ[2017]オーストラリア最高裁8とともに、子どもや若者の意見は「子の最善の利益に関する総合的評価において考慮すべき幾つかの考慮事項の一つに過ぎず」、それ自体で決定的なものでも確定的なものでもないことを規定しています。
 15年以上にわたって、UNCRCの締約国としてのオーストラリアの義務である、子どもや若者に影響を与える家族法の意思決定への参加に関して、既存の法制度や実務上の措置がどの程度十分であるかという懸念が提起されています。(例えば、オーストラリア法律改正委員会ALRC,1997年;オーストラリア子どもの権利タスクフォース,2011年;カスピウら、2014年)。現在FLAでは、裁判所は、オーストラリアの家族法の手続きにおいて、関連する子どもや若者が表明した意見を、以下の方法で通知できると定めています。:⑴独立した子どもの弁護士(ICL)の任命(第60CD条⑵⒝;第68L条);⑵家族コンサルタントによる第62G条の家族報告書または第11F条の覚書の命令(第60CD条⑵⒜);⑶裁判所の規則に従い、その中に司法官と関連する子どもや若者との会合も含めることができる「裁判所が適切と考えるその他の手段」(第60CD条⑵⒞)。これらのメカニズムは、本報告書の各章で検討しますが、以下、それぞれの概要を簡単に説明します。

 子どもの独立弁護士(ICL)
 
2006年以前は、ICLまたは「子どもの代理人」(以前の呼称)の役割は、判例や実務ガイドラインを通じて発展してきました⁶。2006年のFLA法改正により、第7部に基づく手続きにおけるICLの役割と義務が明確にされました。FLA第68L条⁷は、裁判所が第7部の手続きにおいて、子どもの利益を代表するICLに、独立して子どもを代理させることを命じることを規定することで、ICL の選任を容易にします。第68LA条は、ICLの役割の概要を示し、ICLは訴訟手続きに関して子どもの指示通りに行動する義務はないが、手続きに関して子どもが表明した意見を裁判所に十分に伝えることを保証しなければならないと規定しています⁸。
 FLAには、ICLが関連する子どもや若者と会い、話をするための明確な立法要件はありませんが、第68L条⑸では、裁判所は、年齢や成熟度、その他の特別な事情によって照会が不適切でない限り、弁護士が子どもの意見を確認できるような命令を出すことができると規定しています(第68L条⑹)。ICLガイドライン(全国法律扶助,2013)は、ICLが子どもに会うことを期待していますが、子どもが学齢期未満である場合、例外的な状況である場合、現実的に大きな制限がある場合は、その必要はないとしています。
 実際には、ICLが子どもや若者の最善の利益を代表するために取るアプローチに違いが見られ、意見を引き出すための直接的な協議は、ICLの役割や専門性を超えていると考えるICLがかなりの割合を占めていました(カスピウら,2014)。子どもや若者の最善の利益を代表し、訴訟への参加を促すための様々なアプローチを検討することに加え、カスピウら(2014)や、それ以前のロス(2012a, 2012b, 2013a, 2013b)やパーキンソンとキャッシュモア(2008)などの研究では、証拠収集や訴訟管理機能に関するICLの役割の一部を成す他の機能を明らかにしています(より最近では、ベルの2016a, 2016bも参照)⁹。
 オーストラリアの家族法制度におけるICLの利用と効果を調査したAIFSの研究(カスピウら, 2014)では、ICLが「二者間で敵対的に行われる手続きに子どもの焦点を当てる」ことを可能にしたことが確認されました(p.xii)。にも拘らず、その研究では、専門家と一般参加者の両方が、一部の ICLの「能力と責任」に懸念を示し、「効果的なICLの実践に影響を与える個人と制度上の問題」の両方が指摘されました(カスピウら, 2014, p. xii)。調査に参加した殆どの子どもや若者(とその親)は、自分の事件で任命されたICLとの交流が限られていたり、会えなかったりしたことに失望していると述べました。ICLがいなかったり、ICLとの交流が限られていることに加え、若い参加者は、ICLの経験を述べる際に、自分たちの意見を汲んでもらえなかったこと、および/または裁判所に伝えてもらえなかったこと、訴訟の進捗状況や結果の説明に関する継続的なコミュニケーションを欠いていたことについて懸念を示しました(カスピウら,2014,第8章)。その研究は、アンダーソンら(2016)、バラ、バーンバウム、およびベルトラン(2013a、2013b)、ベックハウス(2015a、2015b、2016)、ベル(2016a、2016b、2017)など最近行われた研究と共に、第4章でより詳細に検討する予定です。

 家族報告書と覚書
 
前述の通り、裁判所は、当事者および/または子どもに対し、家族コンサルタント(内部または裁判所が任命した外部の心理学者または社会福祉士)¹⁰が、第7部手続に情報を提供する家族報告書(第62G条)または覚書(第11F条)を作成するために、家族コンサルタントとの会合に出席するよう命じることができます。報告書の作成を指示された家族コンサルタントは、手続における関連事項に関して、子どもや若者の意見を確認し、その意見を報告書に記載しなければなりません(第62G条3A)。但し、子どもの年齢や成熟度、その他の特別な事情により意見を確認することが不適切な事件は、例外として扱います。
 家族のアセスメントと報告のための専門的実務基準(2015)は、第62G条に基づいて命じられた、または個人的に委託された家族のアセスメントと報告書の実施に関する最低基準を定めています。子どもや若者との適切な関わりが強調されており、面接の目的を通知し、提供した情報がどうなるかを知らせること(家族アセッサーや家族コンサルタントに話したことは秘密ではないとの通知を含む)が規定されています。また、その基準は、家族アセッサーや家族コンサルタントは、子どもとの面接の訓練を受け、熟練していなければならないと定めています。家族アセッサーや家族コンサルタントの調査結果や報告書の提言は、しばしば裁判の結果を左右するほどの影響力を持ちますが、最近の調査や解説によると、その準備や質には大きなばらつきがあることが示唆されています¹¹。家族アセッサーや家族コンサルタントと関わる際や家族報告書のプロセスにおける参加児童や若者の視点や経験については、このレポートの第4章および第5章で、社会科学の専門性と家族法の交差に関連する研究(例えば、バナム、アラン、バーグマンおよびジャウ,2017; バーンバウム,2017; バーンバウムおよびバラ, 2017; オニールら, 2018)と関連づけながら検討する予定です。

