見出し画像

仇統のアステリズム

 狂王を廃す、それ自体が狂った考えだと弟は笑った。良く笑ったその顔は、胴体と離れ血に塗れて床に転がっている。
 何故、何時バレた。この計画は弟──キタルファと副官にしか話していない。
「王女」
 死体の傍に跪いていた私はその声に反応し、剣を抜き打つ。
 キィン。
 星統の祝福を受けた硬銀製の剣が火花を散らし、窓から入る光源、二十八星の輝きを圧した。
 紫微宮の奥の院にある私の部屋まで来れるのは、王族を除けば女官と副官だけである。
「エダシク、貴様か」
 自然体で剣を握り、副官は呼吸一つ乱さす佇んでいた。
「今ならキタルファ様単独による謀略とできます。お考え直しをサダルスゥド様──何を」
 躊躇なく窓を目指す。ここは四階。だが虚宿の星祝掛けられし私の肉体は着地の衝撃を散らした。
 広大な庭園を、疾駆する。

 永い苦しみの時代だった。長引くハスタ国との戦乱は拡大し、更には様々な天災も襲った。
 それに対して王──父が取った方策は端的に述べれば狂っていた。
 星竜を、作る。
 神話の存在。星統院が認める王の上位者。神威の化身。
 王は各地に散らばる竜骸と呼ばれる秘宝の蒐集を開始した。酷く血生臭い方法で。
 村は焼かれ、民草が斃れた。

「殺せ」
 報告を受けた王は淡々と述べた。エダシクもやはり何の感情の動きも見せずに礼をすると、部屋を辞する。
「全ては星竜の御心のままに」
 呟く王の口に、明らかに鋭すぎる牙が覗いていた。

 王族のみが知る古い抜道を駆使し、私は紫微宮からの脱出に成功した。
 城下町は眠らない。王が狂い出した時と同じくしてからだ。常に祭りの様に夜市が立つのは。
「お嬢さん、品を見ておくれよ」
 裏路地を選んで歩いていたが、客引きに呼び止められた。無視して先を急ごうとしたが、私の目は男の腰にある二十八星の紋付剣と、傍の暗い目の少年に吸い寄せられた。
「サダルスゥド様、お一つどうです。うちが取り扱うのは復讐という名の商品のみです」
 男はニヤリと笑ってそう言った。

【続く】

PS5積み立て資金になります