番外:あー、学校ってそういう状況だったのか!「個人情報保護審議会編」

個人情報保護審議会を傍聴しました。

先日発信した世田谷区の学校ICT化の状況をお伝えするレポートで、「オフィシャルに双方向のオンライン朝の会や授業ができないのは、Zoomなどの外部ネットツールを使うには個人情報保護条例の審議会に諮問する必要があるから」という話題をお伝えしました。

6/30にその審議会を傍聴してきましたので、番外編としてその内容と所感をお伝えします。

個人情報保護審議会?

世田谷区のホームページには下記のように記載されています。

個人情報保護制度や情報公開制度全般の運営について審議する区長の附属機関として、世田谷区情報公開・個人情報保護審議会を設けています。この審議会は、学識経験者及び区民の14名で構成されています。そして、個人情報保護制度や情報公開制度の円滑な運営に関する重要事項について審議をします。

ICTの専門家のいない審議会でした。

学校で使うインターネットツールのことを諮る会議なので、ICTの専門家が選ばれているのかと思ったら、そうではありませんでした。公募に選ばれた区民の委員などは、専門性ではなく市民参加として理解できますが、学識経験者や法律家もどうやら専門がICTということではないようです。はて。

回線結合?

今回、学校のICT化に関する審議項目のタイトルは「区立小学校業務」及び「区立中学校業務」における外部の電子計算機との回線結合について(クラウド上のアプリケーションの活用及び電子メールの利用)というものでした。

け、結合?

世田谷区の個人情報保護条例によれば、、、

(電子計算機の結合の禁止)
第18条 実施機関は、個人情報等を処理するため、その電子計算機と区の機関以外のものの電子計算機との通信回線等による結合(以下「回線結合」という。)を行ってはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
(1) 個人情報等を処理するため回線結合をすることについて法令に定めがあるとき。
(2) 公にされる個人情報を処理するため回線結合をするとき。
(3) 当該回線結合が住民福祉の向上に資するため必要かつ適切と認められ、及び個人情報等についての必要な保護措置が講じられている場合で、実施機関が審議会の意見を聴いて特に必要があると認めたとき。

パソコン(電子計算機と言ってます)をインターネットをつなぐことを結合、と言うのですね。そして、太字のところがこの審議会に諮問された理由です。「意見を聴いて、特に必要がある」と審議会に認めてもらうことが必要なこと、だそうです。

なぜ審議会に諮問するのか、釈然としません。

この条文をよく読むと「個人情報等を処理するため」の回線結合と書いてあります。いま公教育の現場で活用しようとしているツールは「個人情報等を処理するため」のツールではありません。なのに、なぜこの審議会に諮問しているの?

私の拙い理解では、たとえばZoomによるオンラインミーティングを行う際に、実施機関(この場合は各学校)は、個人情報をどうあれ「処理」していません。クラス担任の先生は、学校で取得したID(いま現在はたぶん学校単位でしかメアドがないのでこれも個人情報でない)でサービスにログインして、時間など必要項目を選択すると、特定のZoomオンラインミーティングにアクセスできるURLが発行されます。ここまで、児童の個人情報にはタッチしていません。

なんでもかんでも結合、ときたら諮問しなければいけないということでしょうか?条例の誤認、誤用なのでは?と釈然としません。

そして、ZoomオンラインミーティングのURLを届けるため、eメールを用いようとするなら、そこで初めてメールアドレスが登場し、そこではじめて個人情報が登場するわけです。

しかし、これが「処理」に該当しているのか?という点も不明瞭です。データベースに個人情報を登録する、などが処理だとすれば、それ自体は諮問される必要があるのかもしれませんが、この場合はやはり諮問の必要性がないと思うのです。つまり、必要なことは個人情報の項目追加なのでは、と思います。個人情報としてメアドを学校はもっていない、ならば今回項目追加しましょう!ならば理解できます。

で、もうひとつ釈然としないことがあります。仮にZoom社を委託先とした場合。

(委託に係る措置)
第12条 実施機関は、個人情報等を取り扱う業務の処理を区の機関以外のものに委託する(地方自治法(昭和22年法律第67号)第244条の2第3項に規定する指定管理者に公の施設の管理を行わせる場合を含む。以下同じ。)ときは、あらかじめ審議会の意見を聴くとともに、個人情報等を保護するため、次に掲げる措置その他の必要な措置を講じなければならない。
(1) 委託する相手方の選定に当たっては、そのものが個人情報等の適正な管理及び安全保護を図ることができるものであることを確認すること。
(2) 委託契約等において、個人情報等の秘密保持に関することその他の規則で定める必要な条件を付すこと。

