閃きは現場にあり!課題から考えるヘルスケアビジネス vol.3 <3/20フォーラム開催報告>
2021年3月18日(木)・19日(金)・20日(土)の3日間にわたり「にいがたヘルスケアベンチャーフォーラム 〜閃きは現場にあり!課題から考えるヘルスケアビジネス〜」がオンラインにて開催されました。
vol.2に続く本記事では、3月20日(土)に行われた講演や対談の様子を簡単にお伝えしていきます。(当日のアーカイブ動画はこちら)
ヘルスケアやICT、起業に興味のある方、そして何より新潟をよくしたいという熱い志を持った方は必見です!
ゲスト紹介
◇ 遠藤直人(えんどう・なおと)氏 / 燕労災病院 副院長
◇ 大久保 亮(おおくぼ・りょう)氏 / 株式会社 Rehab for JAPAN 代表取締役
講演 〜燕労災病院 副院長 遠藤直人氏 〜
遠藤氏には、「新潟県における高齢者の健康維持への課題と取り組み」というテーマでご講演いただきました。
<1. 新潟県の状況>
■ 人口推移と交通
新潟県の人口は220万人で、1/3は新潟市に住んでいます。人口は年に2万人減少しており、65歳以上の高齢者数は72万2千人。新潟県全体の高齢化率は32.8%で、最も高いのは阿賀町の49.7%、新潟市は29.7%です。
交通は、新幹線が2つ(上越新幹線と北陸新幹線)で駅は7つあります。高速道路は隣接との往来に便利です。こうみると、交通は整備されており、面積はひろく、平野、山、海、川があり、自然も豊かで暮らしやすそうと思えるかもしれません。しかし、実態としては、県内での地域差は大きいと言われています。
■ 医療周辺領域
1)公共交通機関での移動が不便で、通院には自家用車(+運転手)が必要な地域が多く存在します。県内は、都市部の大病院まで行ける人あるいは交通手段がなく近隣医療施設まで行くことがやっとの人など様々な状況です。
2)冬期の雪や寒さにより外出や運動が困難となり、高齢者では活動性の低下が危惧されています。
3)家族構成として、高齢者だけの2人暮らし(子は離れて暮らす)や息子との2人暮らし(日中は高齢者一人で留守番をする)のご家庭が多い状況です。さらには隣近所も高齢者世帯である場合が多く、退院後の自宅の受け入れ(介護力など)が厳しい現状です。
■ 県央地域の医療実状(三条市、燕市、加茂市、田上町、弥彦村)
2020年の総人口は21.7万人でしたが、2045年には15.5万人まで減少すると予想されています。一方で、75歳以上の高齢者人口は3.6万人から3.8万人へと増えていくことが予想されています。
医療を提供する側としては、病院勤務医師は減少し高齢化が進んでいます。H25年〜H31年で10%減少し、研修医は0人です。病院が救急車の対応をしきれず、25%を隣接地域に搬送している現状です。そのため、県央基幹病院は現在、再編が進んでいます。再編を進める中で、今後必要になるのは建物の建設だけではなく、システム、ツール、人材といえます。
<2. 高齢者の健康課題> 〜整形外科領域を中心に〜
高齢者では骨粗鬆症による脆弱性骨折が起こりやすくなります。日常生活動作程度のごくわずかな外傷(外力)で発生する骨折で、脊椎椎体(圧迫)骨折が最多で、次に大腿骨近位部骨折が多いと言われています。高度の骨脆弱では、骨盤(仙骨、恥骨、坐骨)や肋骨や下腿骨の骨折も見られます。
新潟県における大腿骨近位部骨折の発生数は、年間3200件程度です。発生率として、脊椎圧迫骨折と大腿骨近位部骨折には関係(骨折連鎖)があるといわれています。大腿骨骨折の平均は81歳ですが、そのうち80%の人が過去に脊椎圧迫骨折(平均77歳)の既往があるというデータが出ています。すなわち、脊椎圧迫骨折をした人はその次に大腿骨を骨折する可能性が高いということになります。
■ 脆弱性骨折にかかるコスト
脆弱性骨折は介護の要因になります。要介護の12〜13%は脆弱性骨折によるものといわれており、生命予後も不良です。大腿骨近位部骨折の患者一人当たりの直接医療費は173万〜260万円、公的介護費用は月に11万といわれています。新潟県では年間3200件骨折が起きているため、単純計算で、直接医療費は55億〜83億円かかることになります。多額の直接医療費に加え介護・ケア費用がかかると、介護する家族、自治体・国レベルで膨大なお金が必要となります。
<3. 取り組みと必要なこと>
「初発の骨折を防ぐための評価と対策」および「骨折後の二次骨折予防」が必要となります。そのためには、以下のシステム・ツール・人材が必要と考えます。
・システム:高齢者個人の日々の生活から行動、運動、疾患名、薬剤、通院状況まで一括把握できるもの
・ツール:ウエラブルツール、手帳、直接訪問、定期的なコールやメール、リモート運動教室、リハビリ教室
・人材:高齢者の心身に対応し、病気だけではなく生活まで配慮できる多職種で連携・協働できるもの
講演 〜株式会社 Rehab for JAPAN 代表取締役 大久保 亮氏〜
大久保氏には、「エビデンスに基づく科学的介護の実現を目指す」というテーマご講演いただきました。
<株式会社Rehab for JAPAN>
vision:介護に関わる全ての人に夢と感動を
mission:介護を変え、老後を変え、世界を変える
<エビデンスに基づいた科学的介護の実現>
私は、介護現場のリアルデータを集め、高齢者が元気になることを科学したいと考えています。昭和から平成にかけて形作られた日本の介護の仕組みは、高齢化が急加速する中で、「社会」を維持するための基盤的側面から「財政」を維持するための工夫的側面が強調されるアウトカム時代へと変化してきています。業界最大手企業は、海外投資ファンドから大型の資金調達を行い、2024年介護報酬改定の柱である自立支援・重度化防止に向けて「科学的介護」や「アウトカム」のための体制を構築し始めています。
