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ケーショガール 第12話 ①/2

観察眼のススメ ①/2

晴れて独り立ちしてから何日か経ったある日の朝礼後、これから1日の営業が始まろうとしていた時の事だった。

「じゃあ今日は1日星野君の後ろについてもらえるかしら」


高橋の口から思いがけない指示が飛び出した。

独り立ちしてからは誰かの後ろについて受付を見せてもらう事なんて無いと思っていた事もあるが、受付が1人で出来るようになった今、何を見るのかがわからずにいた。

そんな私の心情を察したように高橋は顔を覗き込んできた。

「後ろで星野君の話してる内容をしっかり聞きなさい」

「話してる内容ですか?」

「そう。でも受付の注意事項とかの事じゃないわ、お客様との何気ない会話や気配りの言葉、サービスを提案する時にどんなトークをしているかを聞いてほしいの」

「はぁ、トークですか」

「ちなみにあなたはもううちの店の大事な1稼働に数えられているからこんなチャンスは今日しかないからね。無駄にしないように耳の奥の鼓膜にしっかり刻み込んできなさい」

高橋が話し終わるとすぐに池内が話しかけてきた。

「えー古寺ちゃん良いなあ。星野さんの後ろ付けるんだー」

「なんかそう見たいです。あっ池内さんが星野さんにそういう気持ちがあるんでしたら私は仕事として割り切っているので心配しないで下さい」

「古寺ちゃん、あんたまた勘違いしてない?まぁ今回は全く見当違いってわけでもないけど。
あのね今まで新人で周りのスタッフの事見えてなかったんでしょうから教えてあげるわ。
うちの店には各種商材の獲得において絶対的なエースが二人いるの。
この二人はうちの店内だけじゃなく代理店の関東エリアの中でもトップクラスの成績のヤバい人たち。独り立ちの時に高橋さんからF1の話聞かされなかった?」

「あ、聞きました」

「じゃあ話早いわ。この2人は間違いなくトップF1ドライバーっていうワケ」

「そんな人がいるんですね」

「いるんですねじゃなくて、その一人が星野君なの。鈍感ねぇ」

「なるほど。そういう事ですか。確かに星野さんすごくハキハキしてて営業とか上手そうですもんね。あっもう1人の方はまさか池内さんだったりして?」

「そう‼…と言いたいところだけど私じゃないんだなー。その人は今日出勤してないし、してたとしてもまぁ変わってる人だから真似するのはむっりーって感じね」

「そうなんですね。じゃあ今日私はトップF1ドライバーの受付を間近で見られるんですね」

「そう。マジうらやましいからね、それ」

星野の事は仕事が出来そうな人だとは思っていたが関東エリアでトップクラスとは、そこまで出来る人だったのか。

池内の話を聞き少しワクワクしながら既に売り場のカウンターで受付の準備をしている星野のもとへ向かった。

「今日は宜しくお願いします」

私がそう言うと星野は振り返った。

「うん。こちらこそよろしくね‼」

そう言ってほほ笑む星野の顔は男性アイドル雑誌の表紙のようで口角の上がった口元から覗く白い歯がまぶしい。

「じゃあさっそく受付するから見ててもらおうかな。あのお客さんの機種変更だから」

そう言った星野の目線の先にはよれよれのジャケットにこれまたよれよれのシャツを着ており、それは何色ですか?と聞きたくなるような形容しがたい色のズボンを履いたおじさんが、不機嫌そうに足をゆすっている。

「癖、ありそうな方ですね」

「うーんそうかな?まぁ見ててよ」

「いらっしゃいませ。本日はご来店頂きありがとうございます」

星野は太陽が喋る事が出来たらこんな声だろうと思わせる明るい口調でお出迎えの挨拶を伝えると受付を始めた。

受付の際中はまるで知り合いかのように話が盛り上がっていて、受付前の不機嫌な様子は微塵も見られなかった。

話が盛り上がっている最中もアリエルをさわる星野の手は止まらない。
そうこうしていると、あっという間に受付が終わってしまった。

「ふぅ。人に見られながら受付するのって慣れてないから僕が緊張しちゃったよ。どうだったかな?」
「いえ、そんな、緊張なんて全然気が付かないくらい凄かったです。受付にも無駄が無いし。何よりお客さんが楽しそうで」

「楽しそうだったかな?それは良かった‼で、今の受付の成果はこんな感じ」


星野はスタッフが受付毎に記入する個人獲得表を見せてきた。

その内容を見て私は思わず驚愕の声をあげた。

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