 司法面接
 
現在、FLAや家族法規則(FLR)には、司法書士が子どもや若者の意見を確認するために面会したり、話をしたりすることに関する規定は存在しません。以前は、FLRの規則15.03(2010年に削除)に、司法書士はFLA第7部に基づく手続きの対象である子どもと面会することができると記載されていました。この規定が削除された際、そのようなケースは一般的には発生せず、発生した場合は特定の命令でカバーできることが指摘されました¹²。オーストラリアでは、司法書士が子どもや若者と直接会って話をすることは稀ですが、FLRで明示的な言及がなくなったにも拘らず、このような選択肢は残っています¹³。「ZNとYHと子ども代理人(2002)家族法事件93-101」において、ニコルソン裁判官は、場合によっては、特に子どもが大きくなった場合には、司法書士が子どもや若者と会うことが適切である場合があると述べています。更に、子どもや若者が司法書士と直接話したいという意思を明確に示している場合、裁判所はUNCRCの第12条に留意すべきであると主張することができます。オーストラリアの研究と国際的な研究の両方が、意思決定者との直接的なコミュニケーションに関するこの研究に参加した子どもや若者の振り返りの分析という文脈で注目されるでしょう(例えば、バラ、バートランド&バーンバウム、2013; バラ、バーンバウムおよびシル、2015; ベックハウス、2015a; バーンバウム & バラ 2014; コールドウェル & テイラー、2013; ダンバー、2017; 家族法評議会、2016; フェルナンド、2012; フェルナンド&ロス、2018; ハンター、2007; パーキンソンとキャッシュモア、2007; ヤング、2017)。

 法廷外での意思決定への参加の選択肢
 
FLAの第60I条では、ファミリーバイオレンスや児童虐待のリスクがある場合やその事実が立証された場合を除き(第60J条)、第7部に基づいて申請を行う前に家事紛争解決(FDR)への出席が義務付けられています。家族は、この義務を果たすため、または別離後の取決めを解決するための主要な手段として、FDRに関与することができます。FDRの実務者(および弁護士、カウンセラー)は、当事者に対し、裁判によらない家族サービス(第12E条、第12G条)や裁判制度外の家族サービスに関する情報を提供することが義務付けられています。また、子どもの最善の利益を最優先すること、子どもを危険から守ることが両親との有意義な関係の維持よりも優先することを、両親に助言することが求められている(第60D条)。
 FLAでは、FDRに参加する際に子どもや若者が表明した意見を聞くことを特に義務付けてはいませんが、「子どもに焦点を当てた」と「子どもを包括した」のFDRへのアプローチは、この法廷以外の場で意思決定に関わる際に子どもや若者の意見と最善の利益を考慮するために開発されたものです。子どもに焦点を当てた実務は、FDRの実務者とこのFDRプロセスに参加する親が、これらの最善の利益を考慮することを反映している一方、子どもを包括した実務は、子どもや若者が彼らと直接連絡を取り合う子どもコンサルタントを通してFDRのプロセスに参加します。その後、子どもコンサルタントは、子どもや若者の見解と経験を両親に伝えることで、直接的にFDRへの当事者の関与を報告し、特に子どもの最善の利益に対し焦点を当てることができます。
 子どもや若者のFDRの経験に関する幾つかの洞察は、この現在の研究の参加者から提供されていて、第4章で考察します。関連する文献としては、「ユナイティングケア・クィーンズランド」が実施した最近のアクション・リサーチ(ウィリアムズ,2016)や、以前の研究(例えば、バラード、ホルツワース・マンロー、アップルゲイト、ドノフリオ、ベイツ 2013; ベル、カシュモア、パーキンソン、シングル 2013; ブラウン&キャンベル 2013; ユーイング、ハンター、スミソン、バーロウ 2015; グラハム、フィッツジェラルド、キャッシュモア 2015; ハリス「ビクトリア州法律扶助」が実施した 「キッズトーク」プログラムについて 2012 ; インダー 2014; ケリー 2014; カスピウ、リューイントン、リンチ、フィールド 2013; マッキントッシュ 2007; マッキントッシュ、ロング、ウェルズ 2009; モロニー&マッキントッシュ 2004; テイラー&ゴロップ 2015; ウォーカー 2013; ウェッブ&モロニー 2003; ヤセニク&グラハム 2016)が挙げられます。

