ケーショガール 第6話 ①/2
ロープレのススメ
「古寺ちゃんはメイク薄めでも大丈夫だから良いよねー」
そう言いながら池内はロッカーの扉の内側についている小さな鏡で化粧をしている。
「大丈夫って言うか、化粧あんまり上手くないんで薄いかめっちゃ濃くなっちゃうかの2択しかないんですよ。ふみさんみたく化粧上手くなりたいですよ」
「何よそれ嫌味?ナチュラルメイクでそんなまつ毛バサバサしてる人に言われたくないわよ」
「いやいや、嫌味じゃないですよ。ホントにふみさんみたいに大人っぽい化粧出来るようになりたいんですから」
誤解させたと焦った私は無意識に池内に顔を近づけていた。
「近いって近いって。冗談よ。そんなマジにならないで良いから」
「私は本気で言ってますからね」
「わかったってば。ほら古寺ちゃんがそんなに近づくとまつ毛が私に刺さるから離れて」
「もー本当に分かってるんですかぁ?」
「おはよー」
池内との一悶着が終わり制服に着替えていると吉田が更衣室に入って来た。
「おはようございます」
「おっ古寺ちゃんおはよう。一昨日の新人研修はどうだった?」
「はい。とても為になりました」
「あっ古寺ちゃんも新人研修行ってきたんだ。細川さん怖かったでしょー」
「確かに最初は怖かったですね」
「で、テスト何点だった?」
吉田の質問に池内も反応する。
「テスト、あっ確認テストなら百点でした」
「本当?でかしたわ古寺ちゃん」
「えぇ、あのテスト百点取れる人いるんだ」
私の肩に手をやり喜ぶ吉田。
驚いて手に持っていたマスカラを床に落とすフミ。
2人はそれぞれ異なる反応を見せた。
確かに一昨日の研修では満点は私だけだったが吉田がなぜそこまで喜ぶのか分からずにいた。
「これで新宿店だけで6人目の満点だわ。東京のエリアでトップ。今度の教育担当会議が楽しみだわー」
吉田は鼻歌を歌いながら着替えだす。
「池内さん。吉田さんなんであんな喜んでるんですか?」
「ん?吉ピー毎月本社でやってる教育担当の会議に出てるんだけど多分そこで自慢出来るからじゃない?」
「そうなのよ。自慢できるのよ」
吉田は話したい様子でなかなか着替えられずにいる。
「これは教育担当の育て方が良いって褒められちゃうなぁ」
「そうなんですね。そういう事なら満点取れて良かったです。うちの店って他に誰が満点取ったんですか?」
「えっとねえ、清野ちゃんでしょ、花でしょ。あとは星野君と加住さんと…」
吉田は人差し指をゆっくりと向けながら池内を覗き込む。
「はいはいどうせ私は95点でしたよ」
その言葉を聞いた私は池内は浅見と同じパターンで一問ミスったのだろうと思った。
「私っ!」
と吉田は自分を指さした。
「わぁ吉田さん流石ですね」
「もー古寺ちゃん吉ピーは誰かが新人研修行く度にテストで満点取った事自慢してるんだからそれ以上おだてないでよー」
「ふみも惜しかったんだけどねー」
「もうっ私は良いですから。それより三吉見てくださいよ」
いつもなら会話に入ってくるはずの三吉が会話に入らず黙々と着替えていたが、ゆっくりとこちらを向きボソリと呟いた。
「あの。50点の人の前でその話題やめてもらっていいっスか」
池内と吉田が事務所まで聞こえる程の声を出した。
私もそれにつられて笑いそうになったが、急いで服をたくし上げて顔を隠したのだった。
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