これに関しても、個人情報等を取り扱う業務の処理、における委託と書いてあります。Zoom社は、利用者がユーザー登録している場合、個人情報を管理している、という範疇になりますが、URLにアクセスするのに、ユーザー登録は不要です。ちなみに私(吉澤)は有料ユーザーなので、そこはダメだよということはあるかもしれませんが、ZoomはログアウトしてもURLをクリックすれば必要なセッションに入れるのです。ということで、この条文あたりを根拠にして諮問しているとしたら、これまた釈然としません。

そもそもメールアドレスは学校がもっているべき。

電子計算機上かどうかにかかわらず、学校は児童や保護者の個人情報を保持しています。学校は、生年月日から親の携帯番号、緊急時の引き取りに際しては合計4人の氏名を取得しているところまで、間違いなく個人情報管理者です。そこまでもっているのにメアドだけ持っていないことのほうがずっとおかしいと思います。

欠席連絡がメールでできるようになるらしい、けど。

今回諮問された内容がもう1つありました。「外部の電子計算機との回線結合について(電子メールの利用)」というものです。

従来、世田谷では欠席時に近隣のお子さんに連絡帳を託すスタイルが主流だったのが、コロナで接触を避けるために電話連絡を可能としたものの、電話受けが先生たちの負担になる?(だし、2回線しかないし)ということで、保護者からメールでの欠席連絡を受けられるようにするための手続きなんだそうです。

学校のアドレスにこちらがあらかじめ伝えたメアドから、〇年〇組〇〇、本日欠席します、という情報が来る、という流れと思われます。どうやら、近々学校は保護者のメアドを取得してくれるようです。そこはいい話。しかし、会議中のやり取りでは、「学校は返信を行わない」そうです。たぶん返信メールでまた個人情報を取り扱うのを避けたい、ということのようですが、個人情報保護?がコミュニケーションの成立より優先されてしまっているようです。おかしい。

条例を変えよ、という総務省の通知も出ている!

この「オンライン結合」については、なんと平成29年5月に総務省から各自治体へ通知が出ていました。

5 オンライン結合制限
個人情報保護条例におけるオンライン結合(通信回線を通じた電子計算機の結合をいう。)による個人情報の提供について、多くの地方公共団体では制限されているが、個人情報保護審議会等の意見を聴いた上で、公益上の必要があると認める場合などには、個人情報保護条例に基づきオンライン結合が認められている。一方、行政機関個人情報保護法では、オンライン結合を禁止しておらず、地方公共団体においても、ITの活用により行政サービスの向上や行政運営の効率化が図られていることから、オンライン結合制限については、行政機関個人情報保護法の趣旨を踏まえながら、その見直しを行うなど、各地方公共団体において適切に判断する必要がある。

まだるっこしい表現ですが、要は政府機関ではオンラインの新しいサービスを使うときにいちいち諮問など必要としない仕組みなので、各自治体でもそれに倣って条例を見直しましょう!という呼びかけです。

結論:「オンライン結合」を諮問する条例自体を速やかに見直しする!

そして、、、この総務省の通知に沿って、各自治体がどの程度対応したのかを確認したら、なんと1700あまりある自治体で、この通知を受けて検討、条例改正をした事例は「不明」でしたwww(総務省にも問合せました)

3か年の資料をチェックしたら、なんと通知のあと、むしろオンライン結合を強化したという回答数が増えてる!!!馬鹿な。。。

総務省の担当者いわく「自治体の回答者が変わると、条例の内容の理解度が変わるのでそこで回答がぶれるのでは」との趣旨でした。うむ、なるほど!ってダメだろそれは。

最後にこの稿のポイントを3点まとめます。

・いまの条文に沿っても、諮問する必要があるのか不明。

・そもそも、国はその条文変えようよって言ってるのに放置されている。

・じゃあ、個人情報保護条例を見直していきましょう!

世田谷区教育委員会が自ら「諮問しなくていい」と判断を変えることを要求したくなりますが、おそらく慣例踏襲の面から難しいのだろうと思います。なので、我々としては、今後個人情報保護条例についてもしっかりアプローチしなくちゃならない、ということのようです。

★この稿は、フェイスブックのさまざまなやりとりで教えていただいたことを主に構成しています。解釈の誤りなどありましたらぜひご指摘ください。今後の活動に活かしていきたいと思います。



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