 子どもや若者の参加への視点
 
家族法の文脈におけるオーストラリアおよび国際的な先行研究¹⁴から、別離後の意思決定プロセスにおいて、子どもや若者の意見を聞き、考慮することで、このプロセスに参加する機会を提供することが、子どもや若者の観点から重要であることが立証されています。
 また、オーストラリアや海外の関連する研究により、意思決定プロセスの性質と進捗について、子どもや若者に情報を提供し、このプロセスの一環として、決定と結果を説明することの重要性が確認されています¹⁵。先行研究によると、子どもや若者は、子育ての取決めに関する最終的な決定の責任を、関連する大人に求める傾向がありますが、この点については、年齢および/またはリスクや有害性のプロファイルに基づいて、ある程度の違いが確認されています。(例えば、一部の年長の子どもは、適切なり決めについての見解を特に熱烈に表明し、忠誠心の分裂から生じる困難についてはあまり言及していません:カンポ、フェールバーグ、ミルワード、カーソン 2012; シーハンら 2005)。より具体的には、先行研究は、別離後の子育ての取決めに対する好みに関しては勿論、子どもや若者が両親の別居の一般的な影響に関連して、意見を表明する機会を促進することの重要性を強調しています。(例えば、バーンバウム&サイニ 2013, 2015; フェールバーグ、ナタリア、スミス 2018; フェルナンド&ロス 2018; フォーティン、ハント、スキャンラン 2012; マッケイ 2013; マーシャル 2017;ク&ウェストン 2015; クイグリー&シル 2017; サドフスキー&マッキントッシュ 2016)。
 このレポートの実質的な章における子どもや若者との面接データの分析は、このようなオーストラリアおよび国際的な先行研究を背景に、家族法の文脈における専門家と子どもや若者の相互作用に関する先に概説した研究とともに検討します。そうすることで、家族法制のサービスと関わる際に、子どもや若者がどのような期待や経験を抱いているのかが見えてくるはずです。また、子どもや若者の意見や経験に耳を傾けることが、家族法制のサービスを向上させるためにいかに重要であるかを探求していきます。
 また、このレポートの議論と分析では、別離後の意思決定において、子どもや若者の意見や経験を特定、評価、対応するために現在用いられているメカニズムに加えられるであろう改善点について、参加した子どもや若者の視点を探ることになります。そうすることで、子どもや若者の代表的なニーズと治療的なニーズの両方に対応しようとする改革のための提言に関心を持つことになります。(例えば、ベックハウス, 2015b; 家族法評議会, 2016; 社会政策と法務に関する下院常任委員会, 2017; テイラー, 2017; ヤング 2017; 青少年家族法諮問グループ (SA)¹⁶ を参照)。

1.2  調査方法

 このレポートの冒頭で述べたように、このプロジェクトは、「親が別離し、家族法制度を利用している子どもや若者の経験とニーズを、彼らの家族法制度サービスに対する経験や家族法制度が彼らのニーズにどう応えることができるかに焦点を当てて調査すること」が中核的な研究課題でした。また、後日、縦断的アプローチに対応できるように、一連のより具体的な研究課題を設定し、質的研究アプローチで調査しました。
 半構造化された詳細な面接は、子どもや若者(n=61)およびその親(n=47)と行い、面接スケジュールは、プロジェクトの研究課題で浮上した主要テーマをカバーするように作成しました。親と若者は、家族法サービスやオンライン・コミュニケーションを通じて複数の戦略で募集しました(詳細は以下を参照)。子どもや若者、およびその親は自ら調査に参加することを選択しましたが、研究者は主要な利害関係者と協力して、サービスを使用している、または使用したことがある家族を対象にするため、慎重かつ的を絞った募集方法を使用しました。このプロジェクトで取得した倫理的認可(詳細は後述)は、10~11歳の子どもや若者への面接は、両親の家族法問題の最終解決から早くとも12カ月後、12~17歳の子どもや若者は最終解決から早くとも3カ月後に行うことを要求していました。
 子どもや若者に対しては、対面面接を優先し、地理的アクセスを考慮すべき状況にある少数に対しては、参加者の年齢が十分で、インターネットにアクセスでき、若者とその親の両方が面接を行う目的でオンライン技術を使用することに問題がない場合に限り、オンライン・アプリケーション(スカイプ)を使った面接を実施しました。親との面接は、子どもや若者から提供されたデータの背景となる人口統計学的な情報を収集するために、電話で行いました。これらのデータにより、研究チームは、親が利用したサービスや、家族法の問題を解決するために利用した経路を理解することができました。
 子どもや若者との面接スケジュールには、構造化された部分と非構造化された部分の両方を含んでいました。面接の構造化された部分では、子どもや若者のウェルビーイングを理解するためのデータを収集するため、そして、このサンプルの子どもや若者のウェルビーイングを、「別離家庭の縦断研究(2009)」の青年期のサンプルや、「オーストラリア子ども縦断研究」の第5波と第6波のサンプルとの比較を容易にするために開発されました、親については、構造化された部分がオープンエンド形式の面接スケジュールと統合され、子どもや若者から集めたデータの背景となる、別離後の取決めや利用した家族法制度サービスの性質に関するデータを得ることが可能になりました。面接のオープンエンドの部分は、参加者の見解、経験、状況がサンプル内で異なる状況において、問題、経験、観点を深く、繊細かつ敏感に探ることをサポートするものでした。
 親者と子どもや若者との面接は2017年5月に開始し、2018年4月上旬に終了しました。面接内容は、パスワードで保護された暗号化されたデジタル録音装置で音声録音し、全ての録音を安全な電子転送を使用して転写サービスに送信しました。転写された面接内容は非識別化し、AIFSの安全なサーバーに保存し、その後、転写からのデータは分析を支援するためにプログラムされた調査票(AIFSの安全な内部サーバー上)に入力されました。
 このレポートでは、子どもや若者が家族法制のサービスや支援を受けた経験に関する質的な知見を示すことに主眼を置いていますが、子どもや若者の質的洞察や経験を検証するための文脈を提供するため、副次的な量的要素も示しています。量的データ分析は、統計分析ソフトウェア「ステータ」を使用して行い、重み付けなしで表示しています。
 この研究の研究設計の土台としたのは、データの収集と分析の両面において、探索的なグラウンデッド・セオリー・アプローチでした¹⁷。先入観や固定した仮説を検証するよりも、構造化されたオープンエンドの研究課題は、データ収集と分析とともに文献レビューを展開し、研究プロセスで新たに生じた問題の特定と調査を支援して、プロジェクトの研究課題に関連するデータ収集の指針となりました(グレイザーとシュトラウス 1967; シャルマズ 2000)。データ分析に関しては、データ中の主要なテーマとパターンを特定するために、最初のオープン・コーディングのプロセスが実施され、データに基づく知見の開発をサポートしました。この後さらに、浮かび上がったテーマとパターン間の差異を検討し、最も頻度が高く、浮かび上がった理論と最も関連性の高いコア・テーマを開発するべく、理論的なセレクティブ・コーディングを実施しました(シャルマズ 2000 ; デイ 1999; ジェーンシック 2000; ケレ、プレイン、バード 1998; パンチ 1998 ; ライアン&バーナード 2000)。このプロセスで特定された中核的なテーマは、このレポートの第6章で展開しています。

