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貘撃機の飛ぶ空

 今日も俺は出撃する。目標は敵国の安眠都市。全市民を夜間にガスで強制ノンレム睡眠させる、前線防衛都市だ。

 あんた、夢はあるかい? あるだろう?
 夢、それは前進する力だ。その力が実際にエネルギーになると分かってから、世界は変わった。夢を奪い合う戦争が何度も起こり、人心は荒廃した。

 飛行機の腹に、動物が入る檻を括り付けた俺の愛機。貘撃機だ。この檻を落として、敵から夢を奪う。
 しかも今回積む貘弾は新型らしい。ピィピィ鳴いている貘と目が合った。悲しそうな目をしていた。

 希望として抱く夢と生理作用としての入眠時に見る夢が実は無意識下では繋がっており、互換可能な物だと分かると、戦争は主に夜に行われる様になった。敵から夢を奪うのだ。夢を喰らう改造貘を投下して。

 安眠都市の上空3000ftで新型貘弾を切り離し離脱する──それだけだ。それだけの任務だったが、俺はしくじった。
 敵の不眠兵による反撃を受けてしまったのだ。
 コックピットに高射目覚まし時計が飛び込んできて、瞬時に眠気が飛んだ。夢を燃料に飛ぶ貘撃機のパイロットは常に夢見心地──つまり半覚醒状態で操縦する必要がある。
 動力切れ、墜落……。

 俺には夢が無い。だから貘撃機のパイロットに選ばれた。被貘しても危険がないからだ。しかし夢は見る。他愛もない夢は。
 俺はその夢すら奪われた。

「君があの貘撃機のパイロットだね」
 敵の技術魔女はにやにや笑いながらそう言うと、赤い薬を俺に注射した。拘束台に完全固定されている俺は声も出せない。
「これは不眠薬。君はもう眠る事は一生叶わない」
 技術魔女は笑いを深めて宣言する。
「君には我が国の新兵器に搭乗して貰う事になる」
 俺は必死に眠ろうと努力するが、俺の中から豊潤な微睡は完全に失せていた。
「爆撃機にね」

 俺が投下した新型貘弾による被貘者は総勢20万人にも及んだ。
 俺がこれから投下する新型爆弾は20万の民を焼くらしい。
 まるで悪夢だ。

【続く】


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