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『山谷崖っぷち日記』 大山史朗/著

 横浜寿町の西川紀光さん、大阪のダンボールさんに続いて、東京の山谷の本も、おひとつ紹介します。
 トム・ギルによれば、西川紀光さんは書かない人だった、とのことですが、山谷で建設作業員をされていた大山史朗さんは、優れた書き手で、半自叙伝的な本書で開高健賞を受賞しています。
 豊かな人物描写に、山谷の空気感が伝わってくるような生々しさ。人類学者が観察することで客観的に記された文章とはまた異なって、生活者自身によるリアル山谷といえます。そして西川紀光さんのように読書家でもあったようですが、読書の傾向は異なるようです。

 ドヤでは十一時半頃に灯りが消えるのだが、それまで読みふけっていたミステリー小説をあきらめ切れず、窓を開け放ち、廊下の灯りで読み続けていたのだ。徹夜になってでも読み終えるつもりで読み続け、その時すでに午前一時頃になっていた。

『山谷崖っぷち日記』 大山史朗/著 TBSブリタニカ 2000年7月刊 22p

 こうして深夜まで読書にふけっていたので、隣のベッドの宿泊者とトラブルになったこともあったようです。しかし恐らくは、この豊かな読書経験が、本書の執筆に際しての貴重な栄養源となったのではないでしょうか。
 図書館にも足を運んでいたようで、こんなことも語っています。

 たかが衣食住の必要のために、どこかの飯場にもぐり込み、若い職人や経営者に追い廻されながら、飼い殺しのような生活を送る(中略)よりも、真のホームレスとして食べ物を漁るだけで、一日の大半を図書館で読書三昧で過ごせるのだとすれば、私にはこの方がはるかにマシな生活だと感じられる。

『 同 』 120p

 山谷地区には、公立図書館が三館ほどあるようです。大山さんもいずれかの図書館を使っていたのでしょう。
 
 ところで山谷地区の図書館活動については、沖縄国際大学の山口真也先生が、いくつかの調査研究を発表しています。本文もネットに公開されています。
 特に「東京・山谷地区における図書館活動―その歴史と課題―(2)」では、横浜市の寿地区、大阪市の釜ヶ崎地区の図書館活動についても触れています。それぞれ横浜市、大阪市の市立図書館との関わりや、トム・ギルの著作にも出てくる労働センターの図書室のことなども取り上げられています。


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