 募集方法
 
家族の募集は、家族法サービス、オンライン・コミュニケーション、募集資料の配布など、複数の戦略で行いました。募集戦略は、サービスや裁判所が子育ての取決めを解決するために利用されている時期に、宣伝用資料を通じて間接的に親や若者(10~17歳)に関わることに重点を置きました。この募集戦略は、主にサービスや裁判所との関わりを開始したものの完了していない家族を対象としましたが、多くのサービスは、最近問題が決着したため、家族と連絡を取ることができました。最終的には、若者とその親が自ら選択して調査に参加することになりますが、研究者は主要な利害関係者と緊密に協力して、サービスを利用したことのある家族に関与するために、慎重かつ的を絞った募集方法を行いました。この目的サンプルを集めるために、研究チームは500以上の法律および非法律団体と連絡を取り、さらにこれらの団体のうち70以上と密接に連携して、募集資料を継続的に配布しました。配布先は以下の団体が含まれます。
 ・オーストラリア家庭裁判所、オーストラリア連邦巡回裁判所、西オーストラリア州家庭裁判所
 ・人間関係オーストラリアを介した家族関係センター(子どもを含むFDRを提供するFDRサービスを含む)、ユナイティングケア、EACH(社会と地域の健康)、カトリックケア、アングリケア
 ・国家法律扶助および州・準州法律扶助委員会
 ・国および州・準州の児童委員会
 ・法律協会、弁護士会、およびオーストラリア法審議会の家族法部門
 ・個々のコミュニティ法律センターと一緒に全国コミュニティ法律センター協会
 ・女性法律サービス・オーストラリアと州および準州の女性法律サービスと家庭内および家族内暴力(DFV)サービス
 ・家族法経路ネットワーク
 ・青少年サービス
 ・地域医療サービス
 ・学校のネットワーク
 このプロジェクトの研究提案と資金調達は、メルボルン、シドニー、ブリスベン、およびフィールドワーク部門の費用範囲内でアクセス可能な地方や農村部での参加者の募集に基づいていましたが、プロジェクトの過程で募集は全ての州と準州に拡大されました。
 家族法サービス、コミュニティサービス、青少年サービスは、ウェブサイト、ソーシャルメディアアカウント、電子ニュースレター、その他のオンラインネットワークを通じて、この研究に関する広報資料を共有しました。研究チームは、対面式のサービスを通じて家族と関わることに加え、様々なオンラインの募集戦略も活用し、対面式の家族法サービスを受けられなくなった家族とつながることを可能にしました。最後に、研究チームは、フェイスブックを介したターゲットを絞った広告も、対象となり得る家族と繋がるための追加の方法として使用しました。
 若者とその親の関心を引き、研究への参加を呼びかけるための宣伝用募集資料(ハードコピーと電子版)を特別に作成しました。ポスターとポストカードを、家族法システムのサービスの待合室に掲示するために作成しました。人目を引くデザインは、研究の主要情報と、親や若者が参加に関心を示すための連絡先情報の上に書かれている「聞いてください!」という文言の紐に繋がれた缶を持っている犬のイメージが特徴でした。これらの資料は、家庭裁判所の待合室に置かれている他のパンフレットや視覚資料(通常、子どもや家族のストックフォトのような、かなり一般的な画像が使用されています)の中で目立つようにデザインされています。
 この研究のために実施された募集方法は、宣伝活動の到達範囲を最大化し、地理的な場所、親子の性別、背景、サービスの利用、経験の範囲に関して、参加候補者の最大限可能な幅広いサンプルと繋がるように設計しました。しかし、実際のところ、「オプトイン」方式を採用しているため、サンプルの最終的な分布の統制は困難でした。

 スクリーニングとサンプリングの手順
 
この「オプトイン」プロセスを実施するには、親または若者が、幾つかの方法(電子メール、1800番号、SMS、ウェブフォームなど)を使ってAIFS研究チームと最初に連絡を取ることが必要でした。チームメンバーは、関心を持った全ての登録者に対して、最初のスクリーナーを記載した電子メールを送信して、および/または、研究が参加者に負担をかけたり、害や意図しない結果を引き起こしたりしないようにすることは勿論、研究に参加する「範囲内」であるかどうかを確認するために、親と電話で簡単に会話をして対応しました。
 家族が「範囲内」であるかどうかを研究者が判断するための詳細なプロトコルを作成し、これには、法的プロセスおよび/または和解プロセスの完了時期や詳細、予想される将来の手続き、および安全性やリスクの問題をカバーしました。スクリーニングプロセスは、家族の状況と家族法制サービスとの接触に応じて調整しました。

