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『山谷崖っぷち日記』 大山史朗/著

 横浜寿町の西川紀光さん、大阪のダンボールさんに続いて、東京の山谷の本も、おひとつ紹介します。  トム・ギルによれば、西川紀光さんは書かない人だった、とのことですが、山谷で建設作業員をされていた大山史朗さんは、優れた書き手で、半自叙伝的な本書で開高健賞を受賞しています。  豊かな人物描写に、山谷の空気感が伝わってくるような生々しさ。人類学者が観察することで客観的に記された文章とはまた異なって、生活者自身によるリアル山谷といえます。そして西川紀光さんのように読書家でもあったよう

    • 『アホによく効く博覧読本 大阪パノラミン』(朝日ワンテーママガジン)

       ユニークな大阪案内、というか、大阪ペディアとでもいうべき本。「観光」「都市計画」「交通」「事件」など、25の項目に分けて、大阪を多角的に取り上げているのですが、「名物」という項目に、大阪市立中央図書館が取り上げられてます。たしかに名物かも。  とはいえ、この本が刊行された1994年当時、大阪市立中央図書館はまだ建設中でした。  しかしここでの話題の中心は、挿絵にもありますが、当時「仮の宿」に間借りしていた図書館というよりも、「ダンボールさん」のこと。  『毎日あほうだん

      • 『毎日あほうだんす』 トム・ギル/著

         著者のトム・ギルは、明治学院大学の文化人類学者。日本のホームレスについて、いくつかの著作を発表しています。  この本で取り上げられている西川紀光氏は、そんな著者がインタビューしたひとりですが、たいへんな読書家だったようで、ギルによれば、「『読んだ本の数』では紀光に負けているだろう」とのこと。また蔵書家だったようで、紀光が泊っていたドヤの2畳半は「『現代思想』『世界』『理想』などのインテリ雑誌や古本屋で買った小説と学術書の山で畳が見えない」ほどだったとか。その一方で、図書館も

        • 映画『ラストナイト・イン・ソーホー』のなかの「Research」

          昨夜「ラストナイト・イン・ソーホー」を観た。レイトショーで観たのだけれど、上映終了時間から最終電車まで数分しかなかった。映画みたいに夜の街を駆けて、終電に飛び乗ったのは何年ぶりだったろうか。 この映画はロンドンのウエストエンドの一角にある、ソーホー地区を舞台にした物語だが、ざっというと、田舎から出てきてロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに入学した少女エロイーズが、寮生活になじめなくてアパートで一人暮らしを始めたところ、そのアパートはいわゆる事故物件で、幻影を見る能力を持

        『山谷崖っぷち日記』 大山史朗/著