え てして

自信がないんだ、

暗い顔をした男が小さく呟いた。

自信がないんだよ、全てにおいて。
見てくれがいいわけでも、頭がいいわけでも、ましてや要領がいいわけでもない。なんの取り柄もないんだ。僕は何も持っていない。

一息に吐き出して口をつぐむ。少し目線を下げた男の表情を、伸びっぱなしの前髪が隠した。

そりゃ努力もしたさ。
暗くなるまで公園で逆上がりの練習したことだって徹夜で勉強したことだってあるよ。でも授業の逆上がりテストは失敗したし、テストは平均ちょい上が限界。就職はできたけど、周りの友達がどんどん出世していくのに僕は未だしがない平社員。

情けないじゃないか、と言って少し上げた顔は、今にも泣き出しそうだった。

僕が僕じゃなかったら、きっと逆上がりもできたし、理科のテストも満点取ってた。今頃は課長の肩書きくらいなら持ってたはずなのにさ。努力が足りてないのかな。僕だからだめなんじゃないだろうか。ねえ、どうして僕は僕なんだろう。どうして、


なあ、あんた が あんた だったからできたこと、あんた が あんた じゃなきゃできなかったこと、たぶん、すげえいっぱいあるよ。ただ、あんたが別のところを見てるだけ。

これまで何人かの友人に伝えた言葉が喉元まで出かかったのを、無理やり飲み込んだ。これは、きっとこいつに届かない。そして俺はこいつに対して、なぜかその言葉を使うことができない。

大きなため息をひとつ吐き、俺は広げた右手で、目の前の鏡に映った顔を隠した。