 サンプリング枠
 
前述のように、10歳から17歳の子どもや若者は、参加することに関心があり自分自身で登録するか¹⁸、親を通じて募集された可能性があり、以下に概説するように、参加するは本人の同意と両親のどちらか1人の同意の両方を得ることが条件とされました。
 「離婚家庭の子どもや若者の調査」のサンプル枠は、以下の主要な要素で構成されています。
 ・フィールドワーク期間中に10歳から17歳の子どもや若者であった。
 ・親は、2013年以降に問題を解決し(あるいは再交渉し)、オーストラリアの家族法制度サービスを利用したことがある19。
 ・12歳以上の子どもについては、家族法に関連する全ての問題が確定してから最低3ヶ月、10~11歳の子どもについては最低12ヶ月が経過していた。
 ・子どもや若者の研究参加で生じると予想される安全性の問題や葛藤のリスクは存在しなかった。
 ・単独親責任や共同親責任を持つ研究に参加した親(監護親,訳者註)か、必須の親責任を持つ親(別居親,訳者註)や後見人のどちらかが、若者の参加に同意していた。
 上記のスクリーニング要素は、データが現行の家族法制度サービスを可能な限り反映していることを確認するために作成され、同時に、研究への参加が家族のサービスや裁判所への関与に何らかの影響を与える(例えば、証拠として面接資料提出を命じられる)リスクを軽減するためのものでした。
 これらのサンプリングの制限は、この研究の人間研究倫理委員会(HREC)の認可の一環として行ったものであり、以下の倫理的配慮のセクションでさらに詳しく説明します。
 AIFSの研究者は、研究に関心ありと登録した最初の日から親との面接が完了した後の期間、そして子どもや若者との面接の時まで、家族と定期的に連絡をとる関係を確立し、維持しました。家族の登録から子どもや若者の面接までの期間は、各家族の経験によって異なり、最終決定からの最短待機時間、10歳の誕生日を迎えるまで待つ必要がある子どもや若者、および親と子または若者が面接に参加できることなどの要因に依存していました。平均すると、家族が最初に研究参加に関心ありを登録してから、子どもや若者との面接が完了するまで、24日から395日の範囲で、189日(約6カ月)かかっています。

 調査登録の概要
 
表1.1は、フィールドワーク期間中に家庭から寄せられた参加希望登録の概要です。全家庭登録(n=422)のうち、参加に至ったのは11%であり、母親を親として登録した場合の15%が参加家庭、父親を親として登録した場合の7%が参加家庭になりました。
 全体として、29%の登録者が「範囲外(研修対象外)」になりました。家族法に関連する問題が確定していないことが最も一般的な理由であり(全登録者の15%)、参加するには子どもが幼過ぎる(または少数のケースでは年齢が高すぎる)ため(全登録者の4%)、登録している親が親責任を持っていない、および/または、一方の親から同意を得られていないため(全登録者の4%-父親が8人、母親が8人)、最近サービスを使用していない、親だけが研究への参加を希望しているという理由を含むその他の理由が挙げられました。
 フィールドワーク期間中、登録者の5%が最終的に研究調査からオプトアウトしました。平均して登録日から約3ヶ月後で、通常、最初の歓迎SMSやEメールを送った後、少なくとも1回のフォローアップを試みた後でした。
 関心ありで登録した全ての登録者のうち、54%が最終的に「連絡なし」に分類されました。-つまり、関心ありで最初に登録をした後、何度か連絡を試みたにも拘らず、研究チームに対し全く応答しなかったか、応答が少なすぎてその家族が「範囲内(研究対象)」になり得るかどうかを確認できませんでした。この割合は、登録している父親の方が登録している母親より僅かに高位でした(父親の 60%、母親の48%を参照)。

 この章で説明した募集方法は、大都市圏と地方や農村部の両方を対象とし、家族向けのサービスやアクセスポイントを幅広く網羅するものでした。獲得したサンプルは、この最大限多様性を考慮したサンプリング手法を反映しています。

1.3  倫理的な問題

 この研究の、特に複雑な家族構成員の関係性を有する子どもや若者が関与する複雑な性質を考えて、研究チームは研究のあらゆる側面において、慎重かつ繊細な対応が要求されることを認識していました。この研究の方法論の基礎となる重要な考慮点は、オーストラリアの家族法制度のサービスに関する経験について若者が発言することを重視し、力を与えること、そして親との別離を経験する若者をどのようにサポートするのが最善かについて、若者が提案する場を提供することでした。しかし、参加者に過度の苦痛や負担を与えないよう、繊細かつ慎重な方法でこれを行うことが不可欠でした。

 倫理的アプローチ
 
研究チームは、研修参加者の募集、家族のスクリーニング、(親と子どもや若者の両方から)インフォームド・コンセントの取得、面接手順、参加者の秘密やプライバシーと安全の保護と維持、苦痛への対応、報告義務、支援サービスへの紹介を含めた、家族、特に子どもや若者との関わりに関するあらゆる側面を網羅した包括的なプロトコルを作成しました。これらのプロトコルにより、研究チームは、参加者募集および面接のプロセスに適用される適切な戦略を身につけ、研究者は、支援や紹介が指示された場合に適切に対応することができるようになりました。親と子どもや若者の両方との面接の後、(指示された場合はAIFS幹部も参加して)スタッフへのデブリーフィングを行いました。調査チームとAIFS幹部が、所定の児童福祉当局に通知する必要があると判断した状況はありませんでした。
 親と子どもや若者との面接に関わった研究者は全員、複雑で多様な背景を持つ家族、子ども、集団に関わる幅広い研究経験をしていました。更に、子どもや若者との面接を担当した研究者は全員、経験豊富な心理学者のもとで子どもや若者への面接に関する追加研修を修了していました。また、子どもや若者との研究に関する関連研究文献(グリーンとホーガン, 2005; テイラー、ゴロップ、スミス, 2000; トゥロイ・スミスとパウエル, 2017; ウィルソンとパウエル, 2001など)を参照し、研究の指針を得てもいました。
 各面接には2名の研究者が同席し、子どもや若者との面接経験が豊富な研究者1名が面接を行い、2人目の研究者はオブザーバーおよびメモ係として同席しました。2人目の研究者は、面接過程におけるラポールの形成をサポートし、デジタル音声記録では捉えられない非言語的表現や合図を記録することを可能にし、面接過程における子どもや若者の苦痛のサインを見落とさないようにしました。この研究者2人体制のアプローチは、子どもや若者を対象とした過去のAIFS研究(例えば、カスピウら,2014)と一致するものです。これらの過去の経験では、研究者は、子どもや若者に対し、2人目の研究者がメモを取るのを助けるためにそこにいるので、中心となる面接者が子どもや若者と直接関わることに集中できるのです、と説明していました。

