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救いの服

『拝啓』

昨年末から今年にかけて出会ってくださったブランドはじめアパレル界隈の皆様へ

今年は、いろんな思いを持って服作りをしているブランドをたくさん知りました。
服のバックグラウンドというか、物語を語るようなブランド。
それは生産背景であったり、アイデアが生まれるまでの構想であったり、ブランドの思想や哲学であったり。一つ一つのブランドに芽生えた思いについては後々語ることもあるかもしれませんが、いま、私はそうした小さくて強い強い意志を持ったブランドに心から感謝を伝えたいのです。

大学卒業後、なりたくもなかった刺繍屋になり、過渡期と言われたアパレル業界の片隅で、死んだように刺繍機と向き合っていた自分にとって、そのようなブランドがあるという事実が、どれほど救いになったか。

こんな、下請けで安い工賃であくせく働いている現場など誰も見向きもしない。
知らないブランドの知らないデザインを量産して出荷するだけの日々。
どこに並べられるのか、どこの誰が着るのかも知らない。
よってお客様に感謝されるという状況はまず発生しない。
下請けの工賃もなかなか上がらない。アパレルの波を受けて仕事の入りが悪い閑散期は自分の給料が入らない月もたまにあった。工場併設の家の維持費はバカにならない。収入は支払いに消えていく。
達成感なんか全くなく、ただ回しているだけで1年が終わった。
しかも儲からない。
こんなところ早くやめたい。本気で思っていた。
転職サイトにもいくつか登録をして、ここではないどこかへ早く、早く、と焦った。そんな中でも、仕事に追われていた。

自分が消費されて、消耗していった。ひたすら、悔しかった。虚しかった。

だから、生産現場の苦しさや問題を汲み取り、向き合い、
生産者と消費者、どちらも幸せになれるように。

とあるブランドの思いをネットで目にしたときには、涙が溢れ出た。
変わらない状況に嫌気がさし、虚無と化していたわたしの心に、熱いものがこみ上げたのがわかった。

見てくれる人がいた。わかってくれる人がいた。
ありがとう。見つけてくれて、気づいてくれてありがとう。

それは、うちの工房を取り上げたものではなかったが、アパレルの生産現場が抱えている問題というのは共通していることが多く、その主たる問題である安い工賃で叩かれて工場が潰れていく現状をきちんと理解してくれていること、そして、ブランドと生産現場双方が持続可能な関係性を構築しようと努力してくれていること、そういう意識を持つブランドが増えてきていることが、何よりの救いだった。
ああ、時代は変わってきたんだと、声をあげてもいいのだと知った。

逃げたい逃げたいと思っていた自分が恥ずかしくなった。
現状を理解した上で、なんとかしようと立ち上がり、古いアパレルの常識を変えようと闘っている人もいるのに、自分はなにを甘えてたんだろう。
風向きを変えようともしないで、可能性を探そうともしないで、一体なにをやってたんだろうと。

わたしは、この世界で、刺繍屋の3代目として、前に進む力を得ました。
全ては、真っ暗だと思い込んでいたこの業界に光を灯し続けてくれているブランドはじめアパレル業界の皆様のおかげです。本当になんとお礼を言ったらいいのかわかりません。

わたしはこれからも、そのようなブランドを全力で応援していくつもりですし、渾身の刺繍技術で恩返ししていく所存です。生産者と消費者の間を緩やかにつなぎ、血の通ったブランドが少しでも増えるよう、アパレル生産現場の人間として声をあげていこうと思っています。

今企んでいるブランドも、アパレル刺繍工房の可能性を提示するべく進めています。下請けだけではない、これからのアパレル生産現場のあり方の一つとして、世に出る瞬間を見守っていただけたらと思っています。

生み出したいのは『救いの服』。乞うご期待ください。


ユタカ工房 加藤千尋



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岐阜にある刺繍工房の3代目。 刺繍屋の観点からアパレルのことやブランド運営について考えています。 好きな女性像は『紅の豚』のジーナと椎名林檎。
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