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『アホによく効く博覧読本 大阪パノラミン』(朝日ワンテーママガジン)

 ユニークな大阪案内、というか、大阪ペディアとでもいうべき本。「観光」「都市計画」「交通」「事件」など、25の項目に分けて、大阪を多角的に取り上げているのですが、「名物」という項目に、大阪市立中央図書館が取り上げられてます。たしかに名物かも。
 とはいえ、この本が刊行された1994年当時、大阪市立中央図書館はまだ建設中でした。

 大阪市立中央図書館は、現在さまよえる図書館として、旧電気科学館を仮の宿にしている。さまよっているのは図書館が建て替え中だからで、ちょうど近所に、同じく閉鎖された市の建物があったのでちょっと間借りしているといったところである。

『大阪パノラミン』 朝日新聞社 1994年9月刊 53p

 しかしここでの話題の中心は、挿絵にもありますが、当時「仮の宿」に間借りしていた図書館というよりも、「ダンボールさん」のこと。

 ダンボールさんとはホームレスで、ダンボールを集めてお金に換えるのを業わいにしている人達である。
 (中略)
 たいていのダンボールさんは、図書館の本より、拾ってきたような週刊誌や新聞を読んでいることが多く、ほとんどが疲れからか居眠りをしている。それでも熱心に本を読む人もいて、先日も「社会問題」の棚の下の方で、ぶ厚い本を座り読みしている人がいた。

『 同 』

 『毎日あほうだんす』の西川紀光さんを思い起こさずにはいられませんね。
 本書は、こうした「家のないダンボールさん」をはじめとして、

 退職後の、老人と呼ぶにはまだ早い男達、就業時間をさぼり漫画を読むOL、喫煙所もなく、入口でしゃがみ込んでパイプをくゆらす初老の紳士、本棚の陰で抱き合う学生カップル ・・・

 『 同 』

 などなど、こうした人々を「さまよえる人々」と呼び、「さまよえる人々は、もしかすると失ってしまった夢や希望を見つけにここに通っているのかもしれない。」と、想像力豊かに結んでいるのですが、どうやら「さまよえる図書館」から「さまよえる人々」へと、図書館とその周辺をパラレルに描きだしているようです。

 ところで大阪の図書館といえば、市立もさることながら、府立もまさに「名物」。『大阪パノラミン』の「建築」の項目には、中之島中央公会堂の記事があり、府立図書館についても併せてふれられています。
 読んだところ、どうやら本書の執筆に際しても、府立図書館が活用されたのかもしれません。

 まずは大阪府立図書館に寄って下調べをする。国の重要文化財に指定されたこの図書館も、隣の公会堂とともに大阪の誇りだ。郷土資料室で資料を読んでいると、中之島に関する本を積み上げた女子学生たちの会話が耳に入る。「中央公会堂は、大正時代に岩本栄之助って人が百万円寄付してできたんやって」「その人、どっかの社長さんやったん?」

『 同 』 91p

 「さまよえる人々」にもロマンがありますけど、この女子学生たちは、ゼミで建築を学んでいた学生だったようです。築70年、老朽化の進んでいた公会堂は、保存と再生で論議をよんだそうですが、学生たちがこうして中之島の本を紐解いていたのは、保存派と建て替え派に分かれて、ディベートをするための下準備だった模様。
 市立中央図書館が当時、建て替え中だった一方で、公会堂は本書の刊行数年後に、耐震補強して保存する工事が始まったようです。

 ちなみに建築のページは読み進むと、付録として大阪の建築物を題材にした古い絵葉書がいくつか掲載されています。撮影時期は記載されていませんが、そのなかに中之島公園の絵葉書も含まれており、川岸の向こうに建つ丸い屋根の中之島図書館も写っています。


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