 インフォームド・コンセント
 
研究への参加資格を持つ全ての親と子どもや若者に、研究についての情報シートを提供しました。参加者情報シートは、2つの参加者カテゴリー用に別々に作成され、子どもや若者向けの情報シートは年齢に応じた表現が用いられています。
 若者が参加する殆どの研究と同様に、研究チームは、若者が研究に参加するために、研究開始前に親の同意と子どもや若者の同意の両方を必要としました。しかし、調査に参加する家族の人数を考え、また、親責任の複雑さが分かっていたので、子どもや若者の参加に対する同意は、必須の親責任(共有親責任と単独親責任のどちらであっても)を持つ親(別居親、訳者補足)から得られることを要件としました²⁰。
 子どもや若者と話をすることに親の同意が得られたら、研究者は子どもや若者に参加する意思があることを確認しました。面接に先立ち、研究者は、面接の日時を確認し、子どもや若者が研究チームに対して抱いているであろう質問に答えるため、子どもや若者に電話で連絡を取ります。面接を開始する前に、研究者は口頭で同意書を読み、子どもや若者から正式なインフォームド・コンセントを取得します。また、面接を通じて、参加者の自発的な参加とプライバシーへの配慮を繰り返しました。
 子どもや若者への面接が終了した時点で、研究者は、参加者が苦痛を感じているかどうかに拘らず、適切な支援サービス(キッズヘルプラインや同様のサービス)の詳細を各参加者に提供しました。待機状態にあるAIFSの心理士が、フォローアップの連絡を取る必要がある評価した参加者はいませんでした。

 倫理審査プロセス
 
AIFSのHRECは、この研究の一次倫理審査を行いました。研究チームは、2016年7月に倫理クリアランス(許可)を申請し、その際、プロジェクトの方法論、募集資料(参加への招待状、平易な言葉による情報シート、同意書、ソーシャルメディア資料など)、面接スケジュール、募集および倫理プロトコルをAIFSのHRECに提供しました。2016年9月に、AIFSのHRECから倫理的クリアランスを取得しました。
 その後、研究チームは、研究を支援するための募集活動を支援するために、他の家族法制度サービスと連携しました。国立保健医療研究評議会の「ヒト研究における倫理に関する国家声明」(2007年)は、複数の機関が関与する場合に倫理審査の重複を避けることを求めていますが(5.3章参照)、研究チームは、他のHRECによる倫理審査のために、これらの組織が研究を支援するための募集活動に関与できるよう、更に5つの申請書を提出する必要がありました。申請先は、オーストラリア家庭裁判所、オーストラリア連邦巡回裁判所、人間関係オーストラリア(ニューサウスウェールズおよびクイーンズランド研究諮問グループ)およびユナイティングケア(クイーンズランド)の倫理委員会や研究諮問グループでした。2016年9月~12月の期間に、5つの外部委員会全てから研究に対するクリアランスが得られました。調査研究の過程では、委員会に情報を上げ続けるため、参加者や一般市民から寄せられた本研究に関する苦情への助言を求めるのは当然ながら、プロジェクトの方法論および/または資料、募集活動、プロトコルまたは人員配置に関する実質的な変更許可を求めるために、最新情報を、追加された5つのHRECに個別に提供するのは勿論、AIFSのHRECに定期的に提供しました。

