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ケーショガール 第8話 ①/3

志望動機のススメ ①/3

アリエルのバージョンが変わる事が知らせれたその夜。
いつもの居酒屋、手羽先が運ばれてくる。

「いやーそれにしてもこの時期の新人は災難だね」

「本当あたしだったら飛んでるわ」

「言えてる言えてる」

池内と三吉が起用に口と手を同時に動かしている。

「他人事じゃないですよぉ。カンペの書き直しの大変さ二人とも知ってますよねぇ」

「あれ?そんな大変だったっけ?忘れちゃったー」

「ちゃったー」

2人で舌を出しながらふざけている。

「まぁでもまた見直しが出来ると思えば良いじゃない」

「清野さんにそう言われたら何も言えませーん」

「そういえば古寺さん店長と2週間面談しましたか?」花は池内達と違い手羽先を器用にほぐし小皿に取り分けてから口に運んでいた。

「2週間面談って何ですか?」

「あらぁ?吉ピーから言われてなかった?うちの店は入社して2週間経ったら店長と入社する時に話した志望動機と実際に働いてみてからの仕事の印象で大きく気持ちが変わってないか話すのよ」

「そうなんですね。また面接するみたいで緊張しますね」

「全然大丈夫だよデラコ。店長機嫌良い時はただの関西弁のおっさんだから」

「そうそう、お笑い芸人と話してるくらいの気持ちで大丈夫だよー」

「ほんとですかぁ。怖いなぁ」

手羽先の骨を入れる器がいっぱいになった頃、池内が三吉に話題を振る。

「そういえばささっきの話で気になったんだけど三吉ってなんでこの業界に入ったの?」

「ふみさんなんスか急に。普通に金っスよ。うちの業界時給高いじゃないっスか。未経験で手っ取り早く稼ぐにはいいなぁと思って」

「うわ、現金な奴。まぁ分からなくもないけど、でもそれ志望動機で話したの?」

「まさか、さすがのあたしでもそれはないっスよ。ちゃんとしたヤツだと、私って歌手目指してたじゃないっすか。その夢に破れてプラプラしててもしょうがないなって思ってた時に見つけたのがこの仕事で、人前に立とうと思ってたんで接客とか向いてるかなって感じっス」

「なんかあんたっぽいわね」

「そういうふみさんは?」

「あたし?あたしはまぁ夜職から卒業してお昼のまっとうな仕事付きたいと思ってかな。接客は今までもやってきてたから出来ると思ってさ」

「夜の黒蝶から昼のアゲハ蝶になった感想は?」

三吉がマイクに見立てたおしぼりを池内に向けると、それを邪魔そうに払いのける。

「むっずかしい」

「難しいんすか?」

「そうねぇ、まず関係構築が難しいわぁ。初見でそんな仲良くなってない時からサービス提案して契約までこぎつけなきゃいけないじゃん?夜だったら知り合いみたいになれるから簡単だったのに。後は何より色恋営業が無いのがつらいわ。おじさまのお客様なんかちょっとモーションかければちょろかったのにここじゃあそういうわけにもいかないでしょ?」

「確かに。受付カウンターでお客様に色目使ってたらヤバいっすね」

「でも今は今で新しい接客技術磨くの楽しいけどね。人助けにもなるし。花さんは?」

「私ですか?え、これ順番で発表するヤツなんですか?」

「えぇ、そうなると花ちゃんの次は私が言うのかしらぁ」

「お願いします‼」

「私は世間的にちゃんとした仕事がしたかったからです」

「どゆこと?」

「うちって父も母も教師してて、兄が二人いるんですけど二人とも親の影響か公務員とか教師とか固い仕事してるんですよ。私は短大出てからも結構自由にしてたんですけど、親戚とかの集まりで肩身狭くて。だから誰が聞いてもわかる世間的に名の通った所で働きたくてイツモショップを選んだんです」
「確かにイツモショップは堅いイメージありますからピッタリですね」

わたしは頷いた。

「じゃあ次は清野さんですよ」

清野は細い腕に似合わない大きさのハイボールが入ったジョッキを置いた。

「私かぁ。私はあんまり話すような事はないんだけど、強いて言えば憧れの人がいるからかなぁ」

全員が清野の顔を覗き込む

「憧れっすか?」

「何々、それって恋愛系?」

「ううん、そんなんじゃないんだけどね。その人みたいになりたいなぁって思う人が携帯業界で働いてるから私も働いてみようかなぁって思っただけよぉ。はい私の話はおしまい」

「えー超気になるんスけどぉ〜」

「まぁまぁ清野さんがおしまいって言ってるんだから今日はここまで。深堀はまた次の機会にしましょ」

「うふふ。そうしてくれると嬉しいわ」

「じゃあ大トリはデラコだね」

「私は元々働いてた宝石の卸売りの会社をリストラされた時に、次は人に必要とされる仕事に就きたいなぁと思った事がきっかけなのと…」

「と?他にも理由があるんですか?」

「はい、ちょっと花さんと似てるのと私的にはこれが職場を決めた理由が完全に私ではないというのが不本意なのであんまり言いたくないんですけど」

「何々?焦らさないでよ」

「私、姉がいるんです。姉は小さい頃から勉強が出来て高校とかも都内で一番の進学校とかに行くような感じで」

「あら自慢のお姉さまねぇ」

「自慢だなんてとんでもないです。姉に引き換え私は勉強とかあんまり出来なかったので常に姉に馬鹿にされ続けて来たんですけど。そんな姉がリストラされてから定職についていなかった私に言ったんです――」

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