<介護現場におけるICT利活用の可能性>
自立支援、重度化防止、科学的介護などの方向性に対してICTやテクノロジーを加えることで、介護専門職が持っている経験値にエビデンスを宿すことができると考えます。また、サービスの質や社会からの評価を一段と高めることもできると考えます。
<デイサービスのリハビリ支援SaaS「リハプラン」>
Rehab for Japanが開発した「リハプラン」は、機能訓練事業を誰でも簡単・安心・効果的に行える「デイサービス向けクラウド機能訓練ソフト」です。最新の高齢者データベースをもとに2500種類、500セットの目標・運動プログラムから最適な計画・訓練を自動で提案することができます。リハビリ業務に必要な全ての機能があり、職員の書類業務負担を軽減し、介護事業書の差別化や売り上げアップを支援します。
デイサービスは、寝たきりになっていない要介護者が、自宅から日帰りで通う介護施設で、介護度の重度化防止や自立支援を目的としています。全国に44,000 施設あり、利用者の数は年々増加し2025年には280万人が利用する成長市場といわれています。
<デイサービスの課題とリハビリソリューション>
リハビリ専門職がいるデイサービスは全体のわずか10%程度とリハビリ専門職が少なく、介護度の重度化防止につながる「効果的なリハビリ」を提供できていないのが現状です。そのため、「リハプラン」ではリハビリ専門職の脳内で行われていたリハビリの立案工程を、必要項目をチェックするだけでリハビリメニューを自動提案する技術を開発しました。これにより誰でも簡単に効果的なリハビリを提供することが可能となりました。
対談
対談は3つのテーマで進められていきました。
① 地域における高齢者の健康維持・フレイル予防の課題
▼遠藤氏
課題は2つあると考えます。1つは、自宅へ帰る際の介護力がないこと。入院治療を行いギリギリ動ける状態になったとしても、受け入れる介護力が家庭にも地域にもないということです。2つ目は、フレイル健診や健康教室などは少しずつ広まっているけれども、そのような場に来ない人をどうするかという問題です。健診や体操教室に来る人は、そもそも意識が高い人が多いんです。
②健康維持・フレイル予防等の取り組み
▼ 大久保氏:
私が力を入れていることは2つあります。1つ目は、リハプランを利用する方への提供価値です。デイサービスなどでリハビリをやっている施設は半数以上ありますが、リハビリ専門職がいるところは本当に少ない現状です。高齢者にあった機能訓練を提供することが必要だと考え、現在の取り組みを始めました。
2つ目は、ハイリスクの方へのアプローチです。コロナ禍でリハブコールというサービスを始めました。これは、デイサービスの職員と利用者をオンラインでつなぎ体操ができるものです。人と人との繋がりは大事です。ソーシャルネットワークで繋がりをより強くし、モチベーションを維持するためのサポートをしていくことが重要だと考えます。
また、現場スタッフの負担軽減が必要です。現場では、利用者としっかりコミュニケーションをとることが必要ですが、その分雑務をこなす時間は減っていきます。現場以外でこなす業務量が多く残業も長くなる一方なので、ツールを取り入れ効率化し、労働環境を良くする必要があります。
▼ 遠藤氏:
高齢者の2人暮らしや同居家族がいても十分に援助してもらえない人も多いため、自宅での機能訓練の継続は本当に難しいです。退院するたびに声かけはしていますが、モチベーションの維持は大変ですね。そのため、環境整備は重要で、ケアマネジャーと相談し、しっかり調整するように話しています。骨折の一次予防や環境整備は、まちづくりや地域づくりから行うことが必要になると考えます。街全体で、住みやすくしていく事が必要です。
③課題解決のための人材育成に関する考え
▼ 大久保氏:
短期的視点としては、生活環境がちゃんと見れる、ヘルスケア・医療という枠組みだけではなく環境を考えられる人材が必要だと思います。長期的視点としては、I T武装された人材育成はとても大事だと考えます。オンラインは今後どんどんオフラインの中に入ってきます。提供されているサービスを可視化できるようになると標準化がどんどん進むと思うので、それらを扱える人材は本当に大事です。
▼ 遠藤氏:
高齢者は病気を持ったまま生活するので、その視点を持った人材は大事になります。身体だけではなく精神的な部分にも寄り添える事が必要です。また、多様な職種の方々と協同できる事が大事です。医療に限らず異分野、特に工業や商業などとの連携は必要になると考えます。
続くVol.4では、3月21日(土)に行われた講演とケースディスカッションの様子をお届けします!
参加者の声
(当日参加者:67名)
▼ 参加者の声
・ICTは現行業務の置き換えではなく、補完であること。リハビリなど、以下に実効性を上げるかが重要。
・超高齢化をチャンスと捉え、医療現場の革新に地域が一体となり取り組んでいることが必要。
* 全体的な満足度や参加者属性等のアンケート結果は、vol.4にてご紹介致します。
最後に
にいがたヘルスケアアカデミーは2021年4月15日に開講します!アカデミーの様子は、noteやTwitterにて発信していきます。
受講生:新潟のヘルスケアをより良くしたい!と考えている県内外の全ての皆様
主催:ヘルスケアICT立県実現プロジェクト
運営:株式会社BSNアイネット・ハイズ株式会社
後援:新潟県
Twitter:アカデミーの活動や関連情報、新潟のヘルスケア情報や潜在的な課題などを発信しています。
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