 倫理的クリアランスのプロセスによる影響
 
6つの委員会から倫理的クリアランスを得るための長期的かつ複雑なプロセスは、家族法の文脈における子どもや若者を含む研究の実施に対する慎重なアプローチを反映したものです。多くの追加措置や保護措置を、参加者に危害や苦痛を与える可能性に対処するために、審査プロトコルに盛り込みました(倫理的クリアランスの条件でした)。このため、募集には多くの課題が生じました。
 これらの対策と関連する課題は以下の通りです。
 ・別離に関わる全問題が「完全に解決」され、どちらの親も訴訟を起こす可能性がないことが要求されました。交渉や更なる訴訟が今後発生するかどうかを確約することは不可能なため、この要件により、参加希望者は訴訟を進めることができない状況に陥りました。
 ・10歳および11歳の参加者については、全問題が解決した日から12ヶ月の待機期間が、倫理的クリアランスのプロセスから生じた追加要件であり、より幼い子どもへの危害のリスクを軽減する方法でした。このため、「対象家族」の募集はより複雑で長期化し、この期間中、家族の研究への関心とコミットメントを維持することは特に困難であることが判明しました。このような状況で、研究チームは最終的に、12歳未満の子どもを10人募集して面接を実施することしかできませんでした。
 ・参加候補者の年齢層は、この研究を実施する上での課題でした。年齢が理由で除外した18人の登録者のうち、6人は単に範囲外(8~11歳)であり、その他は年齢情報が入力されていませんでした。加えて、少なくとも1人の子どもが参加した家庭には、ちょうど対象外だった子ども(7~9歳、18~20歳)も23人含まれていました。このことから、対象年齢を広げていれば、更に最大で41人の面接対象者が参加資格を入手できた可能性があります。
 募集は主に家族法サービスを通じて行われ、現在別離を決着させるためにサービスを受けている親を対象としました。このことは、まず問題が決着するのを待ち、3~12ヶ月の待機期間を経てから参加することを意味していました。この要件のため、研究に関心を示し登録した家族の多くは、フィールドワークが終了する前に参加資格を失ったり、参加資格を得るまでに参加することに関心を失ったり、または待機期間の満了時点で調査チームのコンタクトが取れなくなっていました。
 また、年齢や訴訟の段階で選別されたことから参加候補者が受けた苦痛も注目に値しました。選考から漏れた参加候補者の多くは、私たちからのメールに返事をしませんでしたが、返事をくれた親や若者の中には、年齢や訴訟段階によって選考から外されたことに不満を表明している人が何人もいました。年齢で選考から漏れた参加候補者に関して言えば、このような参加候補者のコメントには、年齢や未熟と認識されたことで「沈黙」させられたことへの失望と継続的な懸念が表れていました。年齢が高すぎると見做されて選考から漏れた参加候補者は、自分の体験談がこの研究にとって「まだ関連性があり啓発的」であると感じており、困惑を表明しました。更に、訴訟段階の理由で選考から除外された参加者は、研究への参加が交渉に影響を与えないこと、あるいは、家族法制度サービスと継続的に接触してはいるものの、彼らの観点からは、子育ての取決めに変更が生じる可能性は殆どないような状況であることを示唆しました。
 また、倫理的クリアランスのプロセスが長引いたことで、募集活動の開始予定時期が遅れ、募集のタイミングにも影響を及ぼしました。プロジェクトチームが募集を開始できたのは2016年末の夏休み期間前で、この時期は特に募集施策への協力や参加希望者の関心を確保することが難しい時期でした。厳しい募集施策と本格的な募集活動の開始遅れに対応するため、必要な参加者サンプルを確保するべく、2度にわたってフィールドワーク期間を延長する必要がありました。
 上記で詳述した通り、厳格な募集要項と倫理プロトコルが要求され、特に、この研究を進めるための倫理的クリアランスを得るために、厳格なスクリーニング・プロトコルを確立しました。これらの追加措置は、子どもや若者をリスクや危害から更に保護することを目的としていましたが、場合によっては、本来なら参加資格があったにも拘らず、研究への参加が不可能とされ、若者やその親に苦痛を与えることになりました。このような困難にも拘らず、研究チームは47家族の子どもや若者たちとの61件の面接を実現し、研究課題の堅実で厳密な探求を可能にしました。子どもや若者の豊かな洞察力と経験、彼らの成熟度とレジリエンス、そして自分たちの声を聞いてくれたことに対して彼らが示した感謝の気持ちが、今後、子どもや若者を対象とした更なる研究の進展を支援することを期待しています。

多くのことを吐き出したけど、吐き出しきったわけではないの。分かっているでしょうけど、躊躇することなく、今日、私は長い間吐き出したいと思っていたことをたくさん吐き出しました・・・人に話すことは細々としたことだけど、ほら、それをフーっと吐き出して、本当にただ燃やすようにするのは、助けになるでしょ?(ゾーイ、女性、12~14歳)

私は、この機会を得たことを嬉しく思っています・・・将来の、法律のようなものに役立つだろうから。(スカーレット、女性、15歳以上)

1.4  このレポートの構成

 この章では、「別離家庭の子どもや若者」プロジェクトで採用した研究目的と研究デザインを、関連文献の概要、FLAの規定、判例法とともに要約し、このレポートの各章がカバーしている分析の背景を提供しています。
 第2章では、まず、参加家族の人口統計学的プロフィールとその特徴(家族関係の性質や安全上の懸念の有無など)を概観しています。第2章の分析では、家族法制度における法的および非法的サービスへの家族の関与(親と子どもや若者の両方)と、これらの家族が行った別離後の子育ての取決めと経済的な取決めについて考察しています。第3章では、両親の別離に関する子どもや若者の視点や経験を、時間をかけた子育ての取決めに特に焦点をあてて探究します。第4章では、家族法制度サービス(法律と非法律サービスの両方)についての子どもや若者の経験を検証し、第5章では、研究に参加した子どもや若者が、両親の別離に対処する上で助けになると示した支援を探究しています。第6章では、この調査から得られた主要な知見の要約と結論について考察しています。このレポートでは、研究に参加した子どもや若者の生の声を伝えるために、そして、可能な限り彼らの視点を彼ら自身の言葉を使って表現し、それにより、この文脈で子どもや若者が抱く明確な見解や経験を深く理解することを確実にするために、より広範に直接引用を行うことに、著者らは留意しました。

[訳者註]フィールドワーク fieldwork
ある調査対象について学術研究をする際に、そのテーマに即した場所を実際に訪れ、その対象を直接観察し、関係者には聞き取り調査やアンケート調査を行い、そして現地での史料・資料の採取を行うなど、学術的に客観的な成果を挙げるための調査技法である。地学や地理学では巡検ともいう。

ウィキペディア

[訳者註]ユナイティングケア・クィーンズランド UnitingCare Queensland
 家庭外のケアサービスを受けているおよそ560人の子どもとその両親200人を対象とし、母親の孤独、精神疾患、家庭内暴力、薬物やアルコールの誤用、低い自尊心などをケアし、世代を超えた子どもへの虐待やネグレクトの循環を断ち切る支援を実施。

[訳者註]アクション・リサーチ action research
 集団力学の創始者レビンが提唱した研究法。第二次世界大戦中、少数民族集団や食習慣の改善などといった現実的な社会問題の研究に関与していたレビンは、現実の社会のなかに構成される小集団を対象として、その集団や成員の改善や向上の実践と、集団過程に関する基礎的な研究とが、研究者とその道の専門家や現場の関係者との協力によって、実践→研究→実践というように表裏一体をなして循環的に進められる必要性と有効性を強調し、これをアクション・リサーチとよんだ。実践的段階で生じた問題は、基礎的研究によってその機制や原理が解明され、基礎的研究による知識や技術は現実社会の場で実践的に試行され、さらにその結果の検討が基礎的研究に還流される。なお、これに現場の当事者の訓練過程も含めて、アクション・トレーニング・リサーチと称することもある。

[訳者註]構造化面接structured interviewと半構造化面接semi-structured interview
 構造化面接は、調査研究で一般的に採用されている定量的調査方法。このアプローチの目的は、各面接に全く同じ質問が同じ順序で表示されるようにすることである。これにより、回答を確実に集約し、サンプルサブグループ間または異なる調査期間間で比較を確実に行うことができる。半構造化面接は、事前に決めた質問を終えたら、自由に質問を行う。構造化面接のメリットを保ちつつ、柔軟に被面接者の一面を探ることができる。更に、非構造化面接という手法もあり、この手法では面接官の裁量に任せて自由に質問を投げかけるので、自由なやり取りが可能で、被面接者の人間性を引き出しやすいというメリットがある。

[訳者註]研究課題(リサーチクエスチョン) research question
 「研究プロジェクトが答えようとする問題」。リサーチクエスチョンの選択は、量的研究と質的研究の両方において不可欠な要素。調査にはデータの収集と分析が必要であり、その方法論は大きく異なる。優れたリサーチクエスチョンは、重要なトピックに関する知識を向上させようとするもので、通常は狭く具体的なものとなる。

ウィキペディア

[訳者註]グラウンデッド・セオリー・アプローチ Grounded Theory Approach ; GTA
 社会学者のバーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって提唱された、質的な社会調査の一つの手法で、アメリカの看護学において定着した。グラウンデッド・セオリーとも言われる。
 この手法の特徴は、患者へのインタビューや観察などを行い、得られた結果をまず文章化し、特徴的な単語などをコード化しデータを作ることである。その上で、コードを分類し分析することになる。
 標準的な手法としては、文章データを以下のように分類し、コードの数字をつける(あるいはラベル名をつける)。その上で、コードを分類することになる。
 ⑴分析したいものをよく読み十分に理解し、観察結果やインタビュー結果などを文字にして文章(テキスト、データ)を作る。
 ⑵データへの個人的な思い入れなどは排除し、できるだけ客観的に、文章を細かく分断する。
 ⑶分断した後の文章の、各部分のみを読み、内容を適切に表現する簡潔なラベル(あるいは数字、コード)をつける。このラベルは、抽象度が低い、なるべく具体的な概念名とする。
 ⑷次に、似たラベル同士はまとめ、上位概念となるカテゴリーを作り名前をつける。これらの作業を「オープン・コーディング」という。
 ⑸ある1つのカテゴリーと複数のサブカテゴリーを関連付け、現象を表現する。サブカテゴリーとは現象について、いつ、どこで、どんなふうに、なぜ等を説明するものである。これらの作業を「アクシャル・コーディング」という。
 ⑹アクシャル・コーディングでつくった現象を集め、カテゴリー同士を関係づける。これが、社会現象を説明する理論となる。この作業を「セレクティブ・コーディング」という。
 このような一連の作業により、社会現象の原因を説明可能な理論や、因果関係の解明を行うことができると考える。

ウィキペディア

[訳者註]ストックフォト stock photo
 写真やイラスト等の画像素材をあらかじめ用意して利用者に提供(使用許諾)するサービスの総称である。ストックフォトでは、雑誌、広告、Webサイトといったメディアのイメージ画像に適したさまざまな状況の写真画像が用意されている。利用者は、その中から好きな画像を取得する。基本的にはストックフォトのサービス提供者が画像の著作権や被写体からの使用許諾を保持しているため、ライセンス上の懸念が払拭されている。

[訳者註]オプトインopt-inとオプトアウトopt-out
 企業が個人に行う様々な活動や措置、行為などに対し、対象者から明確に許諾を得ない限り実施しない(あるいは、してはならない)とする原則のことを「オプトイン方式」という。一方、離脱や脱退、拒否、停止、中止などの意思を表明したり申し入れることを「オプトアウト」という。
 オプトイン方式では全ての活動は原則禁止で対象者が明示的に承諾したものだけが可能になるが、オプトアウト方式では全ての活動は原則自由で対象者が明示的に拒否したものだけが停止されるという違いがある。

[訳者註]1800番号
オーストラリアで「フリーコール」とも呼ばれており、日本で言うフリーダイヤル0120のようなサービス。 通常、固定回線からこのナンバーに電話をした場合、電話料金は無料となる。

[訳者註]スクリーナー screener,screening question
アンケートの冒頭にある質問で、その回答によって残りの回答者を決定するもの。質問も回答も簡単だが、データの質に大きな違いが生まれる。

[訳者註]人間研究倫理委員会 HREC, Human Research Ethics Committee
オーストラリアにおいて、ヒトが参加する研究計画が倫理基準およびガイドラインに適合していることを確認するために審査を行う組織。

[訳者註]国立保健医療研究評議会 NHMRC, National Health and Medical Research Council
オーストラリア政府の主要な法定機関であり、医学研究を担当している。2016年において、世界で8番目に大きな研究資金提供機関であり、当機関が資金提供する研究はその質の高さで世界的に認められている。2008年から2012年までのオーストラリアの全医学研究の約45%は、当機関を通じて連邦政府から資金提供を受けている。

(了)


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